11.栄光への脱出、そしてそこから始まる帝国の逆襲
おうじさまはにげだした。
エドモンドはなんだかんだと時間潰しをしながら、追っ手が包囲の輪を緩めるのを狙っていたに違いない。
魔王と国王の騒動ですっかり意識が明後日の方へ行った瞬間を狙い、セレナの手を取って警戒する人間のいなくなった礼拝堂の出入り口から逃亡していたのだ。
ジョセフ達は慌てて礼拝堂を転がり出ると、通常業務をしている侍従やメイドにエドモンドを見なかったか訪ねて回る。
その結果。
「なんだ? みんな逃げたという方向がバラバラだぞ?」
聞き取りの結果がまるで整合性のないデータになった。いきなり目撃情報が当てにならず、集計担当の班が頭を抱える。
「いや、まとめた時のミスじゃあるまい」
ジョセフが首を振った。
「どっちへ行ったか、聞いただけだ。そんなに意見の割れるデータが出る筈がない」
ケネスが紙を見る。
「となると……」
「誰かが嘘をついているんだろうな」
侯爵が素振りをしながら頷く。人が集まっているところでは止めていただきたい。
「聞いた相手がいた場所と、指示した方角と、その先にありそうな施設と……ダメだ、こんなのいちいち検証していたら時間がいくらあっても足りない」
ジョセフが頭をかきむしった。こういう時に相談できそうな宰相はさっき侯爵に殴り倒された。
ケネスが手を上げる。
「なあ、一つ思ったんだが」
「なんだ?」
ケネスが聞き取りリストの相手欄を指した。
「男女別に集計して見ないか?」
「……それだ」
いそいで集計しなおし、男女と老若で四つに分類すると。
「若いメイドの証言は全員バラバラなのに、他の三つはほぼ同じ方向を指してる!」
見事に隠れていた真実が顔を出した。エドモンドに同調する廷臣がごまかしていたのだ。
「くそっ、エドのシンパがこんなに紛れていたとは……」
数の上では若いメイドが一番多いので、これなら支離滅裂な結果が出てもおかしくない。急いで他の目撃証言だけを参考にルートを追う。
「これは……エドは北の塔に向かってる! 急げ!」
「おおぅ!」
侯爵に中年組が片っ端から殴り倒されているので、若手貴族が中心になってエドモンドを追いかけようと動き始めた。原因の侯爵は先頭きって走り出している。血気に逸るあまり、振り回す長戦斧に当たって何人か吹き飛ばされているのだが……ライバルが減るのは結構だが、数を減らすのはエドを捕まえてからにしてほしいとジョセフは思った。
続こうとしたジョセフはまだ一覧を見ているケネスを促そうとした。
「いつまで見てるんだ、行くぞケネス」
「なあ、この集計なんだけどさ」
「あ? それが何だ?」
「つまり、この子たちってエドモンドが手を……」
「考えるな! 今はそれどころじゃない! みじめになるから今はセレナちゃんの事だけ考えてろ!」
北の塔は裏庭を突っ切った先にある昔の見張り塔である。今は平和な時代が続いているので、狼煙を監視する中央の塔以外は警備兵は常駐していない。
設備を良く知る老年の警備兵を連れ、ジョセフ達は塔の下に到着した。
「この上に立て籠もったか?」
「入口の鍵を開けた跡がある。埃が取れて全く時間が経ってないぞ」
「よーし、我に続け」
侯爵が扉を長戦斧で叩き壊し、気勢を上げて突入する。手に手に武器を持った若者たちが口々に「王子をぶっ殺せ!」「セレナ様を助け出せ!」と叫びながら続いた。
