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本日は二話更新です。
こちらは二話目です。
「さて、『緋色の狩人』の連中についてはこれぐらいにしておくとしてだ。少しいいか?ゾッタ」
「ん?なんだ?」
『緋色の狩人』についての話が一通り終わった後。
ヘスペリデスの中に居る面々はそれぞれの行動を始めた。
まあ、始めたと言っても、大半のプレイヤーはまず大浴場の方に向かったようだが。
で、そんな中、ローエンは俺の前に立つと先程よりは多少緩めだが、それでも真剣な表情で話しかけてくる。
「ゾッタ、お前は同盟の彩砂についてはどの程度把握している?」
「どの程度って……共通の掲示板で書かれている程度だな。とは言え、あの文脈からしてローエンたちが何かを隠しているとは思えないけどな」
「そこまで理解しているなら、それはそれでツッコミどころがあるんだが……まあいい、どの程度お前が理解しているかの確認のために、情報のすり合わせをするぞ。こっちはこっちで還元の白枝についての情報が欲しいからな」
「分かった。ま、還元の白枝についてもだいたいは掲示板に書き込まれてある通りだけどな」
どうやらローエンは情報交換をしたいらしい。
俺としても掲示板の書き込みだけを見るのと、直接話を聞くのでは情報の内容に差がある可能性があるので、情報交換は望むところである。
「……と言う感じだな」
「なるほど。過去に入手したアイテムの再入手の容易化に修理結晶の生成、か。今後を考えるとやはり1PTにつき最低一人は所有者が居るべきだな」
「それはそうだろうな」
で、まずは俺が還元の白枝及び還元炉についての情報を出す。
と言っても、殆どはローエンが既に知っている情報だった。
「で、お前の還元炉は幾つかの条件の下に新しいアイテムも生み出せる、と」
「色々とトラブルを招く予感もするから、自分で使う分以外は信頼できる相手の為にしか作る気はないけどな」
「そうだな、その方が良いだろう。誰かさんがオークションに流してくれた素材の取り合いは恐ろしいものになっていたからな」
「……」
特殊錬金については……ローエンはほぼ正確な情報を掴んでいるようだった。
それにしてもオークションか……どうやら結構な高値で売れたようだし、今後はお金の心配はいらなくなるかもな。
うん、メンテナンス後が楽しみだ。
楽しみという事にしておこう。
「じゃあ、今度はこっちの番だな」
「マスター、お茶が入りましたよ」
「おう、ありがとうな」
「どーぞー」
「助かる」
さて、次は同盟の彩砂についてである。
と言うわけで、シアとラードーンが持って来てくれたお茶を飲みつつ、俺たちは話を進める。
「まず、お前も知っての通り、同盟の彩砂は同盟街・ウハイにある同じ名前のダンジョンをクリアすることで入手可能になり、携帯錬金炉に投入することで自分のギルドを立ちあげられるようになるアイテムだ」
ローエンの言葉に俺は静かに頷く。
「自分のギルドを立ち上げるメリットは主に三つ。分かるな」
「ああ、一つはギルド専用掲示板が使えるようになる事。ケイカの鉱山の深部でも使えるらしいな」
「そうだ。具体的に何時まで使えるかは分からないが、少なくとも通常の通信機能が使えなくなる程度の場所でなら、問題なく使える」
ギルド専用掲示板。
それは普通の掲示板の上位互換とも言える物であり、ケイカの鉱山の深部……掲示板機能やメッセージ機能が封印されていた場所でも使えるらしい。
なので、これがあれば今までより深い場所に行っても、他のギルドメンバーからの助言や、別行動中のギルドメンバーとの連携がやり易くなると言う事になる。
「二つ目は倉庫機能の解放。携帯工房が開ける場所でなら、制限つきではあるが何時でも手に入れたアイテムを倉庫ボックスと言う安全圏に置ける」
「貴重品の回収が楽になるってのはデカいよなぁ」
「そうだな」
倉庫機能の開放。
これがあれば、錬金術師ギルドのような安全圏でなくても、倉庫ボックスが使えるようになる。
制限としてプレイヤー一人につき一日5個までしかアイテムのやり取りが出来ないようだが、再入手が難しそうな貴重品を死に戻りによって失う可能性が大きく減らせるのは大きい。
「三つ目はギルドサポートの発動。個人的にはこれこそがギルドを立ち上げる最大の理由になると思う」
「まあ、他二つ以上に影響が大きいしな」
ギルドサポートの発動。
これは分類:素材のアイテムを消費することで、ギルドメンバー全員に対して24時間効果がかかり続けるバフデバフをかける事が出来るという物である。
「バフデバフの内容は特性とレア度に依存。だったか?」
「ああそうだ。と言ってもレア度についてはよほどの特性でなければ誤差の範囲だがな」
流石にギルドメンバー全員にかかるという事もあって、バフデバフの効果量そのものは控えめである。
また、かけられる内容についても、特性依存なので、最大で二種類までと言う事になる。
だが、それを考えてもなお、ギルドサポートの恩恵は大きいだろうが。
「そんなわけで、例えギルドメンバーを自分一人だけにするにしてもギルドを立ち上げること自体は非常に有用だと言える。俺も攻略組の大半を参加させる目的で『菫青石の踏破者』と言うギルドを作ったが、それとは別にPTメンバーが作ったギルドにも参加しているからな」
なお、同盟の彩砂による自作ギルドには、『巌の開拓者』などの錬金術師ギルドとは別に、最大で二つまで参加する事が出来る。
なのでローエンも自分が立ち上げた『菫青石の踏破者』とは別にサポート目的で所属しているギルドがあるようだ。
ちなみにギルドサポートについては効果時間が残り一時間を切った時点で効果を切り上げて、新たなアイテムを消費することが出来るようになっているらしい。
「さてと、だ。ここまで話をした上で、ゾッタ。俺はお前に一つ交渉を持ちかけたい」
「交渉?」
と、此処で再びローエンが真剣な表情をする。
「お前も知っての通り、ダンジョンの方の同盟の彩砂はアライアンス前提のダンジョン、つまり何かしらの特殊な方法を利用しない限り、最低でも二人以上のプレイヤーが必要になるダンジョンだ」
「……」
ローエンの言う事は正しい。
事実として、同盟の彩砂はそう言うダンジョンになっている。
だから俺は現地で適当なPTに混ぜさせてもらおうと考えていた。
「だから、俺のPTがお前に同行する。そして、その見返りとして、還元炉を使ってアイテムを一つ作ってほしい」
「作ってほしいアイテムの内容は?」
「特性:ワクチンのアイテムだ。『菫青石の踏破者』のギルドサポートとして、特性:ワクチンは常時発動が可能にしておきたい」
「分かった。そう言う事ならこちらから頼みたいぐらいだ」
「そうか、なら」
だがどうやら、そんな必要はないらしい。
なにせ攻略組の中でも特に実力があるであろうローエンたちが協力してくれることになったのだから。
「ああ、よろしく頼む」
「こちらこそよろしく頼む」
そして俺たちは握手を交わした。
 




