479:90-4
本日は二話更新になります。
こちらは一話目です。
【AIOライト 90日目 12:13 (1/6・晴れ) 同盟街・ウハイ】
同盟街・ウハイ。
そこは街の周囲に広がるサバンナと砂漠と言う過酷な環境に対応するべく、巨大な一枚岩の中をくりぬいて作られた都市である。
住居の形状こそは他の諸都市とさして変わらないが、採光用の穴から射し込む少量の日光と街の各所に見られる水晶の類、それに岩のドームを支える巨大な柱と言う組み合わせはウハイ以外では決して見られない物だろう。
さて、そんなウハイだが、当然ながら現在は廃墟であり、プレンゴーレム、プレングローバグ、プレンアントといったモンスターがうろつく危険な都市である。
そのため、安全圏となるのは幾つかある岩の柱の内の一本、その根本にある錬金術師ギルド・ウハイ支部の内部だけであった。
「ウハイ……ようこそ。自由に……使って。同盟の……彩砂……欲しいなら……ダンジョンに……行く事……以上」
で、そんなウハイ支部を管理するホムンクルスだが、鉱山街・ケイカ、還元街・サハイのホムンクルスと比肩する程度には独特だった。
具体的に言えば、言葉は途切れ途切れで、性別は分からない。
衣装は厚手のローブを全身に巻き付けており、体形は分からない。
顔の部分も黒い靄のような物がかかっていて、目の部分が赤く光っていること以外は分からない。
まあ、早い話が分からないだらけだった。
「じゃ、ヘスペリデス展開します」
さて、ウハイについては一先ずこれぐらいにしておくとしよう。
今の俺たちにはもっとやるべき事があるのだから。
と言うわけで、転移ポータルの登録を済ませた俺は、不審人物が居ない事を確認した上でヘスペリデスを展開、番茶さんたちを招き入れたのだった。
----------
【AIOライト 90日目 13:02 (1/6・晴れ) 同盟街・ウハイ-ヘスペリデス】
「さて、腹も満たされ、全員思考も感情もだいぶ落ち着いてきた頃合い。そろそろ話を始めようか」
「そうだな。それがいいだろう」
ヘスペリデスの中での昼食。
いつぞやの宴会と同じように、俺たちは東屋の周囲で食事をし、会話をした。
そして、昼食が終わる頃、番茶さんが切り出し、ローエンがそれに続いた。
「今日、我々の前にはGMが用意したものとは別の敵対勢力が現れた。ギルドの名前は『緋色の狩人』。『AIOライト』がクリアされた後に備えるギルドだと言うが……はっきり言おう、連中はただのPK集団であり、我々を敵と見定めて行動している。そして、それ以上に……連中はテロリストの予備軍でもある」
「「「……」」」
番茶さんの言葉に全員が真剣な表情で頷き、真剣なまなざしを返す。
「一番分かりやすい対抗策は襲ってきたところをきっちり返り討ちにした上で、とっとと『AIOライト』をクリアしてしまう事だろうな。そうすれば、連中は現実世界で事を起こしたくても起こせなくなる。事を起こすための準備が整っていないんだから」
「ま、そうだよな。相手がプレイヤーって事で逡巡しちまう奴も居るかもしれないが……」
「ぶっちゃけ、PKとして襲ってきた時点で人型のモンスターと変わらない。そう思った方が適切だろうさ」
ローエンの言葉にマンダリンとクリームブランの二人が続く。
まあ、実際問題として、攻略組で人型の相手である事を理由に刃を振るう事を躊躇うプレイヤーは居ないだろう、でなければここまで来れないのだから。
そして、『緋色の狩人』としても相手が抵抗してくれなければ訓練と言う大義名分が成立しないのだから、攻略組以外が襲われる心配もしなくていいだろう。
「同時に現実世界の方でも動くべきでしょう。『AIOライト』プレイヤーを支援してくれる集団も、元『AIOライト』のプレイヤーも現実には居る。彼らの力で私たちが帰った後の状況を整えておいてもらえれば、『緋色の狩人』はそれだけで大義名分を失いますから」
「そうだな。幸いにして次のメンテナンスまで後三日。意見をまとめておく事も、どういう風に働きかけをするのかを考えておく事も出来るだろう。まあ、この辺りは私に任せて欲しい。もう気づいていると思うが、私にはそっち方面へのコネがある」
ソフィアと番茶さんの言葉に他の面々が何度も頷く。
現実世界については……まあ、俺に出来る事はないな。
せいぜいが海月さん経由で脅しをかけるくらいだ。
そして現実世界への働きかけは『緋色の狩人』としても望むところなのだろう。
彼らにとって武力蜂起は目的ではなく方法であるはずなのだから。
「残る問題は……」
「『緋色の狩人』のギルマスについては俺個人にご執心の様なんで、そこまで気にしなくても大丈夫だと思いますよ。表に出て来る事がまず無い上にあの能力なんで、ゲーム上で追いたくても、追える相手ではありませんしね」
「そうだな。あの男についてはそうするしかないか……」
『緋色の狩人』のギルマスであるMPKについては現状どうする事も出来ない。
なにせ顔も名前も瞬時に変えられる上に、瞬間移動、他者の使役、未来予知と、人間の枠の中で考えるならば最悪と言う他の無い組み合わせの手札を所有しているのだから。
おまけにゲームの仕様内で動いている限りは、現実世界含めてGMは保護せざるを得ない。
逆に言ってしまえばゲーム終了後ならばどうとでも出来るわけだが……まあ、今は考えないでおくか。
「ではこれで……」
「いや、もう一つ訊いておくことがある」
と、ここで話を切り上げようとした番茶さんを遮って、ローエンが俺の前にまで来る。
その表情はとても真剣な物であり、一切の嘘偽りを許す気がないという物である。
「ゾッタ。修正前の日本政府との契約ってのはどんなのだったんだ?『緋色の狩人』の武力解決を第一とするやり方に賛同するつもりは全くないが、それでも一応聞いておきたい」
「……。ま、話すなと言われた覚えはないし、話すか」
そしてローエンの求めに応じて俺は海月さんに最初に見せられた契約書の内容を話した。
で、その結果。
「なるほどな……『緋色の狩人』の連中が言う備えが必要の意味が良く分かった」
「……」
「「ないわー」」
ローエンは怒り心頭言った表情になり、番茶さんは天を仰ぎ、マンダリンとクリームブランは呆れ以外の感想が出ないという顔をし……
「うふ、うふふふふふふふふふふふ……」
ソフィアに至ってはそれだけで人を呪い殺せそうな笑みを浮かべ、背後に居る二人のホムンクルスの内、金髪赤目の方を酷く怯えさせていた。
もう片方の銀髪に緑目の方は一緒に笑みを浮かべているが……たぶんソフィアの同類なだけだな、これは。
「番茶さん」
「ああ、ああ、言われなくても分かっている。どうやら私の想像以上に外の人間は愚かだったらしい……」
「本気でお願いします。ウチの国でこれなら他の国は推して知るべしなんで」
「言われなくてもそうさせてもらうよ……」
ま、この件については番茶さんに胃を痛めてもらうしかないだろう。
いざという時には……まあ、軽くなら力を貸してもいい。
その程度の力なら俺にはあるのだから。




