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【AIOライト 100日目 10:15 (半月・晴れ) RS1・『持久力溢れる砂漠の船』】
「……」
「「スラァ……」」
「「ヒヒーン……」」
俺たちの前でエンデュグラップラー、エンデュスライム、エンデュホースの混成軍がHPバーを枯らし、船の床に倒れていく。
「はい、戦闘終了ね。これで32だっけ?」
「うん、だいたいそれぐらいだよ」
「じゃあ、これでこの階層での稼ぎは終わりですね」
と言うわけで、グランギニョルの放った魔法によって戦闘は終了し、俺たちは剥ぎ取りを行っていく。
剥ぎ取れたアイテムは……だいたいどうでもいい物だが、このエンデュホースの骨はいいな、繋がりが見えている。
どうにかして持ち帰りたい所だ。
△△△△△
エンデュホースの骨
レア度:3
種別:素材
耐久度:100/100
特性:エンデュ(持久力を強化する)
エンデュホースの大腿骨。
馬の骨と言うとあまりイメージは良くないが、そのイメージにそぐわない程にしっかりとしている。
▽▽▽▽▽
「……」
「どうしました?会長?」
と、この階での目標を達成したにも関わらず、どうしてかボンピュクスさんが難しい顔をしている。
一体どうしたと言うのだろうか?
「あー、いやな。おんぶにだっこのウチが言うのは正直どうかと思う話なんやけど……」
「此処にいるメンバーは別にそんなの気にしないから、言って構わないわよ」
「ん、なら正直に言わせてもらうけど……みんな、気を抜きすぎやあらへん?」
「気を……抜いている?」
ボンピュクスさんはばつが悪そうに、けれど真剣な顔でそう言うと、俺たちの事を見回す。
そして、全員の表情を確かめてから、改めて口を開く。
「ウチが一人では戦えない程度の実力者やからそう感じるのかもしれへんけど。何と言うかね、余裕があるを通り越して、やる気が感じられないような戦いになっている感じがあるんよ。それでこの先に不意に強敵が現れたらと思ったらな。ちょっと不安になってな」
「「「……」」」
「さっきの戦いも周囲への警戒はあまりせずに、ギニョールちゃんの大技であっさり吹き飛ばして、終わりやったし、その前も雑談しつつ敵を処理してお終い、って感じやったろ。そんな戦い方でも問題ないレベルで敵が弱いのは分かるんやけど、ちょっと……な。ゴメンな、妙なこと言って」
ボンピュクスさんは自分の戦闘能力がリュドミラ以下である事を理解している為だろう。
本当に申し訳なさそうにしている。
だが、この意見は……
「いえ、貴重な意見ね。これは」
「そうだね。次の階層に行く前に気付いていてよかったかも」
「はい、私もそう思います」
この上なく貴重な意見と言えるだろう。
「確かに自分とか壁役なのにだいぶ気は抜いていたかもしれませんね」
「まあ、俺も特性:バーサークの発動具合が少し弱くなっていたかもな」
「アレで弱くなってたんか……」
思い返してみればこの階層での戦闘は全体的に気が緩んでいたと言えなくもない。
と言うのも、特性:エンデュの効果は持久力の上昇、つまりは休憩を挟まずに行動出来る回数を増やす事なのだが、行動回数を増やされたところで大したことが無い相手ばかりだったからだ。
これは敵のレベルに対してこちらのレベルが高すぎるのが原因であるが、だからと言って気を抜き過ぎて良い理由にはならないだろう。
特に俺とロラ助のようなタンクとして敵の攻撃を引き受ける係は。
「しかし、気を抜くなと言ってもゾッタ様たちにとっては手応えのないダンジョンなのじゃ。その辺りどうするのじゃ?」
「そうねぇ……」
問題はどうやって気を抜かないようにするかだが……『同盟の彩砂-1の洞』が適性レベルであるリュドミラとボンピュクスさんの二人はともかくとして、他五人は適性レベル以上のステータスと装備で挑んでいるのだから、普通に戦っていてはどうしても気は緩んでしまうだろう。
となればだ。
「なら、次の階層はある程度の縛りプレイをして挑むか?」
「縛りプレイ?」
緊張感を保てるような仕組みを自分たちで付けるしかないだろう。
そうして俺は全員に一つの行動を提案、了承を受けると、第二階層に移動した。
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【AIOライト 100日目 10:15 (半月・晴れ) RS1・『?凍土の?』】
「どう?」
「えーと、教えてと言われた特性でもないし、未知の特性でもないな。たぶん大丈夫やと思う。ノルマは20で、モンスターの方も……見覚えのない奴、アライアンス推奨の奴はおらへんよ」
さて、『同盟の彩砂-1の洞』第二階層である。
構造については寒さから凍土の、部屋の装飾から城か塔のようだ。
と言うわけで、まずは縛りプレイの一環としてボンピュクスさんにのみコンソールを操作してもらい、その内容を確かめてもらう。
これで著しく危険な特性及びモンスターが居なければ、攻略に支障を来たさない範囲での縛りプレイ……特性及び敵モンスターの種類が分からない状態で攻略し、基本的に戦闘はプレイヤー一人にホムンクルス二体で行うと言う特殊な探索の始まりである。
「その、本当に大丈夫なん?これ」
「大丈夫よ。私、シュヴァリエ、ゾッタ兄の三人はレア度:4に挑む事も視野に入れて良い範囲だし、ロラ助とソフィアも割と似たような物だから。それに万が一になりそうになったら、その時は助けに入るだけだから」
「ああ、あくまでも自主的な縛りプレイだからな。始めるも終わらせるもこっちの自由だ。心配はいらない」
「考えてみれば、私とマスターの場合、こっちのがいつもの状態ですしね」
「ーーーーー」
「言われてみればそうなんやけど……うんまあ、気が引き締まるならそれでええか。ウチには反対する権利なんてないしな」
そうしてリュドミラとボンピュクスさん以外の面々で適当に戦う順番を決めた上で、俺たちは探索を開始することにした。
 




