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聖騎士団の眉目秀麗男子、茶館で働く  作者: 書庫裏真朱麻呂


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0、暁嵐茶館(モーニングミスト・ティーハウス)

「嵐」という字は日本では「ストーム」という意味で用いられますが、本来は「もや」を表す字です。

 北部連邦南東部にあって州連合(ステイツ)と国境を接する町、ニューシャーウッドは夕焼けに赤く染まっていた。ちょうど夕食の時間帯だ。

 厨房は熱気と肉の脂と胡麻油が熱される匂い、それから各種スパイスの香りに満ちていた。それらのスパイスの中でも特徴的なのは八角の甘い香りだ。

 長衫に似た紺の制服を纏った儚げな美青年が、厨房に入って来るなり注文を読み上げた。

「十五番、青椒牛肉絲が二皿。餃子と開口笑が一皿ずつ」

「承知した。十二番の青椒牛肉絲と糖醋肉は用意出来たので運んでくれたまえ」

 王侯の気品と大人の色香漂う長身の料理長が、火の上で大きな鉄鍋を振りながら、艶やかな低音の声でそう答えた。

 儚げな美青年――シェーンが、十二番席の客が注文した料理を盆に載せて出て行くのと入れ違いに、料理長よりも長身で、シェーンと同じ制服に身を包んだ銀髪の美丈夫が入って来た。

「十六番、肉包子二皿、杏仁豆腐二杯。それからリュー、十三番席のマダムが君をご指名だよ」

 ピーマンを千切りにしていた、美少女と言っても皆が納得しそうな顔立ちの小柄で華奢な青年――リューが不機嫌そうに顔を上げた。

「今すぐですか?」

 銀髪の美丈夫――アーセンは、胡散臭い笑みを浮かべた。

「悪いね。十三番席のマダムから、すぐにも、との仰せだ」

「リュー、ピーマンの千切りはそれで充分だ。すぐに着替えて行って来なさい」

 料理長――オシアンから穏やかな口調でそう言われれば、リューも流石に否とは言えない。彼は厨房を出て、隣りの更衣室に入った。そこで調理服から武術の稽古着に似た青い上下に着替えた彼は、一度深呼吸してからホールに足を踏み入れた。


「やっぱり、貴方は可愛い子ねぇ」 

 十三番席の客が、満足そうにそう言った。歳の頃七十代前半と見える、ふっくらとした裕福そうな婦人だ。

「お茶を淹れたら、昨日と同じお歌を歌って頂戴な」

「承知いたしました、マダム」

 リューは笑顔を浮かべ、優雅な手付きで婦人とその連れのために茶を淹れ終わると、舞台に立った。

 彼が歌ったのは、貴族に仕える思春期の少年が憧れの貴婦人の前で恋の悩みを歌うという、有名な歌。

 シェーンの巧みなピアノ伴奏に合わせて、天使のような歌声がホールに響く。

 客の誰もが、その歌声に聴き惚れずにはいられない。

 歌い終わると、リューは笑顔を浮かべ、上品に一礼して見せた。その所作が連合帝国貴族の子弟にも劣らないのは、彼が猫型妖精(ケット・シー)の王にして連合帝国の公爵でもあるオシアンから指導を受けているからだ。


 リューは再び調理服に着替え、厨房の入り口で手を綺麗に洗うと、料理長からの指示で、杏仁豆腐にトッピングするナッツとドライフルーツを刻み始めた。

 リューの向かいでは、人間ならば四十代前半かと見える美丈夫が、餃子の皮を器用に手早く包んでいた。アーセンには及ばないものの、オシアンよりも長身で、鼻筋の通った精悍な顔立ちに琥珀の瞳と大きな耳が印象的な彼は、オシアンの異父弟でカイという。

 カイは、リューと目が合うと、労うようにウインクをした。この茶館で働くメンバーの中で唯一子どものいる彼には、勝ち気な愛娘とリューが重なって見えるらしい。

「カイ叔父さん、それが終わったらホールに来てください。十五番席のレディからのご指名です」

 ホールから厨房に入って来たアーセンが、カイにそう言った。

「承知した。あと二つ包んだら行こう。兄上、あとは頼む」

「分かった。包み終わった餃子は、そこに置いていてくれれば良い。こちらもすぐに出来る」

 植物油のたっぷり入った鍋に、胡麻をまぶした開口笑の生地を入れながら、オシアンが返事をした。

 カイが足早に厨房を出た。間もなく、長衫に着替えてギターを抱えた彼の弾き語りが、ホールからこちらにも聞こえてきた。


 暁嵐(モーニングミスト)茶館(・ティーハウス)

 そこは、夕方から翌日の朝まで華夏の茶と食事を提供し、時に客からのリクエストを受けて従業員が舞踊や音楽を披露する店だ。

――しかし当然ながら、それはあくまでも表向きの話。

 彼らは自分たちを餌に、罠を張っているのだ。 

〈登場人物紹介〉

イー・リュー︰聖騎士団本部所属の二級守護者。黒髪黒目、華奢で小柄な美少女顔の若者だが、「小覇王」と評された長沙桓王の子孫だからか、好戦的な性格。


シェーン・マール︰聖騎士団創設者ベッキー・マールの使い魔。普段は儚げな美青年の姿をしている。温和で口数は少ないが、リューにとっては良い兄貴分。


アーセン・ルブラン︰州連合ステイツの連合捜査局次長。実はオシアンとカイの甥で、猫型妖精ケット・シーと人間の混血。長身で銀髪の美男子だが、笑顔が何故か胡散臭い。

リューの親友。


オシアン︰旧大陸北西部の帝国の公爵にして、聖騎士団と同盟関係にある猫型妖精ケット・シーの王。人間形態の時はオシアン・マクユーアンと名乗る。人間ならば五十代の見た目ながら、気品と色香にあふれている。


カイ︰オシアンの異父弟で、アーセンの叔父。趣味はホワイトアスパラガスの栽培。精悍な顔立ちの美丈夫。

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― 新着の感想 ―
おぉ、おぉ!なんとも豪華な顔ぶれ!!しかも指名制まで! やはり、ただのオシアンの趣味で始めたお店というわけではないのですね(*^^*) いや、でもこれは人気が出そうだ〜♪
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