その後ろで合鍵を出しかけた警備兵が固まっている。
「鍵、あったのに……」
硬直する彼を無視して、ジョセフはケネスを振り返った。
「どう思う?」
「そうだな」
ケネスは塔を下から見上げた。
「狭い通路と天井の低い部屋しかない。皆が持って上がった武器は長物ばかり、人数が多いのも逆に邪魔だ。室内戦では不利だな」
「いや、そういう事ではなくてね」
ジョセフもケネスのように塔の頂点を仰ぎ見た。
「エドがこんな所に立て籠もるのが不可思議だ。セーフルームを私物化していたぐらいだ、ここにも何かしかけがあるんじゃないかと思ってな」
「あ、なるほど。だから真っ先に行かなかったのか」
ジョセフは鍵をしまっている警備兵に尋ねた。
「この中には、何か大事な物とか秘密兵器とかしまってあったりするのか?」
「え? いやいやそんな、御大層な物は入ってませんよ。戦争の時に武器や食料をため込む為の倉庫なんで、今はほとんど空き部屋です」
「じゃあエドがセレナちゃん救出隊と戦うのに、役に立つ物は何もないのか」
「そうですねえ、役に立つかどうかは判りませんが……」
警備兵が城壁の外の堀を指した。
「この塔は水のくみ上げ機構が付いてまして、いざって時に敵兵の侵入を妨害する構造になっています」
「え?」
ジョセフが聞き返している間に、塔の入り口から轟音が漏れ始め……音が大きくなると同時に水が噴き出し、大量の貴族が入ったのと逆の順番で押し流されてきた。
「中の石段がわざとすり減ったみたいな傾斜角がついてて登りにくいんですが、更に水が流されることで足を踏み外して下まで落ちる仕組みです」
「なるほど」
「いやジョセフ、なるほどじゃねえって」
ケネスがジョセフを押しのけて警備兵に聞いた。
「これはすぐに止まるのか?」
「ええ、塔の一番上が水槽になっておりまして、そこに貯めた水が無くなれば止まります」
「よっしゃ、じゃあこれで防衛機構は丸裸ってわけだ。動けるものは俺に続け!」
「おまえも、それを見越して一番手で入んなかったのか……少しは頭使うようになったなあ」
「余計なお世話だ、行くぜエドモンド!」
ケネスが剣を抜いて塔へ突入する。侯爵が誰かから奪い取った剣を持って続き、まだまだ体力有り余る武官系の若手が続いた。ジョセフが警備兵に尋ねる。
「なあ、防衛設備はもうないのか?」
「そうですねえ……私も文書で見ただけですが。何でも水を排出した時の水力を、動力へ変換してからくりを動かす機能があるみたいですよ」
「ほう」
塔の上の方でなにやら重い物が動く音がした。
「ん?」
見上げれば、壁の一部に先ほどまでなかった穴が開いている。そして水音と共に。
「エドモンドーッ!?」
「せめてヤツに一太刀浴びせ……!!」
突入部隊がそこの穴から堀へと排出されていた。ドップラー効果のかかったケネスや侯爵の捨てゼリフが主と一緒に堀の水面へと消えて行ったところで、ジョセフは警備兵にもう一回訊ねた。
「あとは何が残っているの?」
「最上階の扉をぶち破るとすぐの所に落とし穴があるぐらいですね」
「了解……ケネス、おまえは少しは頭を使うようになったけど、まだ足りないな」
我慢の足りない連中のおかげで罠は全て突破した。
「よし、本命は我々だ、行くぞ!」
「おおぅ!」
ジョセフは残った貴族たちを動員すると、塔への突入を開始した。目指すは最上階。追い詰められたエドモンドから、セレナちゃんを我が手にいただくのだ!
