《九話》ダンジョン
彼らはタンブル港の門を出て、ソトに立っていた。やはり、魔車からの勧誘が来たが、他の街へ行く訳では無いため断った。
「まさかタンブル港の中にアジトがあるはずは無いだろう。あるとすれば『ソト』のどっかだ。」
アツシがそう言ったため、彼らはそこにいる。しかし、だからと言ってアジトがすぐに見つかる訳もない。
なんとなしにモンスターでも倒してみようか、イサムがそんなことを考えていると、聞き覚えのある、変に熱のある声が聞こえた。
「お、お前らッ!ネロ義賊団だろう!覚悟ッ!」
その後ぱったりと音が聞こえなくなった。
「あの声、パルじゃないか?」
アツシが尋ねる。
「ええ多分……。聞いた感じだと、ネロ義賊団を見つけて後先考えずに斬りかかったんですかね。」
イサムが答える。
「戦闘が終わるまで待ってみようよ。」
ユーリがそう言う。が、そう経たない内に男の喋り声が聞こえてきた。
周りを見回すと、いた。覆面の男三人が、パルを引きずっている。
「……うん。助けに行くか。」
モリーはやれやれと言った。
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面倒そうな目をパルに向け、ネロ義賊団は海岸に向かった。
そこにアジトらしいアジトは無く、四人は彼らに集中している。しかし、義賊たちが波打ち際まで歩いた瞬間、パッとその姿が消えた。
「どういうこと!?」
ユーリが思わず声を出し、彼らが消えた方向に向かう。だが、その痕跡は微塵も残っていない。
「さっぱり意味が分からないな……。少しこの辺りを調べてみようか。」
イサムの意見に皆が同意する。
……が、一向に何かが見つかる気配は無い。十五分程経った後、モリーがしびれを切らした。
「だァっ!めんどくせぇな!ここで消えたじゃねぇか!」
丁度義賊たちが消えた場所に行き、地団駄を踏む。
四人の苛立ちが募り、その表情は明らかに怒りに満ちていた。
その時、彼らの視界が歪んだ。
チャラララチャラララ……
「……なんだ?何も変わっていないじゃないか。」
アツシが少し落胆したように言う。
それはそのはずだ。今、確かに彼らは戦闘場に入った時と同じ感覚を味わった。しかし、目の前に広がる海も、足元の白い砂浜も一切変わってはいない。
「でも、服装は変わってるよ。ほら、アツシ袈裟着てるじゃん。」
ユーリが茶化すように言う。アツシは決していい顔はしない。
「という事は戦闘場には入ったのか……?でも誰にも攻撃はしてないし、敵意も……いや、敵意に似たような感情は抱いていたか。何にせよどういうことだ?」
イサムが考える。
すると、
「おい、海の中!」
モリーが叫ぶ。
先程は何も無かったら海の底に、明らかな異物が混じっている。鉄のようなもので作られた、大きな、センスの感じられない無機質な直方体。それが海の底に静かに佇んでいる。……間違いない。あの建物がネロ義賊団のアジトだ。
「あそこに行くのか……?」
アツシが不安そうに尋ねる。その扉までの距離はかなり遠く、何より深い海の底にある。
「まあ、そうなるよね……。」
ユーリも声が小さくなる。彼女は泳げず、何よりメイクが取れるのを嫌なのだ。
「でも行くしかないんだろう……ないよな?」
イサムがカチャカチャと鎧の音を立てながら、恐る恐る海の中に入る。
こんなものを着ながら泳げるのか……?彼はかなり不安な様子で一歩一歩踏み出す。
しかし、水が腰元に来た辺りで不思議な事に気づいた。水に濡れた時の、あの嫌なべっとりとした感じが無い。感覚がふわふわとした無重力のようでり、何より陸と同じくらいの速さで動く事が出来る。
「お、おい……。」
モリーが蚊の鳴くような声でイサムに話しかけるが、彼にはもはや聞こえていない。
イサムの身体は、遂に海の中へと完全に沈んだ。
そのはずなのに、息が出来る。足を地面から離し、軽く水中を蹴ってみる。通常では有り得ない程のスピードで身体が動く。左手で水をかけば動くも止まるも自由。まるで空を飛んでいるような気分になった。
「おーい!これは凄いぞー!」
イサムが水の中から三人に話しかける。その声は、水が存在しないかのように、陸の彼らに鮮明に聞こえた。
「わ、私も行ってみる!」
ユーリが思い切って走り出す。被っている帽子が脱げる事も無く、彼女もその世界へ沈んだ。
「うわー!これ凄いね!楽しいよ!」
ユーリは、その不思議な感覚に興奮しているようだ。
「行ってみるか……?」
「ああ……。」
アツシとモリーが顔を見合わせた後、よろよろと海に入る。だが、その弱気はすぐに消え去り、さっきの二人のようにはしゃぎまわった。
ある程度水中を楽しみ、彼らは本題に入る。
「いや、こんな事をしている場合じゃないんだ。早くパルを助けに行こう。」
イサムが切り出した。
「そ、そうだな。取り敢えずあの扉の前まで行くか。」
アツシが答える。
四人はするすると泳ぎながら、この現象について話す。
「でもどういう事なんだろうね。」
ユーリが尋ねる。
「本当に。確かに僕達はあいつらに対して敵意は向けていたかもしれないけど、別に攻撃を与えたり受けた訳じゃ無いからなあ。」
イサムも首を傾げる。
「多分、さ。」
モリーが口を開く。
「ここはいわゆる、『ダンジョン』ってとこなんだと思う。」
「ダンジョン?」
アツシが聞く。
「ああ。『ヒロクエ』の前作でこれに似たようなシステムがあるのさ。街や村、更にはフィールドマップとも違う。いわば、ダンジョンってのはめちゃくちゃ大きな戦闘場だ。そこに入って、ボスを倒せばダンジョンクリアって寸法さ。」
「じゃあだ。何で俺達はダンジョンに入れたんだ?俺が昔やってたゲームのダンジョンってのは、フィールドマップの上に、『ここがダンジョンです!』って感じで分かりやすく表示されてたぞ。」
アツシが再び尋ねる。
「それは……そこまでは分からねぇよ。まあ誰もこのアジトを見つけて無かったらしいし、義賊団のボスが何か細工してたんだろ。そんで、俺の地団駄という攻撃が引き金となってこのダンジョンが現れたんだろ。」
モリーは少し自慢げに言う。
「うーん。地団駄が原因になったのかは分からないけど、まあアジトに来れて良かったよ。……さあ、扉に着いた。」
イサムが軽く息を吐きながら言う。気を引き締めたのだ。
「もう既に戦闘場に入ってるって事は、僕達がいつ攻撃されるか分からないって事だ。頑張ろう。」
彼は大剣を構え、扉を開いた。
読んで下さり、ありがとうございます!
水中をすいすいと泳いでみたい……一度はそう考えますよね!
これからもよろしくお願いします!




