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【AIOライト 70日目 08:37 (半月・雨) 始まりの街・ヒタイ】
「隔離されたか」
レンタル部屋に入った瞬間。
俺は今居るこの部屋が、『AIOライト』の何処とも繋がりを持たないように変更されたのを感じた。
まず間違いなくGMの仕業だろう。
GMはミデン……より正確に言えばミデンと繋がりを有しているアレがどういう物なのか正しく認識しているのだから。
「ーーーーー」
「ん?問題は何も無いぞ。むしろありがたいぐらいだ」
ネクタールが少し心配そうにしている。
が、俺の抱いた感想はネクタールが抱いた思いの真逆であり、GMのこの措置は嬉しい物だった。
何故ならば、この部屋が『AIOライト』から切り離されたという事は、この部屋の中で何があろうとも、シアたちに影響が及ぶことはないと言う事になるのだから。
ミデンの危険性を知る俺としては非常にありがたい話である。
「さて、それじゃあ準備を始めるぞ」
「ーーー!」
俺は必要なアイテムを倉庫ボックスとインベントリから取り出すと、ネクタールを展開。
部屋の壁を完全に覆い尽くし、最初から用意されている家具の類も見えないようにする。
その上で外部からの光を遮断。
そしてネクタールの内側に新月の夜のような光景を……無数の星々だけが輝くような空間を投影して、まるで宇宙空間のような世界を作り上げる。
「ふんっ」
俺は魔力の放出を開始。
ネクタールの内側を俺の魔力で満たす。
「すぅ……はぁ……」
さて、此処から先はほんの僅かなミスも許されない。
それこそシアを生み出した時と同じように、だ。
だから俺は深呼吸をし、慎重に精神を、肉体を、魂を整えていく。
そして全てが十分に高まったところで俺は動き出す。
「ミデン!」
俺はまず携帯錬金炉・ミデンをインベントリから取り出すと、部屋の中心部へと正確にそれを設置。
それと同時に、ミデンが俺自身と周囲の空間に存在している魔力を吸収し始める。
「核と結界石!」
続けて俺は結界石と防御するホムンクルスの核をミデンに投入。
本来の携帯工房作成手順では、ここから表示されるメッセージに従って操作を進めていけば、工房を生み出す事が出来る。
が、当然ながらそんな手順は全て無視する。
「八尺円棍、一里吼札、五寸鬼瓦!」
俺はミデンに八尺円棍を突き入れる。
発動する直前にまで魔力を注ぎ込んだ八枚の一里吼札を投げて、俺とミデンの周囲へと等間隔に設置。
そして五寸鬼瓦を填めた左手をミデンの中へと押し込む。
さあ、言うべき言葉は既に分かっている。
後はそれを間違えないだけだ。
「我が名は錬金術師ゾッタ。危険なる熱を以って肉を為し、安全なる炎を以って望みを叶えるもの」
ミデンの中に大量の魔力が吸い込まれていくと同時に、俺の正面に配された一里吼札の一枚が赤黒い魔力を放出しつつ弾け飛ぶ。
「此度望むは守護の白石と守りの菫青石交わりて生まれる地。最果てにして都、始まりの地にして終の地、楽園、煉獄、冥府交わり統べられし地」
二枚目の一里吼札が弾け飛ぶ。
「世界支える柱となるは千呪喰らいて万華為す黒曜の大樹。その枝葉は雨風喰らい、その根は大地を縛る」
三枚目の一里吼札が弾け飛ぶ。
「柱支えるは百災招きて千呪為す八つの波。一里に及ぶ遠吠えは我を知らしめ、その調和は内に静寂をもたらす」
四枚目が弾け飛ぶ。
「彼の地彩るは万華集めて一が為とする小さき鬼。彼の鬼は無限に喰らいて、無限に捧げ、彼の地を楽園の名に相応しきものにし続ける」
五枚目、だが急いではいけない。
焦ってもいけない。
間違えれば、全てが潰える。
「扉となるは我が半身、我が肋骨、神の酒の名を冠し、千変万化するもの、普く喰らいて我が力とし、我が道を切り開き守るもの」
六枚目の一里吼札が弾け飛ぶ。
既に部屋の中の魔力は限りなく薄まっている。
「彼の地が起源はゼロの名を持つ炉。全ての始まりにして、全てが終わる場所。内に黎明と共に在りしものが一滴を秘めし杯」
七枚目が弾け飛ぶ。
俺自身の魔力はもう殆ど無く、存在自体を吸われ始めている。
だがそれでも恐れてはいけない、歩みを止めてはいけない。
元々、いずれは誰もが何時かは出会う相手なのだから。
それが居ることを知った上でなお歩んでこその俺なのだから。
『認めよ。抗え。改めよ。貫け。従えよ。止まるな。静まれ。暴れろ。鎮まれ。荒ぶれ。調べ乱れ調和し混迷し形を成せ成すな』
八枚目の一里吼札が弾け飛ぶ中、俺は意思のみを以って最後の言葉を紡ぐ。
『此処は外なる世界。虚無と混沌が狭間に在りて、森羅万象紡がれる領域。三千世界が果ての果て。さあ、我が前に顕現せよ……ヘスペリデス!』
それは黄金のリンゴの樹が在るとされる楽園の名。
そしてその名を告げた瞬間……
「ーーーーー!?」
「ぐっ!?」
ミデンから大量の魔力が溢れ出す。
その勢いは凄まじく、俺もネクタールも一瞬堪えることすら出来ずに吹き飛ばされていく。
「だが……」
だがこれこそが待ち望んだ反応。
上手くいった事の証明。
周囲の空間が見た事のない風景に変わっていくのを認識しつつ、俺は意識を失った。
05/25誤字訂正