そして人がいなくなった塔の前。
残った警備兵はセレナちゃん救出隊が全ていなくなったのを確かめると、塔の入口に非常用の格子戸を落として封鎖した。そしてポケットからパンツを出して拝むのだった。
最後の扉を叩き壊し、最上階に突入したジョセフ達。最後の落とし穴に間抜けが一人かかったが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
なにしろエドモンドとセレナが……いない。
「どういうことだ!?」
「抜け穴があったのか!?」
どう見てもいない。
抜け穴っぽい物もない。
ケネスや侯爵が落ちた穴も来るときに確認したが、そこから外に安全に出られるような穴じゃなかった。
もしや石壁がまたもや開くんじゃないかと疑心暗鬼になったところで、壁に張りついているパイプの先端が声を出し始めた。
『おーい、ジョセフいるかあ?』
間違いなくエドモンドの能天気な声だ。
「これは、伝声管か!? てことはエドはどこか別の場所に!?」
離れた所と音声通話する設備で声が聞こえるということは、エドモンドは別の階、もしくは近くの建物にいる。
「エド、おまえどこにいる!」
『おうおう、直球で聞いてきたということはおまえも余裕が無さそうだな、ジョセフ。まあ親切な俺は素直に教えてやるか……西を見ろ』
「西!?」
慌てて数名が西向きの窓に駆け寄った。
「ジョセフ、西の塔にでかい物が……!」
「何が……」
ジョセフも見に走り、息を呑んだ。伝声管の所まで駆け戻る。
「エド、てめえ気球なんていつの間に仕込んでた!?」
『いやあ、王子の立場に嫌気がさしたらいつか城を脱出しようかなあ、なんて思って錬金術師に作らせてた』
「セーフルームといい近衛騎士の調略とい、おまえなんでこういう所ばっかり手が早いんだよ!」
『おいおい、忘れてもらっちゃ困る。俺は女にだって手が早いんだぜ』
「十分知ってるよ、クソ野郎!」
『にしてもお前もつくづく甘いな、ジョセフ。扉を開けた痕跡があったって、中に入ったとは限らないんだぜ? まあ、策士策に溺れるお前の事だから引っかかると思ってたけど』
「ち、くっしょーッ!!」
先に塔を駆け降りた者が急いで上がってくる。
「ジョセフ! 入口に格子戸が下がっていて外に出られない!」
「なんだと!?」
『おう、わざわざ知らせてくれてあんがとよ。礼拝堂で侯爵に熟年層がなぎ倒され、残りはいま堀に流れて行った脳筋どもと塔に閉じ込められたお前たち。これで俺とセレナは追っ手もなく新婚旅行に行けるって寸法だ』
「くっ、全部エドの掌の上だったって事か……!?」
『礼拝堂で侯爵無双を見て思いついた手だけどな。ジョセフ君、宰相になりたかったら咄嗟に臨機応変な計略を練られる頭が無いとダメだぞ』
「下半身一代男だけには言われたくなかった……!」
ジョセフは歯噛みするも、実際にエドモンドの戦略に嵌まっているのだから文句も言えない。
『じゃあなジョセフ。俺とセレナは旅に出る』
「お、おまえ王国の跡継ぎだろ!? 後の事はどうするつもりだ!」
『逆に訊くがジョセフ、俺がセレナと結婚して幸せに王様になる未来が今あるか? ここに』
「……ないな、確かに」
ここまでやっておいて、セレナをすんなりエドモンドの嫁になんて男性陣が素直に認める筈がない。もちろんジョセフだって。
『まあいいじゃないか。後の事だって考えているぞ、俺なりに』
「は? どういう意味……」
『そのうちに旅行土産でも送ってやるよ。それじゃあな』
「ま、待て! おい、エド!?」
皆がかじりつく窓から外を見れば。
