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聖騎士団の眉目秀麗男子、茶館で働く  作者: 書庫裏真朱麻呂


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12、妖精王オーベロンは、喜劇を演ずる者を嘉す②

 邪竜アヴァルスの怒りを買い、その左の頭に無残に呑まれたと思われた鳥の一族の舞い手、シェーン。だが実のところ、彼はアヴァルスに呑まれてなどいなかった。

 何故なら、彼はアヴァルスが茶館に辿り着いた時には既に真紅の剣に姿を変え、ハワード卿の立つカウンターの陰に隠されていたからだ。

 アヴァルスが呑み込んだのは、ディエンが呪術符によって呼び出した神虎に、シェーンが自分の姿と声、それから僅かばかりの魅了を持たせる魔法をかけて造り上げた偽物だった。

    *        *

 オーベロンがアイスクリーム製造機を持って来た日。

 全員による華夏の果物の試食が落ち着いた頃。彼らはオーベロンからこう聞かされた。

「皆、落ち着いて聞いてくれ。実は、大司命の伴侶たる女神、少司命の魂が、アヴァルスの腹の中に閉じ込められている可能性がある。彼女を先に救出しなければ、アヴァルスの討伐は不可能だ」

 ハワード卿が尋ねた。

「神の魂が、何故そのような目に?」

 オーベロンもその問いについての完璧な答えは持っていなかった。

「華夏の神々は時々、人間の暮らしの様子を見るために、人間の身に仮初めの転生をすることがあるんだそうだ。だが千年前、人間に生まれるために魂の状態で地上に降りた少司命は、そのまま行方が分からなくなったらしい。以後千年もの間、最上位の神の一柱である彼女の夫でも見つけ出すことは出来なかったんだとか。それが最近になって、少司命の気配が州連合の東部沿岸から北部連邦に向かって近付いて来ているように感じられると言うのだから、まずアヴァルスの腹の中と見て間違いないと思うんだが。……オシアン、お前さんはどう考える?」

 オシアンは、しばらく何かを思い出そうとするかのような様子をした後、ああ、と頷いた。

「それは、アヴァルスを造り出した古き魔女の一人で、自らを『魂狩りのアクィリア』と称していた魔女の仕業に違いない。肉体を持たぬ魂を魔法陣で強制召喚して捕らえることを得意としていた魔女だ。先日、かの魔女と対峙した際に、神の魂さえも強制召喚出来るなどと豪語するのを聞いたが、どうやら事実だったようだ。千年前、かの魔女は少司命の魂を強制召喚し、アヴァルスに呑ませたのだろう」

 オーベロンは腑に落ちないという顔をした。

 「魂の状態でも上位神を守る神聖障壁は発動するだろう。よくアヴァルスの奴は少司命を呑み込めたな?」

 オシアンが、今度は間を置かずに答えた。

 「魂狩りのアクィリア」は、少司命の魂がアヴァルスの胃に収まる間だけ、神聖障壁を抑える魔法で包んでいたのだろう、と。

「かの魔女は、とりわけ我らの同胞を数多く手にかけてきた個体だ。我ら猫型妖精(ケット・シー)が肉体を持たぬ清らかな魂を無事に転生先に送るために用いる『魂包みの魔法』の術式を密かに盗んでいたとしても、不思議ではない」

 

 それからの数日間で皆が考えた作戦は、次のようなものだった。

 アヴァルスの胃の中で『魂包みの魔法』を発動させ、聖なる武器でアヴァルスの皮膚に脱出の陣を刻み、アヴァルスの体内に神獣を侵入させて救出する、と。

 作戦の骨子が決まると、彼らは食事を共に取りながら、あれこれと意見を出し合った。

 オシアンが「魂包みの魔法」を仕込んだ料理を、アヴァルスに機嫌良く食べさせるためにはどうすべきか。

 少司命の魂を救い出す神獣はどうするか。

「シェーンを呑ませるのは論外だ。火焔狐を呑ませては、リューが万全の状態で戦えなくなる。華夏の神獣で、出来れば肉体を持たぬものが望ましい」

 オシアンがそう言うと、ディエンが手を挙げた。

王爺(ワンイエ)、私の神虎では如何でしょうか?」

 ディエンが神虎符で呼び出した神虎を見たオシアンは感嘆した。

「実に素晴らしい。ディエン、この神虎は君の虎の生まれ変わりだね。虎の冥福を祈り続ける君の混じり気のない心が、こうして彼を生まれ変わらせ、呼び寄せたのだよ。彼ならば、必ずや少司命の魂を確実に救い出すことが出来よう」

