第45話 秤の内側
ルミナス同盟の代表団は、王都の迎賓館に滞在していた。
だがその内部は、一枚岩ではない。
「王国債は危険だ」
黒髪の若い顧問が言う。
「帝国は軍事国家だが、統制は安定している。返済能力は高い」
「だが成長性は?」
別の顧問が反論する。
「王国は制度改革中だ。成功すれば持続的に伸びる」
議論は静かだが鋭い。
その中心に、アルヴィン・クローディアがいる。
彼は微笑みを崩さない。
「我々は勝者に投資するのではない」
指先で机を軽く叩く。
「持続する者に投資する」
問題はそこだ。
帝国は恐怖でまとめる。
短期的には強い。
だが長期は読みにくい。
王国は機能でまとめる。
だが今は不安定だ。
「どちらが持つ?」
誰も即答できない。
――
王城。
アルヴィンは再びカイルと対面する。
「我々は追加条件を提示します」
柔らかな声。
「王国の穀物流通を、我々の船団で担う」
ざわめき。
「帝国の港湾圧力を回避できます」
魅力的だ。
だが代償がある。
「通商記録の共有を求めます」
情報。
市場は情報で動く。
アレクシスが静かに問う。
「帝国にも同条件を?」
「もちろん」
公平。
だが実際は、情報の奪い合いだ。
その夜。
帝国北部要塞。
「ルミナスが王国債を検討中」
副官が報告する。
レオニード将軍は即座に命じる。
「帝国債の利率を引き上げろ」
「財政が圧迫します」
「短期だ」
恐怖国家は、金も武器にする。
「さらに王国債の危険性を流せ」
市場へ噂を流す。
『王国は内部崩壊寸前』
『退位論再燃』
情報戦は、剣より速い。
――
王都。
市場が再びざわめく。
「王国債は危険だ」
「帝国は安定しているらしい」
ミレーヌが机を叩く。
「利率競争に入れば負けます」
「分かっている」
カイルが答える。
沈黙。
アレクシスが言う。
「利率で勝つ必要はありません」
「何?」
「信用で勝ちます」
短い言葉。
「軍需帳簿、穀物在庫、鉱山再稼働の数字を公開します」
ざわめき。
「機密は守りますが、持続性を示す」
市場は数字を見る。
「透明性は、恐怖国家には真似できない」
セシリアが微笑む。
「信用で市場を縛る」
アルヴィンがそれを聞いたとき、目がわずかに細まる。
「面白い」
王国は恐怖でなく、機能と信用で戦おうとしている。
帝国は利率と圧力で締め付ける。
秤は揺れる。
だがまだ傾かない。
大陸の均衡は、三極の間で震えている。
そして今、
市場そのものが戦場になった。
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