でっかい帆布をつなぎ合わせた丸い気球の下に吊るされたゴンドラで、エドモンドとセレナが能天気に手を振っていた。それは何も問題が無かったかのような幸せなカップルの顔で……ジョセフは大変ムカついた。
城から飛んで逃げたエドモンドと連れ去られた? セレナの捜索はもう一週間になろうとしていた。
「王都近郊はもうしらみつぶしに探しているぞ!? もはやエドモンドが隠れる場所などない筈だ」
ジョセフが苦々しく吐き捨てる。ケネスが首をひねった。
「所領に逃げたとか?」
息子の発言に近衛騎士団長が首を振った。
「王子の領地など最初に探した。そもそも王子ぐらいになると現地に行った事も無いからな……現地の人間にも、匿ってくれるような知り合いなどいない」
いいアイデアは一つも出ず、地図を囲む皆は一斉にため息を漏らす。ここのところ、ずっと堂々巡りだ。
エドモンド対策本部改めセレナ嬢捜索本部で、相も変わらず人々が方針を決めかねているところへ……まさかの報がもたらされたのはその日の昼の事だった。
「陛下、急報でございます!」
喧々諤々の議論をしている大広間へ兵士が一人連れて来られた。
慌てているその男はひざまずくのももどかしく、王へ向かって叫ぶように報告する。
「大変です陛下! 叛乱です!」
「なんだと!?」
さすがにその言葉には一同ピタッと静かになる……が。
「しかし……どこが叛乱を起こしたのだ?」
国王が捜索本部を見回して聞き返す。なにしろ叛乱を起こせるような力のある貴族は、この場にもう一週間前から集まったままなのだ。
頭を下げた兵士が答えた。
「はっ、ロックフォール侯爵領です!」
「なんだと!?」
驚いて叫んだのは……そのロックフォール侯爵。当然ながら、当人はずっとここで愛娘捜索の先頭で働いていた。
「おぬし、叛乱を起こしたんかの?」
「はぁ……初耳です」
間抜けな会話をしている主従を置いておいて、兵士が詳細を語る。
「ロックフォール侯爵領ですが、数日前から『聖セレナ帝国』を名乗り蜂起、王都へ向けて進軍を開始しました。布告によればセレナ・ロックフォール侯爵令嬢を女神に戴きエドモンド王子が皇帝として政を担当するとのことです」
「なっ……あのクソガキ!!」
「まさか、敵の本拠地を乗っ取るだと!?」
侯爵が怒鳴り、国王が唖然とするが……そこまでは微妙に余裕が見えた。
ロックフォール侯爵領に二人で逃げ込んだならば確かに匿ってもらえる。親を見る限り、領地のロックフォール家の家臣達もセレナを神聖視していてもおかしくない。セレナを盾にエドモンドが言葉巧みに掌握すれば、叛乱を起こさせることも無理ではないだろう。
しかし。
いくらロックフォール家の家臣を集めても、平時に数日で動員できる兵力など二百人も居ると思えない。そんな数で王都に向かったところで、途中にいくつもある他人の領地を切り抜けてたどり着ける筈がない。現に王都には警備兵や近衛騎士団を集めれば通常でも千を越えるだけの戦力がある。急造の叛乱軍など脅威でさえない。
「領地に立て籠もるならまだしも、王都に攻め込もうとは……エドモンドにその程度の引き算ができない筈は無いのじゃが」
国王の独り言に報告に来た兵士が驚愕の返事を返した。
「聖セレナ帝国・女神様親衛隊を名乗る叛乱軍は破竹の勢いで進撃中です。攻め込まれた各領はたちまち降伏、叛乱軍に加わっています。直轄領の王国正規軍も雪崩を打って寝返りました!」
信じられない報告だった。
「何故!? どういうことだ!」
侯爵領の兵がそんなケタ外れに強いと思えない……なにしろ当の侯爵が信じられないという顔でここにいるのだ。
疑問のこもった視線を受けて、報告に来た兵士が詳細を説明した。