     *          *

 決戦を控えた日の朝。最後の営業を終えた一同は、事務室に集まり、最後の売り上げ金を確認した。オーベロンから、最後の売り上げ金の確認は、必ず神虎や使い魔たちを含めて全員で行うようにと固く言われていたからだ。

「それでは、売り上げ金を確認いたします」

 ハワード卿がキャッシュレジスターを開け、ディエンが売り上げを計算した。

「本日も、黒字を達成いたしました」

 ディエンがそう宣言すると、室内に眩しい光が満ちた。

「おめでとう、諸君。君たちは、俺の魔法を発動させる条件を満たした」

 いつの間にか現れたオーベロンが、目に愉悦の光を浮かべて拍手をした。

「やはり人間は素晴らしい。オシアンとカイ、お前さんたちも最高だよ。あの独善的なキャスパリーグには到底この条件を満たせなかったからな」

 猫の姿のオシアンが、ペリドットの目を細め、ふわりと尾を振った。

「オーベロン。君が我らに喜劇を演じさせたのには、どのような意図があったのかね?」

 オーベロンは、にやりと笑った。

「俺はオーベロン、『真面目に喜劇を演ずる者』を嘉する妖精王だ。故に、今夜は君たちに最高の祝福を与えよう。今夜、君たちは悲壮な戦いに身を投じるのではない。この茶館という素晴らしい舞台で、全員が朝まで極上の喜劇を演じるんだ」

     *         *

 影を伝い、風と波に乗って、マナナン・マクリルは北部連邦南東部、ニューシャーウッドの町を目指していた。皇国の神の桃によって毒ガスによる負傷から回復した彼は、その輝くばかりの美貌と力を取り戻していた。

 けれども、彼の側に愛する妃ファンズの姿はない。マナナン・マクリルが全快したとわかると、麗しいファンズはそのまま気を失ってしまったのだ。

 自分を治療してくれたダームヴェルトゥ族の少女によると、ファンズは安堵した瞬間にこれまでの心労と看護疲れが一気に出て倒れたのだろう、ということだった。

 一刻も早く邪竜アヴァルスを封印し、ファンズを連れて海の果ての国に帰りたい、とマナナン・マクリルは思った。ここ十年の間に、自分の心は随分と老いてしまったものだと寂しく自覚しながら。


 南の方から、生臭く(ぬる)い風が強く吹きつけてきた。

「……やれやれ、アヴァルスめ。勝手に嵐を呼び出したか」

 ならば、嵐には嵐で対抗するまで。

 マナナン・マクリルはふっと華やかな笑みを浮かべると、荒れ始めた風に自分の声を乗せ、嵐を司る妖精王をけしかけることにした。

「嵐の王アーサーよ。お前の領域で勝手に嵐を起こしたものがいるぞ。王を自称する紛い物に見せつけてやるがいい、本物の嵐が如何なるものか!」

 嵐が、北の方からも巻き起こった。妖精の騎士たちを率いた嵐の王が、暴風に乗ってやって来たのだ。

「海の王よ、我が馬に疾く乗りたまえ。かの地までお連れ申し上げる」

 マナナン・マクリルは、その華やかな美貌に食えない笑みを浮かべた。

「嵐の王よ、かたじけない」

    *        *

 アヴァルスから神聖障壁を奪ったハワード卿だが、攻略は容易ではなかった。

 何故なら、神虎が抜け出したことでアヴァルスも動けるようになったからだ。

 左右の頭がそれぞれの首を蛇のように伸ばし、連携を意識する様子もなく不規則に動くため、却って戦いにくいことこの上ない。

「聖騎士団長殿、加勢するぞ!」

 厨房から雉猫のカイが左右の手に一本ずつ斧を持って飛び出し、ハワード卿の背後を狙っていた左の頭に殴りかかった。

 カイの姿を認めた左の頭の目に、激しい憎悪の炎が灯った。

「……またお前か。お前のことは、必ず殺そうと思っていた」

アヴァルスが、カイを千年前に散々邪魔をしてきたブランだと誤認しています。


〈人物紹介〉

嵐の王︰妖精化した古代の英雄、アーサー王。妖精の騎士たちを率い、嵐を起こしながら、彼の領域に災いをもたらすものを狩る。

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― 新着の感想 ―
少司命の魂が飲み込まれてしまったのはそういう経緯があったんですね……。 そして、アヴァルスを罠にかけた方法。 マナナン・マクリルと、嵐の王もそろそろ到着かな? みんなの力で邪竜アヴァルスを成敗だ〜…
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