第43話 戦地に立つ者
帝国部隊の越境は、小規模だった。
だが明確だった。
国境北西部、第三補給拠点付近。
被害は倉庫一棟、兵十数名。
だが意味は重い。
「試されている」
ヴィクトルが低く言う。
王城会議室。
将軍、官僚、財務総監、そして王太子。
「迎撃部隊は展開済みです」
「帝国側は?」
「深追いせず撤退」
典型的な圧力戦。
その時、カイルが言った。
「視察する」
室内が静まる。
「殿下、それは――」
「王座が揺らいだのだ」
穀物騒動、暗殺未遂。
「ならば前線に立つ」
迷いはない。
セシリアが静かに言う。
「危険です」
「承知している」
アレクシスは一瞬だけ視線を伏せた。
止めるべきか。
だが違う。
「視察は効果があります」
静かな同意。
「ただし補給路は一本化を維持してください」
王太子は頷く。
数日後。
国境拠点。
土煙の向こうに、王国旗が揺れる。
兵たちの間にざわめきが走る。
「殿下だ」
カイルは馬を降り、倉庫跡を見る。
焼け焦げた木材。
倒れた兵の名簿。
「補給は」
「再配置済みです」
指揮官が答える。
「倉庫統一の恩恵です。代替拠点が即座に機能しました」
カイルは目を細める。
制度が、生きている。
その時。
「敵接近!」
見張りが叫ぶ。
小規模部隊。
再びの攪乱。
「迎撃!」
兵が動く。
補給線は一本化。
偽装路も展開済み。
帝国部隊は予想外の即応に戸惑う。
王国側は連携が速い。
記録が共有されている。
地方裁量で迂回が即決される。
短時間の交戦。
帝国側は撤退。
被害は最小限。
息を整える兵の前に、王太子が立つ。
「よく守った」
その一言が、兵の背を伸ばす。
恐怖ではない。
信頼。
遠くの丘。
帝国偵察兵が撤退する。
報告は北部要塞へ届く。
「王太子が前線に?」
レオニード将軍は静かに考える。
「恐怖で固める王ではない」
兵と同じ地に立つ。
「厄介だ」
だが笑う。
「面白い」
王国拠点。
夕暮れ。
カイルはアレクシスに言う。
「制度は戦場でも機能した」
「はい」
「だがこれは始まりだな」
「帝国は段階を上げます」
静かな会話。
風が吹く。
「退かない」
カイルは言う。
「国家を、恐怖に戻さない」
その姿を、兵たちが見ている。
王座は、戦地に立った。
そして今、
国家の形が、戦場で試され始めた。