「はっ、叛乱軍は豪華な恩賞で兵の忠誠心を煽っております」
「なんじゃ、領地をバラまくとでも約束しておるのか!?」
兵士が首を横に振った。
「いえ! 帝国側に加わると、親衛隊の会員証がもらえるのです!」
聞こえた言葉の意味が判らず、しばし硬直する王国首脳部と極めて緊迫した顔の兵士。五つ数えるほどの時間をおいて、どこか抜けた声で王が問い返した。
「……か、会員証?」
大真面目に兵が頷く。
「はい。親衛隊に入るとシリアルナンバーの入った会員証がもらえます。会員証を持っていると親衛隊限定の女神様握手会に参加することができ、限定グッズを買うこともできます。さらに貢献度によっては精鋭部隊に配属され、女神様が直筆で一言メッセージを入れたプレミアム会員証がもらえるのです。プレミアム会員ですと月に一度行われる女神様とのお食事会の抽選に参加できます」
兵士はゴクリと喉を鳴らす。
「さらに、目立った活躍をするとイベントで直々に表彰され、着ているTシャツにその場で女神様が直筆サインを入れてくれるとのことです! さ、さらにさらに……国家英雄の表彰を受けると女神様がハグして頬にキスしてくれる権利が発生するとか! それを女神セレナが直々に呼びかけているそうです。女神の勧誘を受け各地の守備隊はほとんど戦わずに降伏し、入会窓口に列を作りました! 叛乱軍は血気盛んなうえに大変な勢いで増え、すでに五千を超えていると思われます!」
シン……と対策本部が静まり返った。
「わ、儂のセレナたんに踊り子みたいな真似をさせているとは……!?」
驚くべき内容に侯爵が頭に血が上り過ぎて倒れた。貴族たちにも動揺が走る。
「おい、早くしないと会員番号がどんどん後になるぞ!?」
「くそっ、今からじゃ四桁のうちに入れるかも怪しいな……」
「ダフ屋から買えないか!?」
「こればっかりは難しいだろう」
不穏な相談を始めている貴族たちを背に、ジョセフは目をつぶって顎をさすり、考えをまとめていた。
しばし沈思黙考し……カッと目を見開いた。
「ケネス、いい手を思いついた。俺達でエドを何とかするんだ、行くぞ!」
「おうっ!」
二人は混乱する大広間を走り出た。
ジョセフとケネスは城を出ると馬車を待たずに自ら騎乗し、叛乱軍が押し寄せて来る方へ向けて全速力で馬を走らせる。
「ジョセフ、策はあるのか!?」
ケネスの問いかけに、ジョセフはピッと親指を立ててみせる。
「ああ。とにかく敵の本陣についたら軍使を名乗り、エドの前まで通してもらう。そこまで行ければ、後はやることは簡単だ」
「なるほどな」
ケネスも全部言われなくても理解した。
「土下座して頼んで仲間に入れてもらうんだな?」
「その通りだ」
ジョセフは逸る気持ちを乗せて馬に鞭を打つ。
「急に少人数で反乱を起こしたエドには当てになる側近がいないはずだ。同志に入れてもらえれば、聖セレナ帝国の宰相に上がるのは無理じゃない」
「うむ。急激に大きくなった組織は幹部の不足が一番の課題だからな。俺も騎士団長として存分に手柄を立てて見せよう」
二人で頷きあう。
「そして大活躍してセレナちゃんの信頼を得たら」
「油断したエドモンドを後ろからバッサリ」
方針が一致したジョセフとケネスは拳を打ち合わせた。
「オーケー、完璧だ」
「くくくくく、輝く未来が楽しみだな」
(……そうしたら、その後はコイツも……)
横を走る友をちらりと見やり、視線の合った二人は嘘くさいほど爽やかな笑顔で笑いあう。
そんな二人の後ろから、凄い勢いで一頭の馬が追いかけて来た。
「なんだ?」
「あれは……国王陛下!?」
追いついてくる輝くほど美しい純白の駿馬には、先ほど別れた国王が載っていた……いや、乗っていた。王国一の名馬ともっさりしたオッサンが驚くほど似合わない。
