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『うーん、ゆっくりだけど確かに出来るわね』
『本当か?』
『俺は全然だめだな』
『私もだ』
『あ、これ便利だね。やり易いし』
『うわっ、俺より速い……』
思考と視線によるインベントリ操作についての反応と、試した結果は全員違った。
具体的に言えば、シュヴァリエ、俺、グランギニョルの三人が、速さに差はあれど動かせた。
だがブルカノさん、トロヘル、番茶さんの三人はまるで駄目だった。
この差が何処から来るかは分からないが……まあ、例の繋がりだとか、レア度:PMの作成経験だとかはまったくの無関係なのは確かだ。
でないと、シュヴァリエが一番速く操作できて、ブルカノさんが全く動かせないなんて結果になるとは思えないしな。
「さてマスター、これからどうしましょうか」
「そうだな……」
で、現在だが、俺とシアはギルドの自室にて待機している。
『防御力溢れる蛸狼女の王』との戦闘で蓄積した精神面の疲労がまだ残っている可能性もあるというのも理由の一つだが、それ以上に情報と物の整理をする必要があったからだ。
「アイテムの作成は……まあ、新しいホムンクルスの作成以外に出来る事はないな」
「素材については私が持っている分は残ってますよ?」
「素材があっても、強化のしようが無い。手に入れた素材もレア度:2で俺たちの装備に使われている装備もレア度:2だからな。出来る事と言えば、消耗品の作成ぐらいだけど……それにしても手に入れた素材じゃ、ちょっと微妙かもな」
俺はまず自分とシアのインベントリを確認、その後倉庫ボックスに移動させる。
俺の方は奇箱・普喰に投入してしまったために、残っているのは奇箱・普喰に入らない素材以外のアイテムだけだ。
対するシアの方には、『防御力溢れる清流の船』の探索中に採取したアイテムと剥ぎ取ったモンスター素材の一部が入っている。
が、これらはすべてレア度:2で、装備の素材としては微妙であるし、一部を除いて使い道としては消耗品の作成以外には無さそうである。
「情報の方は……ああ、上がってるな」
「本当ですか?」
「ああ」
俺は掲示板の画面をシアにも見えるようにした上で拡大。
赤紐の間について書かれたスレを表示させる。
「えーと……」
「……」
「何か微妙な情報しかない気がするんですけど」
「まあ、こういう時の先遣隊ってのは、基本的に貧乏くじを引く事になる人間の事だからな……」
スレには碧玉の板に触れた後どうなるかが書かれていた。
で、その情報によれば、大方の予想通り、ボスとの戦闘になるらしい。
「そう言う物なんですか」
「そう言う物だ」
ボスの名前は『赤紐の楔打ち』Lv.20。
見た目は黒い全身鎧を身に付けた身長3メートルほどの大男で、武器は両手に持った黒い杭のようなもの。
杭は片方の先が尖っていて、もう片方には赤い紐のような物が結ばれているらしい。
杭のような物と書き込んだプレイヤーは言っているが、一応は両手に持っているのが楔なのだろう。
実物を見てみなければ、何とも言えないが。
「ふうむ……」
で、情報はほぼこれだけだ。
『赤紐の楔打ち』がどういう攻撃をやって来るのか、どういう特殊能力を持っているかについては一切語られていない。
どうやら、楔で突いたり殴ったりはするようだが、そこまでだ。
それ以上の情報は何も無い。
尤も、それ以上の情報が無いという点から、『赤紐の楔打ち』の攻撃力の高さ、あるいは攻撃から逃げたり防いだりを許さない何かがあるという事は読み取れる。
「とりあえず防御力上昇のバフは必須だな」
「じゃあ、挑む前に特性:リジェネだけではなく、特性:ガードも付けたパイは必要ですね」
「ああ、間違いなく要る。で、その上で、薬か何かでのバフも乗せるべきだな。そうすれば、瞬殺される事は無くなるはずだ」
俺は『赤紐の楔打ち』に先行して挑んだプレイヤーの顔ぶれを思い出す。
彼らは……うん、タンク役以外はどの立ち位置のプレイヤーも居た。
物理攻撃特化も、魔法攻撃特化も、回復特化も、支援特化も居たはずだ。
自分の記憶がちょっと怪しいので断言しきれないが、そのはずだ。
だが、その何れもが殆ど何も出来ずに敗れているとなると……何かしらの面倒な能力を持っている可能性を考えた方が良さそうだな。
「後は……どうしたものかな」
「少しでも戦力を増やす為にホムンクルスを作るのは駄目なんですか?」
「うーん、とりあえず現物を見てみるか」
俺はシアの提案も受けて、『防御力溢れる蛸狼女の王』との戦闘で得た、防御力溢れるホムンクルスの核を倉庫ボックスから取り出してみる。
△△△△△
防御力溢れるホムンクルスの核
レア度:1
種別:素材
耐久度:100/100
特性:ガード(防御力を強化する)
ホムンクルスの核となる菫青色の物体。
自動生成ダンジョンのボスたちが所有しているが、正体は不明。
傷一つ無い完全な球形を為している核は非常に稀である。
※入手者以外の所持不可能。
▽▽▽▽▽
「ん?欠けてる?」
「欠けてると言いますか、これはもう欠片ですよね」
防御力溢れるホムンクルスの核は、楔のような形をした菫青色の宝石であり、シアを作成する際に使った柔軟なホムンクルスの核とは、似ても似つかない形をしていた。
レア度:1については偶然と言うか運と言うか、そう言う物として不思議ではないが、なぜこんな形状をしているのだろうか?
いや、この際、その点については気にしないでおこう。
それよりもだ。
「ふうむ……」
「あー、見えてます?」
「まあ、見えてるな」
何故例の繋がりがあるのだろうか。
それも防御力溢れるホムンクルスの核、棘刀・隠燕尾、奇箱・普喰、骸套・三手千織だけではなく……
「……」
「マスター?」
俺の肋骨とも繋がる形で。