322:63-3-R3-X3
「ま、自らを省みて、道を正そうとする機会を奪われた可能性……人生最大の好機を奪われたかもしれないという点についてだけは認めておこう。神ならぬ身である俺にはその辺りは分からないからな」
エクナックを始末した俺はその場で膝を折り、エクナックの頭部に填まっていた黒い輪を再構築によっていつの間にか傷どころか汚れ一つ無くなった左手で拾い上げるべく、指の腹で触れる。
「っつ……ま、これぐらいは受け入れてやるか」
すると、俺の左手に僅かにだが痛みが走る。
そして、それを皮切りとするように、俺の左手……いや、左腕全体が再構築前の肉体に合せるように傷つき、焼けていき、酷い火傷を負ったのを自然に治したような歪な腕に変化していく。
どうやらエクナックの最後っ屁に、再構築前の俺の左腕と今の左腕の間にある差異に対するつじつま合わせが重なった結果として、再構築のついでで治してしまった左腕がダメージを受けたらしい。
まあ、血は流れていないし、何故傷が治ったのかを説明するのも面倒だったしな。
痛みだけでその面倒を回避できるのなら何も問題はない。
「ん?」
と、此処で俺は気づく。
俺の左手の中指に、見慣れた……けれど、この場にあるはずのない黒い指輪……エファス・フォ・エフィルの黒輪が填まっている事に。
「んー……まあ、問題はないか」
恐らくだが、これもエファス・フォ・エフィルの黒輪が特殊なアイテムだからなのだろう。
つまり、俺が今手に持っているエクナック・フォ・エフィルの黒い輪も、同様のアイテムである可能性が高い。
俺がそう思いつつ、手に持ったエクナックの輪のサイズを縮小して、小指に填めた時だった。
「ちょ、まっ、メンテナンス中のゲームに干渉するんじゃニャイ!?あ、ちょ、にゃあああぁぁぁ!」
「ん?」
まずGMの慌てた声が何処からともなく響き、そのまま気配ごと消え去った。
メンテナンス中がどうとか言っていたが……まあ、俺が気にする事では無さそうだな。
「社長!ヘルプ!!ヘルウウゥゥプ!!」
「結界を!早く結界をおおぉぉ!!」
「んん?」
海月さんと見知らぬ少女は大いに慌てていて、虚空に向かって何かを必死に訴えていた。
すると、その訴えが通じたのかは分からないが、海月さんの前に紙が一枚現れると同時に、この病室の空気が微妙に変わったのを感じる。
いや、空気が変わっただけではなく、病室の中と外、その間にある繋がりを断たれた感じもあるな。
なるほど、これが結界と言う物なのか。
「た、助かった……本当に助かった……」
「はぁ、始末書一枚で済むなら本当にありがたいもんだ……」
海月さんと見知らぬ少女はとても安心した様子を見せている。
と言うか、あの少女、魔法少女みたいな外見をしているのに、喋り方はまるで男みたいだな。
うーん、海月さんの髪が水色になっている件含めて、色々と不思議だ。
「と、そうだ」
と、此処で俺は自分のスマホの事を思い出し、スマホがあるであろう場所に目をやる。
あのGMの事だからスマホはただの媒体でしかないのだろうけど、それでも今シアが眠っているのはスマホの中。
先程までのやり取りで何も問題が起きていなければいいが……と、思っていたのだが、どうやら杞憂であったらしい。
「うん、問題なさそうだな」
ベッド横の棚の上に俺のスマホは置かれていた。
そして、そのスマホの周囲には見えない壁のようなものが張られているように感じた。
この病室に今展開されているものほどではないようだが、どうやらGMが事前に結界の類を展開していたらしい。
うん、今度GMに会えたら感謝しておこう。
「コホン、さて、そろそろいいかな。藤守君」
「どうぞ。海月さん」
と、ここで海月さんが一度咳払いをし、衣服を正した上で俺に話しかけてくる。
なので俺も、話をする事が問題ない事で有るのを示すように、ベッドの上に乗ると、その場で胡坐をかく。
「ではまずは改めて自己紹介から。私の名前は海月報。またの名をスパイン=コンプレークスと言う。そしてこちらは私の相棒で、ロウィッチ=コンプレークスと言う」
「どうも初めまして。藤守粟太さん」
海月さん……いや、スパインさんは、ロウィッチと言う名前の少女と一緒に軽く頭を下げる。
「ふむふむ。それはつまり、そう言う事でよろしいので?」
「まあ、そう言う事だ。この髪の色、それに先程のエクナックへの対応からも分かるように、我々は人間ではない。GM側の存在ではないが……交渉や協力が出来る位置には居る」
どうやら二人の髪の毛は地毛であるらしい。
そして伝わってくる雰囲気や魔力からも、二人が人以外の何か、少なくとも人間と言う枠を超えた存在である事は伝わってきた。
まあ、実際問題として、俺みたいに直接狙われているのならともかく、普通の人間が横からエクナックには対応する事は無理だもんな。
それを考えたら二人が人間でない方が納得がいくというものだ。
「そして、その上で言わせていただきたい。我々はエクナック・フォ・エフィルから君を守り切る事が出来なかった。すまなかった」
「すみませんでした」
「はぁ……」
と、二人が大きく頭を下げる。
俺としてはもう終わった事なのでどうでもいいのだが……二人にとってはそうもいかない事であるらしい。
困惑する俺の前で頭を下げ続けている。
「んー、とりあえず色々と聞きたい事があるんで、頭を上げてもらっていいですか?」
「分かった」
とりあえず、今の俺に必要なのは情報だ。
とにかく情報を集めなければどうしようもない。
俺はそう判断すると、スパインさんから色々と話を聞くことにした。
04/06文章改稿




