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【AIOライト 65日目 16:00 (2/6・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】
「……」
俺はその時が来るまで回復力溢れる刻の雫と狂戦士の空の器を手に持って、錬金鍋の前で静かに目を瞑り、自分の中で魔力を高め続けていた。
「来た」
「キャア!?」
そしてその瞬間が来たと俺が感じた瞬間。
俺は錬金鍋に二つのアイテムを投入すると同時に左腕を突き入れ、高めていた魔力を一気に注ぎ込む。
すると錬金鍋の中身は一気に沸騰。
周囲へ向けて大量の熱風を生み出す。
「シア、距離は十分にとっておけよ」
「い、言われなくてもです」
熱風は俺が居る場所では火傷しそうなほどに熱いが、シアの居る場所では温風程度になっている。
が、この先もそうであるという保証はないため、ネクタールをシアに投げ渡しつつ、距離を取るように言っておく。
「さあ、始めるとしよう」
さて、そうしている間に俺の魔力は十分馴染んだ。
だから始めることにしよう。
「我が名は錬金術師ゾッタ。機を吸い、好機を巡らせ、危機を息吹くもの」
俺は魔力を錬金鍋の中に注ぎ込みつつ、言葉を紡ぎだす。
それと同時に、俺の左手小指に着けられたエクナック・フォ・エフィルの黒輪の表面が少しだけ溶け出して、既に姿が見えない程に溶けてしまった二つの素材と混ざり合っていく。
「万象受け止める器とするは千変する黒にて彩られし杯。唯一人で猛り狂い己を貫き通す狂戦の杯。新たなる世界への門となる黒杯」
錬金鍋の中の液体が激しく渦巻きつつ、俺の魔力に反応するように脈打ち、明滅し始める。
「森羅融かす液となるは我が魔に跪きし魔銀と千呪を吸う大樹の葉の力を受け継ぎし雫。それは万恨を呑み込む暗き黒き紅の雫であり、一の意によって結ばれ、束ねられし蘇芳の海」
その色は時には黒く、時には赤く、時には虹色に輝き、見る者の視覚に激しい情報の波を叩きつけてくる。
「杯と海を繋ぐは我が魔と我に因果の端を発する危機の残滓。それは刹那を永劫とし、永劫を刹那とする特異点であり、黒と白の境界。隠世と現世の狭間。有る者と無き者の交差点にして分岐点。因果すら亡き者とする終末点」
だが何も問題はない。
飛び散る液が空中で複雑な文様を描き出して俺の脳裏に多種多様な情報を強制的に押し付けてこようとも、視覚に対して物理的な暴力を振るってこようとも、雑多な音をかき鳴らす事で俺の聴覚を封じてこようとも、腐敗にして芳醇であり興奮と不快を組み合わせた匂いを漂わせようと、あらゆる痛みを思わせる傷を全身に与えてこようとも何も問題はない。
その全ては俺の周囲でのみ起きている現象であり、俺自身が何も問題はないと知覚し、ねじ伏せてしまえば無い物と同じなのだから。
いや、むしろ好都合ですらあった。
これほどの災禍の中に在っては、語ってはならぬ俺の言葉がシアにまで届く事は決してないのだから。
「危機と好機は紙一重である。勇気と蛮勇は異なるものである。始まりは終わりに連なると同時に、終焉こそが創生の起点である。故に堕ちよ。全てが収束する一点へ。故に重なれ。終焉迎えし黒き星がように」
俺は結界を張るように、自分の周囲に一度魔力を展開。
そして、展開した魔力を徐々に収束させていき、俺の周囲で巻き起こっていた災禍を俺の魔力の中に封じ込めていく。
そうして封じ込められた魔力は収束を続け、錬金鍋の中から上げた俺の左手の中に納まるような大きさの球体になる。
その色は混沌を思わせる黒であり、僅かに鮮血を思わせる赤が混じっている。
『「認めよ。抗え。改めよ。貫け。従えよ。止まるな。静まれ。暴れろ。鎮まれ。荒ぶれ。調べ乱れ調和し混迷し形を成せ成すな」』
俺の口から不思議な形で……二重音声のように声が紡がれていく。
勿論、俺の口は一つしかないので、そんな事は有り得ないのだが、そうとしか思えないように言葉が響き、球体は少しずつその形を変えていく。
『汝が連なるは根源が一、虚無。それは混沌と相対し、変化を伴侶とするもの』
いや、既に俺は口で言葉を発していなかった。
口ではなく魔力で言葉を発していた。
その言霊が含む大いなる力に耐えきるためには口ではなく、より俺の魂に近い箇所で発しなければならなかったからだ。
『矮小なる我が身なれど、汝を生み出せし幸運に我は巡り合った。故にその幸運に感謝し、我は御身に名を捧げよう』
理解している。
これは人が扱っていいものではないと。
理解させられている。
これは俺が使うには過ぎた物であると。
理解するまでもない。
それでもなお俺は進まなければならない、と。
だから俺は真なる名を知りつつも、仮の名を捧げる。
「我が前に顕現せよ」
それはギリシャ語でゼロを現す言葉。
真なる名に連なるも異なる名。
「ミデン!」
「「!?」」
その名を告げた瞬間。
俺の左手の内にあった球体は弾け飛び、中から捻じれた六角柱の底に細い持ち手を付けた、黒、銀、赤の三色で彩られた杯が膨大な魔力と情報の嵐の中現れる。
「ふんっ!」
そして俺はその嵐がシアの下に辿り着くよりも早く左手を振るい、ミデンを手に取り、インベントリの最奥へと仕舞い込む。
それと同時に、魔力と意思による封を行い、外界へとミデンの影響が漏れ出ないようにする。
「マ、マスター。錬金は……」
「勿論大成功だとも。レア度:PMの携帯錬金炉。作成成功だ」
そうして安全を確保した所で、俺は何も問題はないという笑顔を浮かべつつ、シアの言葉に応えた。
04/27誤字訂正




