229:47-3-E3
「……」
繋がりの中に居る『青葉の根張り』が動く。
右から左へ、左から上へ、周囲の木々に寄生するように出ている青い芽の間に存在する繋がりの中を高速で移動している。
なるほど、前回はよく分からなかったが、こういう風に移動していたのか。
つまり『青葉の根張り』の特殊な移動能力は、正確には瞬間移動能力では無かったという事か。
尤も、これだけ速ければ、瞬間移動と大差はないが。
「止まったッ」
やがて『青葉の根張り』の動きが止まる。
そして、青い芽から、二つの葉の間から、こちら側に出てくる気配がした。
だから俺は『青葉の根張り』が居る青い芽に向かって一直線に駆ける。
『消し飛び……』
『青葉の根張り』の姿が現れる。
その手には既に光り輝く槍が握られており、投擲の体勢にも入っている。
対する俺はと言えば、斧を当てる為には後一歩か二歩足りないという所だった。
つまりこのままでは『青葉の根張り』の攻撃が一方的に決まる事になる。
「すぅ……」
『な……』
だから俺は右手の斧を縦に振りつつ集中する。
集中して、意識して、斧に与えている加速度はそのままに……入れ替える。
「はっ!」
『しゃが!?』
手の中の斧をネクタールに持たせてあった八尺円棍に。
そしてそのまま殴打する。
斧では届かない距離であるからと油断していた『青葉の根張り』の頭部を。
『ぐっ……何が……』
『青葉の根張り』のHPバーは大きく削れ、残り20%程になっている。
攻撃の衝撃によってか、握っていた光り輝く槍は霧散している。
「お……もっ……」
だが俺も追撃は出来なかった。
握っている八尺円棍の重さが尋常ではなかった。
明らかに同じサイズの鉄棒以上の重量を有している。
重すぎて、俺自身が両手で持つだけでなく、ネクタールと力を合わせて、その上で遠心力を生かすように横に振らなければ、振れる気配はせず、戻すのにも同じくらいには意識の集中が必要そうだった。
なるほど、これが負の感情を集めた影響と言う事か。
「ぬおりゃあぁぁ!」
「ーーーーーー!」
だが追撃はしなければいけない。
俺はそう判断すると、ネクタールと力を合わせて、無理矢理八尺円棍を横に振る。
『舐めないで』
「ちいっ!」
進路上に在った樹の幹を粉砕しつつ、八尺円棍は『青葉の根張り』へと向かっていく。
だが、八尺円棍がその頭部を粉砕するよりも早く『青葉の根張り』は青い芽の中に移動。
八尺円棍は木製の棒とは思えない音を立てつつ地面を抉り、動きを止める。
「ネクタール、戻すぞ」
「ーーー」
攻撃が外れたのを確認した俺は、『青葉の根張り』の移動先を目で追いつつ、武器を八尺円棍から斧に戻す。
そして少し呼吸を整えてから、『青葉の根張り』を追って走り始める。
「……」
『青葉の根張り』の残りHPは20%程。
『赤紐の楔打ち』と違ってHPを回復する力は無いようだから、時間を稼がれてもMPを回復されて、次の魔法を問題なく打ちこめるだけだ。
そして、そうやって『青葉の根張り』が時間を稼ぐなら、それだけ俺のHPは回復し、呼吸も整い、何の問題もなく次の攻撃を打てるようになる。
つまり、条件は一緒と言っていい。
問題は……
「ちっ、速い!」
『青葉の根張り』の移動速度が速過ぎて、まるで追いつける気配がない事。
既に八尺円棍の事も知られているし、迂闊に間合いに入ってくれる事もないだろう。
「動きが止ま……」
と、ここで繋がりの中に居る『青葉の根張り』の動きが止まり、外に出てくる。
『蜂の巣にしてあげる』
「っつ!?」
ただし、白い光の粒を自身の周囲で無数に浮かばせながら。
自身の両手を俺の方へと向けながら。
「ネクタール!!」
「ーーーーー!!」
俺は咄嗟に斧の尖っている部分と短剣を近くの樹の幹に突き立てつつ、足を幹にかける。
そしてネクタールが地面に向かってガードデーモンスピアを突き出すのに合わせて跳躍。
一気に3メートル以上跳び上がる。
「「!?」」
直後、俺とネクタールの下を何百と言う光の粒が『青葉の根張り』から見て樹の影になっている場所も残さず、幾度と進路を折り曲げながら突き抜けていく。
伝わってくる空気の震えからも分かる。
もしも下に居れば……確実にやられていた。
俺数人分の命を散らせるのに十分な威力を光の粒の群は持っていた。
だが危機はまだ過ぎ去っていなかった。
『逃がす気は……ない!』
「っつ!?」
『青葉の根張り』は跳び上がった俺に向けて、既に光り輝く槍を投じていた。
槍は真っ直ぐに、俺の方へと向かって来ていた。
「『カース』!」
『ぐっ!?』
避けようと思えば、ギリギリで避けられる可能性は有った。
だが、俺が避けようとする前に、何処かで身を潜めていたシアの『カース』が『青葉の根張り』に直撃。
『青葉の根張り』に状態異常:カースを付与することに成功する。
「……」
光り輝く槍が俺に向かって迫る中、俺は不思議と冷静に考える。
槍を避けた場合にここからどう詰めるのかを。
槍を避けずに受け止めた場合、どの程度のダメージを受けるのかを。
そして、俺が生き残った場合に、状態異常:カースによるダメージをどれだけ与えられるのかを。
そうやって冷静に考えた結果。
「ネクタール!」
俺は斧と短剣を構えつつ、少しだけ身を捩る。
ネクタールもガードデーモンスピアを構え、攻撃に備える。
「ぐっ……」
槍が突き刺さる。
強烈な不快感が俺の身を襲い、HPバーが一気に減っていく。
「だが……」
そしてHPバーの動きは残りわずかなところで止まり……
「勝った!」
『アアアアァァァァ!?』
状態異常:カースの反射ダメージによって『青葉の根張り』のHPバーは消し飛んだ。




