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「本題はアイテムの買い取りと見てもらいたい物がある、やったね。どっちからでもええよ?」
「じゃあ、買い取りからで」
「分かったわ」
俺はトレード画面を出すと同時に、直接目でも鑑定できるようにインベントリの中に入れていたアイテムを外に出す。
そしてボンピュクスさんもトレード画面を出し、それを俺の物と繋げる。
これで後は合意を示せば、その時トレード画面に入れておいたものが交換されて、トレード成立である。
「あ、私の持っている物も出しておきますね」
「おおきにー」
と、シアもインベントリからアイテムを取りだす。
その結果として俺たちがいる部屋の中はだいぶ狭くるしい事になっているが……まあ、何とかなっているようだし、問題はないか。
今はボンピュクスさんの鑑定が終わるのを待とう。
「ふむ、一通り見させてもらって、計算もしたけど……ざっとこんな所かな」
十数分後。
ボンピュクスさんから買い取りの金額が提示される。
「え?」
「ん?」
「ん?少なかった?」
で、思わず疑問の声を上げてしまった。
「いや逆ですって、いいんですか?」
ボンピュクスさんから提示された金額はギルドショップでこれらのアイテムを売った場合のおよそ1.3倍。
ギルドショップ以下と言う事はないと思っていたが、高くても1.1倍ぐらいじゃないかと思っていた俺たちとしては想定外の値段だった。
その驚き様と言えば、ネクタールが表面を蛍光色に変えた上で波打せているぐらいである。
「心配せんでも、今の需要と供給を考えたら、これでも十分に儲けが出るから安心し」
「そうなんですか?」
「せやで」
そう言うと、ボンピュクスさんは今のプレイヤーたちの大まかな需要について話してくれる。
で、それを簡単に纏めるならばこんな感じだ。
・レア度:2の鉱石と鋳塊:最前線の装備の素材として普通に需要がある
・レア度:2のキルデッドバードの羽根:耐寒装備としてダウンジャケットなどを作る研究がある
・レア度:2の各種骨:骨細工を好むプレイヤーが居て、大量に求めている
・レア度:1の各種素材:双角の主に挑むために錬金レベルを上げざるを得なくなった戦闘職たちが求めている
・キルデッドクロスハンマー:単純に武器として性能が良い
なお、壊れた装備品については、ギルドショップで売る値段の1.1倍で買い取っているとの事だった。
うん、妥当だな。
「でまあ、素材の種類的にも一回り高値で買い取る理由はあるんやけど、それ以上に特性:キルデッドなのも値が付く理由になっとるね」
「と言いますと?」
さて、需要についての話はまだあるらしい。
特性:キルデッドが良いらしいが、それはどういう事だろうか?
「ゾッタ君には関係のない事かもしれへんけど、アンデッド系のモンスターに苦手意識を持っているプレイヤーって少なくないんよ」
そう言うとボンピュクスさんはワザとらしく体を震わせる。
たぶんだが、ボンピュクスさん自身はそう言うのが大丈夫な人だな。
「えーと、それはつまりはゾンビやスケルトン、ゴーストなんかが見るのも嫌だって事ですか?」
「せやね。見るのも嫌、触るのも嫌、でも戦わないといけない。だから、その手のモンスターに対して特攻を有するようになる特性:キルデッドの素材の需要は他の特攻系特性と比べて高いんや」
「少しでも楽に倒せるように……ですか」
「まあ、そうでなくともアンデッド系のモンスターは面倒な能力持ちが少なくないし、手こずると碌な事にならないモンスターばかりやからね。需要は尽きへんのよ」
「なるほど」
言われてみれば確かにアンデッド系のモンスターには厄介な能力持ちが少なくない。
ゴースト種なんて、物理攻撃を無効化してくるぐらいだ。
「じゃ、納得できたならトレードしてな」
「あ、はい。分かりました」
そうして買い取りの金額に納得できたところで、俺は何度かに分けてボンピュクスさんとのトレードを行い、買い取りを無事に済ませた。
「さて、後は見てもらいたい物がある、やったか。出してみてくれる?」
「あ、はい、これです」
俺はボンピュクスさんに促されるままに、インベントリから不死殺しの石ころを取りだし、机の上に置く。
「ふむ、不死殺しの石ころか。アイテムの詳細部分には特に変な所はないな。手にとってもいいか?」
「勿論大丈夫です」
「ありがとな」
ボンピュクスさんは不死殺しの石ころを手に取ると、様々な方向から見たり、軽く振ったり、表面を指でなぞったりする。
その表情は真剣としか称しようのないものであり、こちらとしては物音ひとつ立てるのも憚れるような雰囲気を醸し出していた。
「……。確かに何か違和感があるな」
「ありますか」
「うん、ある。何となくやけど、重さや重心、材質なんかが、普通の石ころとは違う感じがする」
そうして数分後。
ボンピュクスさんによる鑑定が終わり、不死殺しの石ころは机の上に置かれる。
そして、どうやら俺と同じようにボンピュクスさんも不死殺しの石ころから何かしらの違和感を感じ取ったらしい。
「……」
ボンピュクスさんは少し悩んでいる様子を見せる。
で、十分に考えが煮詰まったらしいところで口を開く。
「ゾッタ君、提案なんやけど、この石、割ってみてもいいか?」
それは石の中に違和感の正体になるような何かがあると言う考えを俺に伝えるものだった。