第61話 玉座の選択
帝都、皇帝謁見の間。
重臣、将官、財務卿、そしてレオニード。
空気は張り詰めている。
「命令違反だ」
皇帝の声は低い。
「戦線は維持できた」
レオニードは答える。
「だが帝国は維持できぬ」
沈黙。
南部蜂起。
債券利率上昇。
補給遅延。
数字は重い。
「王国は連合を提案している」
重臣が吐き捨てる。
「屈辱だ」
皇帝は玉座を握る。
恐怖で築いた帝国。
退けば威信が崩れる。
だが押せば、内側から裂ける。
「帝国は滅びぬ」
その言葉は誓い。
「だが滅びさせる気か」
レオニードが静かに問う。
皇帝の目が揺れる。
「恐怖は秩序を生んだ」
「だが今は、摩耗を生んでいます」
長い沈黙。
玉座は重い。
皇帝は立ち上がる。
「会議に応じる」
場がざわめく。
「だが条件がある」
視線がレオニードに向く。
「帝国の主権は譲らぬ」
「王国は主権を求めていません」
将軍は答える。
「接続を求めている」
皇帝は深く息を吐く。
「ならば、試す」
恐怖国家が、初めて“選択”をした。
――
王城。
「帝国、会議受諾」
報告が届く。
会議室に静かな衝撃が走る。
カイルは立ち上がる。
「戦争は終わるか」
「終わりません」
アレクシスは言う。
「形が変わるだけです」
大陸機能連合会議。
中立都市ルミナス本拠地で開催。
市場が見守る。
――
数週間後。
ルミナス大議場。
三つの旗が並ぶ。
王国。
帝国。
天秤。
アレクシスとレオニードが再び対峙する。
今度は剣ではない。
条約文。
「軍需規格統一」
「共通債券監査」
「危機時相互防衛」
条文が読み上げられる。
重臣が問う。
「帝国は従属するのか」
「いいえ」
アレクシスが答える。
「参加するのです」
支配ではない。
接続。
レオニードが静かに言う。
「恐怖は早い」
「機能は遅い」
互いに知っている。
「だが持続する」
皇帝は条約を見つめる。
帝国は変わる。
だが消えない。
ゆっくりと、署名する。
静かな音。
大陸が動いた瞬間。
恐怖国家は滅びなかった。
変わった。
王国は勝利しなかった。
接続した。
ルミナスの旗が揺れる。
秤は、止まった。
――
後日。
王城回廊。
カイルが言う。
「連合議長になれ」
アレクシスは微笑む。
「設計者は、前に立ち続けるべきではありません」
「なぜだ」
「制度は、人に依存してはならない」
静かな答え。
彼は退く。
だが構造は残る。
数年後。
大陸連合会議。
帝国旗も並んでいる。
南部属州商人が自由に往来する。
軍需規格は統一。
債券市場は安定。
恐怖は消えていない。
だが支配していない。
セシリアが隣に立つ。
「あなたは何も得なかった」
「いいえ」
アレクシスは答える。
「崩れない構造を得ました」
婚約破棄から始まった物語。
終わったのは、恐怖の時代。
始まったのは、接続の時代。
秤は静かに揺れ続ける。
それでも、崩れない。
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