「わはははは、先発したお主らに追いつくとはの! この分では儂が一番に着きそうじゃ!」
まさかの国王登場に二人が絶句する。
「え? 着きそうって……まさか!?」
「自分で敵陣へ行くつもりですか!?」
「もちろんじゃ!」
王が当たり前のように頷いた。
「お主らの考えなどお見通しよ! じゃが、真っ先に駆けつけるのはこの儂よ」
「いや、立場考えろよ」
ケネスのツッコミもどこ吹く風。国王はむしろ当然のように宣言する。
「いくらエドモンドが英才教育を受けていたとはいえ、経験が薄い中でいきなり国を立ち上げて四苦八苦しておろう。儂のようなしっかりした大人が後見人を務めてやらねば」
「国王が叛乱首謀者の後見人て……」
ジョセフが王都の方を指さした。
「陛下、あっちはどうするんですか!?」
「心配ない」
王が頼もし気に笑って、ビッと親指を立てた。
「王妃とロックフォール侯爵が何とかしてくれるじゃろ」
「内乱中に何言ってんだ」
「宰相もいるんじゃ、大丈夫。むしろエドモンドの方は急造だから儂が助けてやらねばな」
「なんで国王が叛乱軍の心配してやる必要があるんだよ」
「なによりエドモンドの側に参加すれば儂はフリー! 王妃に折檻される日々ともおさらば、セレナ嬢との薔薇色の生活が始まるのじゃ!」
「やっぱ日常的に……」
「だろうなあ……」
国王が愛馬に拍車をかける。
「さあ行くぞ、儂を待ちわびるセレナ嬢の元へ! エドモンドに華麗なる土下座を見せてくれん!」
「あんた国王だろ、何プライドのない事言ってんだよ」
「ふははははは! 週に二回は王妃に強要されておる儂の土下座は一級品! そんじょそこらの土下座とは一線を画す素晴らしさよ!」
「なんて堂々と情けないことを」
「週に二回も折檻されるような事をやらかしてんのかよ……」
「セレナ嬢の傍にいられるなら、儂はエドモンドの靴でも舐めて見せる所存! 貴様らにその覚悟はあるかな!?」
「冗談じゃねえ、俺のプライドにかけて犬の真似でも立派に勤めて見せるぜ!」
「ふふふ、僕だってセレナちゃんに使ってもらえるなら見事な玄関マットになって見せよう」
ジョセフとケネスも王に遅れてはならじと馬を駆り立てる。
街道を爆走する三頭の馬。
王が剣を抜き、ジョセフとケネスもそれに倣う。三人で一斉に剣を天に掲げる。
「我らセレナ嬢に愛を誓う三銃士!」
「セレナちゃんに仇なす敵を打ち払い!」
「返す刀でエドモンドの首を取る!」
「そしてセレナ嬢は晴れて、
「儂」
「僕」
「俺」
の嫁に!」
「完璧じゃな!」
「ああ、俺たちの結束のように完璧な誓いだ!」
「これ以上にない固いつながりだ!」
目が笑っていない笑顔で誓いあうと、三人は見えてきた叛乱軍の陣に向かって馬を急がせるのであった。
長々間を休んで続いてしまい、読んで下さった皆様にはご迷惑をおかけしました。やっと(作者的にはホントにやっと)終わりです。
当初の想定では、断罪をひっくり返すシーンだけの短編の筈でした。
構成的にエドモンドが婚約破棄を決意してからの根回しを入れないと断罪シーンが唐突かなと思ったのが運の尽き、まさかの十話越えになってしまいました。キャラの動くままに書いていたら冗長になってしまいましたね。すいません。
プラン当初はボケた返答をするだけの筈だった国王が何故か全裸でサンバを踊る羽目に……彼にはまったくもって悪いと思っていません。
最初は影も形もなかった宰相も、意外に出番が多くて味が出てきました。出てきた人数が多いわりにモブキャラしかいなかったので、分かりにくくてすいませんでした。