271:54-8
「マスター。どうしましょうか」
「んー、とりあえず確認だな」
錬金術師ギルド・ケイカ支部。
全身鎧のNPCは確かにそう言った。
だが、機能の大部分は使えなくなっているとも言っていた。
「ちょっといいか?」
「なんでしょうか?」
と言うわけで、俺は全身鎧のNPCに近づき、確認をする事にする。
「今、ここケイカ支部で使える機能は何がある?」
「色々とあります。尤も、どれも十全に使えるわけではありませんが」
そう言うと全身鎧のNPCは俺たちを奥へと促す。
どうやら一つずつ説明してくれるらしい。
「まず、ここケイカ支部は敵性存在に認識されない結界の中に存在しています」
「結界……」
「ただし、完全な物ではなく、ギルドに入る姿を敵性存在に見られれば、ギルド内への侵入を許す事になります。なので、現在当ギルドでは敵に見つかっている状態では建物内に入れないようになっています」
「ふむ……」
「なるほど」
まず安全圏としての機能。
これは不完全ながらも機能しているらしい。
つまり、宿としては使えるという事だ。
「次に倉庫ボックス。こちらはほぼ完全に使えます」
「ふむ」
「が、一定量以上を一度に取り扱うと機能不全を起こし、暫く使えなくなってしまいます」
「……」
俺は全身鎧のNPCに促されて、倉庫ボックスを調べてみる。
すると普段通りの画面に加えて容量の表示があり、50個以上のアイテムを一度に出し入れできないようになっていた。
ただまあ、50個も出し入れできるなら問題はないだろう。
「修理結晶の生成装置。こちらは万全ですので、レア度:3までなら無償提供できます。が、レア度:4以上の物については有料となります」
「ん?」
「これ、ヒタイのよりもむしろグレードアップしてませんか?」
「そうなのですか?私はトウの地を知らないのでよく分からないのですが」
修理結晶の入手についてはむしろよくなっていた。
レア度:4以上は有料と言ってはいるが、値段も特に変わりない。
ありがたい話だ。
「転移ポータル。此処から何処かへ飛ぶことは出来ませんが、恒久的な登録は可能です」
「なるほど」
「ヒタイには帰れないんですね」
転移ポータルである天秤は微妙に傾いた姿だった。
まあ、飛べるなら問題はないな。
問題はないが……いい加減ヒタイに帰還するためのアイテムぐらいは欲しいかもしれない。
とりあえず、登録はしておく。
「残りの機能といたしましては……私個人の機能として、携帯錬金炉の修復を行う事が出来ます」
「携帯錬金炉の?」
「はい、お客様一人につき、一日に一度だけですが。携帯錬金炉の耐久度を完全に回復する事が出来ます」
ふむ、これはありがたい話だな。
通常、携帯錬金炉の修復には他の錬金設備が必要になる。
だが、見た限りではケイカ支部にはその錬金設備が無い。
それの代替としての機能なのだろうが……ありがたい事には変わりないな。
「じゃあ早速頼んでも?」
「勿論です」
と言うわけで、俺は全身鎧のNPCに携帯錬金炉を渡し、修復をしてもらう。
これでまた暫くの間は大丈夫だな。
「ケイカ支部に残っている機能は以上となります」
「なるほど」
で、どうやらケイカ支部に残っている機能はこれだけであるらしい。
んー、ギルドショップ関係が完全に死んでいるのがツラいと言えばツラいかもしれないが、一通り必要な機能は揃っているという印象だな。
ギルドショップでのアイテムの売買は無くてもどうにかなるものだしな。
「とりあえずどうにかはなる。と言う感じですね」
「そうだな。ただ……ずっと留まり続けるには色々と厳しくはあるな」
だが、あくまでも当座を凌げるだけだ。
旅の一時拠点としては十分だが、拠点とするには色々と足りないし……危険すぎる。
「んー……幾つか質問してもいいか?」
「私に答えられることならば」
とりあえず折角話が出来る相手と出会えたのだから、可能な限りの情報収集もするべきだろう。
「ここ……ケイカでしか手に入らない物とかあるか?」
「手に入らない物……かつては坑道で結界石を採掘することが出来ました。今、掘り出そうと思うならば、坑道の奥まで行かなければいけないでしょうが」
「結界石?」
さて、早速気になる話が出てきたな。
結界石か、名前から幾らか想像出来るが、どういうものだ?
「結界石と言うのは迷宮の深部にて手に入る菫青色の真球と錬金することによって、自らと敵対する存在が入れない領域を造り出す神秘の石です。ケイカも、ウハイも、サハイも、だいたいの都市では用いられていたアイテムでした」
「なるほど」
菫青色の真球と言うのは、ホムンクルスの核の事だろう。
ただネクタールの時は欠片で、シアの時は真球だった事を考えると、自動生成ダンジョンのボスをプレイヤー一人にホムンクルスたちだけで倒す事が条件なのかもしれない。
それに、ウハイとサハイと言う名前が出てきたが……たぶん、街の名前だろうな、これは。
「ああ、念のために仰っておきますが、今更ケイカを取り戻そうなどとは考えないでください。都市規模の結界を貼ろうと思ったら、結界石も菫青色の真球も途方もない数が必要になりますから」
「……」
一応、ケイカ全体に結界を貼り直す事は出来るらしい。
個人でどうにかなるレベルでは無さそうだが。
「なるほど。話は分かった。質問に答えてくれてありがとうな」
「いいえ、それが私の役割ですから」
とりあえず今後の方針は定まったな。
「シア。明日からだけど……」
「結界石の確保とダンジョンの攻略ですね」
「ああ、もしかしたら自分の拠点が手に入るかもしれないからな。ここは目指してみるべきだと思う」
「分かりました。がんばりましょう」
「ーーーーー!」
俺とシア、それにネクタールはお互いに頷き合うと、明日に備えて休み始めるのだった。
■■■■■
【AIOライト 54日目 23:30 (1/6・晴れ) ???】
「あー、あー、チェクチェク。マイクチェック。よし、問題なし」
「『AIOライト』開始から丸54日になります。では、現在の状況について口頭にて記録を行います」
「まず、外部からの干渉によってプレイヤーに危害が加えられるという緊急事態が発生しました。既に事件は解決しておりますが、緊急事態に変わりはなく、今後も同様の事例が発生する可能性は非常に高いと思われます。なお、緊急事態の詳しい内容については別に記録:54-Zo1を製作してありますので、そちらを参照してください」
「例の要注意プレイヤーについてですが、現実の肉体につきましては多次元間貿易会社コンプレークスの社員、スパイン=コンプレークスの監視下にありますので、何かしらの異常があれば連絡が来る事になっています。ですので、そちらについては任せてもいいでしょう」
「精神面については……記録:54-Zo1にて報告してあるので、そちらをご確認ください」
「パイライト・ドームの攻略者については徐々に増えています。順調に行けば、直に首架け橋を越えるプレイヤーの数は増える事でしょう」
「首架け橋以降は一種のフリーシナリオ。よって表面上では攻略の停滞も考えられます。が、気長に待てばいずれは目的は達せられることでしょう」
「では、今回の記録を終わります」
第5章終了でございます。




