第3話 好きなあの子とウォーロック
いよいよ、ダンジョンに入る時がきた。
外界とダンジョンを隔てるゲートをくぐると、まずコンクリート打ちっぱなしの広い空間が現れた。地主の宗田林業がダンジョンの入口を、挑戦者の準備に便利なように改造したそうだ。
猫の手旅団以外にも、複数のパーティがダンジョン侵入の準備をしているのが見えた。
エントランスに足を踏み入れた瞬間、パーティメンバーたちの姿が変わった。
猛流はプレートアーマー、左手のカイトシールド、右手には鎖にトゲトゲの鉄球がついたモーニングスター。
神威は白地に赤い神聖なマークが刺繍されたローブにカドゥケウスを模した片手杖。
北本はダークブラウンのハードレザーアーマーと身長の二倍はあろう槍を。
「ダンジョンに入ると、最後に装備していた武器防具が自動的に装着されるんだ。だからダンジョン来るときは何も持ってこなくていい。アイテムも腰にぶら下がっている四次元ポーチから取り出せる」
便利な話だ。あまりにも挑戦者に都合のいいシステムにすら思える。
そんな中、梨菜だけが、制服のまま巨大な斧を持っていた。
「私もちゃんと変身したよ。ほら」
そう言いながら、梨菜はスカートをめくった。
見ちゃいけないと思い、咄嗟に顔を背けるが、「見ても大丈夫だよ」という梨菜を信じて首を戻す。
「じゃーん、スパッツを履いてるのでしたー♪」
スカートの中身はパンツではなく、黒いショートスパッツだった。
「さすがにパンチラしながら戦わないよぉ。杉原のエッチ」
なぜかスケベ認定をされてしまった。しかし、梨菜の、黒いスパッツから伸びる白い太ももは目に焼きついた。これではエッチボーイだと思われてもしかない。希夢は赤面してしまった。
「私は制服を見た目固定しているからね。実際はちゃんと鎧着てるんだよ?」
見た目固定すると、どんな装備をしようと、ロックした見た目が優先されるらしい。梨菜は「制服で戦う美少女戦士」に憧れていたので、制服で固定したそうだ。
「ねえ、それより杉原のクラスってなんなの?」
「そういえば……初期装備が出てこないな」
普通、ダンジョンに入ってクラスが決まった時に、そのクラスに応じた初期装備が出てくるはずらしい。
しかし、希夢の手にはなにも握られず、見た目も入ってきた時と同じく黒いTシャツにジーンズのままだった。腰には四次元ポーチがついていたが、それ以外何も出てこない。
想像していた、梨菜を守る剣と盾は出てこなかった。本当に着の身着のまま、パーティメンバーに囲まれて立ち尽くしていた。
「こんなことあるのか?」
首を傾げる猛流の隣で、神威が四次元ポーチから石のタブレットを取り出した。
「初期装備 出てこない」
神威がタブレットに向かって話しかけると、タブレットの前面が光り、予想される答えが返ってきた。
■初期装備が出てこない場合、考えられる状況は以下の三つです。
1.クラス認定機能のエラー。
2.装備の蒸着が間に合わなかったとき。
3.クラスが精霊使いだったとき。
「「「なんだって!」」」
「まさか、ウォーロックなのか……」
「初めてみたかも…」
パーティメンが唖然とする中、
「本当にレアクラスだったんだ。こりゃ傑作だ」
北本は手を叩いてゲラゲラと笑い出す。
「ろくにしゃべれない陰キャにウォーロックなんて務まるのかよ」
なぜ、小馬鹿にされるのかわからない。北本が希夢を嫌っているのは分かるが、それ以上に蔑まれている気がしてならない。
「ウォーロックというのは…」
神威が言う。
「言葉を力にするクラスなんだ。例えば俺のようなヒーラーやウィザードは単音呪文だけで魔法が発動する。ターゲットも視線が通れば魔法がかかる」
「だが、ウォーロックは違う」
猛流が言葉を続ける。
「長い呪文が必要なんだ。ウィザードがサンダーと叫べば敵に電撃が落ちる。ヒーラーがキュアと言えば傷を治せる。しかしウォーロックは違う」
神威がタブレットを見せてくる。
■ウォーロックの呪文とは?
ウォーロックの呪文は万物に宿る精霊に話しかけることで発動します。そのため、精霊との会話と発声が必須になってきます。
そして、精霊と会話が通じて決定した時、呪文は形となるのです。
例をあげましょう。あなたの目の前に二匹のゴブリンがいたとします。
あなたは右側のゴブリンに炎の攻撃をした時、「右のゴブリンにファイア」と唱えるはずです。しかし呪文を唱えている間に左右が入れ替わってしまうと、呪文を唱える際に左側にいたゴブリンに炎の呪文がさく裂することになります。
もっと具体的な特徴、例えば髪が赤いとか、モヒカンなどがあれば、それをターゲットとして呪文を放てば攻撃の精度があがります。また、同じ火の魔法でも、精霊に詳細を伝えれば種火のような小さな炎でも、大爆発でもコントロールが可能になります。
しかし、より詳細に呪文を形にするなら、より長い呪文が必要となります。
すべてはあなたが、どのように精霊と会話するかにかかっているのです。
「運用があまりに難しい上に、このクラスになれる人が少ない。ウォーロックになれる条件すら分からない。だからウォーロックはレアクラスと言われるんだ」
神威は首を横に振りながら、バケットハットを深くかぶる。
「こいつ、学校でも黙ってばかりなんだよ。ウォーロックなんてできるわけないよ」
北本は吐き捨てる。
「なあ、りなっち。こいつクビにしてココネ呼んでこようぜ。やっぱ無理だよ、杉原なんて」
「私はそうは思わない」
梨菜は力強い目つきで北村を見返す。
「だって、杉原国語得意だもん。いつも教科書見せてくれるから分かる。杉原はしゃべらないだけで、頭の中ではいろんなことを考えているはずだよ」
ねっ?と、梨菜は希夢の顔を覗き込む。
「ウォーロックが最弱と言われるのはイマジネーションを言葉にできる人が少ないからだ」
猛流が腕を組む。
「逆に言えば、イマジネーションを言葉に変えられるなら、ウォーロックは最強のクラスになれる」
そう言いながら、ドンと希夢の背中を叩く。
「どうだい、杉原君。せっかくレアクラスになったんだ。これも挑戦と思って、頑張ってみないか」
「俺……」
梨菜の方に顔を向ける。弱気になっている希夢に、梨菜は「大丈夫」と言って、小さなガッツポーズに可愛い笑顔を浮かべた。
イマジネーションを形に変える。
読んだ本から、遊んだゲームから、聞いた音楽からインスパイアを受け、様々な空想を浮かべることがある。
まるで自分が本の登場人物、ゲームの主人公、音楽を奏でるミュージシャンのようになったような気持ちになって妄想にふける。
獣になったり、竜になったり、ロボットになることだってある。空も飛べる。海の底までも。
もちろん、魔法使いになり、強力な魔法で何かを破壊する夢想したこともある。
様々な夢想が形になる。形にできる。
思ったことを形にする。
まさに自分にピッタリではないかと思えた。
「やってみます」
「よく言った。我が猫の手旅団は、改めて杉原君の加入を歓迎するよ!」
猛流はモーニングスターを腰に差すと、希夢の手を握る。
ガントレットに包まれた、ひんやりとした猛流の手だった。
(つづく)




