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【AIOライト 42日目 06:57 (1/6・雨) 『呪詛招く草原の図書館』】
「御馳走様でした」
「お粗末様でした」
翌朝。
『呪詛招く草原の図書館』内で一夜を過ごした俺たちは朝食を取り終えると、探索の準備を整え、立ち上がる。
「さて、夜の間には誰も入ってこなかったみたいだな」
「良い事……何ですかね?」
「現状では何とも言えないな」
『呪詛招く草原の図書館』の一室目は、特徴のない部屋だった。
本を読むためであろう机と椅子は幾つか用意されていたが、それ以外にはダンジョン外に通じる白磁の扉と、ダンジョン内に繋がる木製の扉以外には何も無かった。
床は木張り、壁と天井は白い壁紙で、ダンジョン名である呪詛招くの要素も特にはない。
そんな特徴のない事こそが特徴と言わんばかりの部屋だった。
「まあ、何にしても攻略すると決めたんだから、攻略を開始しよう」
「分かりました」
俺は木製の扉に手をかけ、一気に開け放つ。
「これは……」
「なるほど。草原の図書館ですね」
そして扉の向こうに広がっていた光景に俺は思わず息を飲む。
扉の向こうには見渡す限りの草原が広がっていた。
だが何処までも一様に草原が広がっているのではなく、幾らかの起伏と、部屋代わりであろう石造りの建物、それに草原に脈絡もなく置かれている本棚があった。
なるほど、これは確かに草原の図書館である。
「雨が降っているんですね」
「まあ、見るからに屋外だしな」
空はあいにくと黒い雲に覆われ、雨粒が落ちて来ている。
が、もしも晴れているならば、綺麗な青空が広がっていたのではないかと思わせるような光景が地上には広がっていた。
なお、雨については気にしなくてもいい。
シアは雨具を装備しているし、俺はネクタールが雨具の判定になっているので、ネクタール自身も含めてペナルティはなしである。
「モンスターは……何でしょうね?あれ」
「んー……駝鳥……っぽくは見えるな」
さて、地形の確認が済んだところで、次はモンスターの確認である。
幸いにして、遮蔽物らしい遮蔽物が殆ど存在しないこの空間では、モンスターの姿を捉える事は難しくなかった。
「駝鳥?」
「簡単に言ってしまえば、巨大なチキン種だな」
「なるほど」
シアの目に妙な光が宿った気がするのは気のせいにしておくとしてだ。
この場から見えるモンスターの影は2種類。
一つは巨大な鳥で、こちらは一体から三体の群れで草原を駆け回り、時折立ち止まっては周囲の様子を確認している。
もう一つは俺の腰ぐらいの身長しかなさそうな小人で、こちらは正確な数は分からないが、少なくとも一集団につき四人はいそうな感じだった。
で、これらのモンスターが、お互いに最低でも100メートル以上は離れて行動しているようだった。
これならばこちらが戦っている姿は確認できるだろうが、無理に乱入してくることは無さそうである。
「それでどうしますか?」
「んー、探索を並行しつつも、まずは俺たちだけで戦えるかだな。無理なら奥に進むべきではないし」
「分かりました」
「じゃ、まずはあの建物を目指そう」
「はい」
さて、モンスターの確認も終わったところで、探索開始である。
と言うわけで、俺たちはどう見ても数キロメートル四方はありそうな草原の中から、俺たちの背後にあるのと似た建物を見つけると、そちらに向かって歩き始めた。
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「「「ゴブゴブ……」」」
「来たか」
「初戦闘ですね」
歩くこと暫く。
俺たちの前に緑色の肌に粗末な造りの防具を身に付け、不揃いの金属製の武器を握った小人の集団が現れる。
名前はカースゴブリン、数は5、レベルは15、15、16、16、19か。
こちらに向けて武器を構えている事からも分かるように、マーカーは既にアクティブである。
「じゃ、やりますかね」
「はい!『癒しをもたらせ』『大地の恩寵をその身に』!」
と言うわけで、先手必勝ではないが、俺は斧と短剣を抜くと、シアの魔法を受けつつカースゴブリンたちに向かって突進を開始。
それと同時に、ネクタールによるヘイト集めを行う。
「「「ゴブー!」」」
対するカースゴブリンたちも、一斉に武器を構え、ヘイト通りに俺に向かって突っ込んでくる。
そこには知性のような物は見られず、とにかく囲んで手に持った武器で相手を殴ればいいと言う思想が見て取れた。
だが、その思想は単純であるが故に厄介な物である。
「アハハハハハッ!」
「ゴブッ!?」
「「「!?」」」
だから俺は特性:バーサークを発動すると、一番手近な場所に居たカースゴブリンの顔面に斧を叩きつけた。
そして即座にその場で横回転し、ネクタールに持たせた短剣でカースゴブリンたちを切りつけつつ牽制。
「オラァ!!」
「ゴバッ!?」
そこから横回転の勢いを乗せた斧を、最初に殴ったカースゴブリンの頭に再度振り下ろす事で、そのHPを大きく減らす。
さあ、これで機先は十分に制すことが出来た。
「さあ、来いよ。ゴブリン共」
「「「ゴ、ゴブー!」」」
後は何処か破れかぶれな様子のカースゴブリンたちをひたすら惹き付けつつ、削り倒すだけである。