表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第二章:この世界の魔術は低レベルすぎるわ。――三属性首席レイナの高飛車魔導録  作者: ぃぃぃぃぃぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/40

第四十話:終わりゆく日常、始まりの影

 いつもと同じはずの帰り道だった。


 風は弱く、草木のざわめきすらない。

 いつもならホウホウと鳴く鳥の声がするはずなのに――今日は、それすらなかった。


「……静かすぎる」


 思わずつぶやいた声が、空気の中で妙に響いた。

 自分の足音だけが、乾いた土を叩く。


 そのときだった。


 ぞくり。


 背筋を細い氷の指でなぞられたような感覚が走り、レイナは反射的に顔を上げた。


 ――遠く、地平線の向こう側。


 赤く染まった空と大地の境界に、何かが“立っていた”。


(……え?)


 目を凝らす。


 影だった。


 夕陽に照らされて長く伸びているわけではない。

 むしろ光を拒むように、黒く塊となってそこに“存在している”。


 一つ。

 一つ……ではない。増えている。


 左右に並ぶように、二つ、三つと、ぼんやりした黒が浮かび上がった。


(……三つ?)


 輪郭は人のようで――でも人ではない。

 風に揺れる布の影のようでもあり、煙のように形を保たず揺らめいている。


 それでも、レイナには分かった。


(あれ……生き物じゃない)


 息を呑む音が自分でも聞こえた。


 魔物の気配ではない。

 魔力の流れも感じない。

 なのに、視線のようなものがこちらに注がれている。


 その違和感が、恐怖を倍増させた。


 なぜなら――“この世界の論理”で説明できないからだ。


「……っ」


 心臓が、不規則に跳ねた。

 喉がひきつり、呼吸が浅くなる。


 影たちは動かなかった。

 ただ、遠くの地平にぴたりと立ち、こちらを見ているように揺れている。


 まるで――誰かを探しているかのように。


(どういうこと……?)


 思考がまとまらない。

 だが、一歩でも近づいてきたら逃げなければならない。

 そんな確信だけが、胸に刺さるように根を張った。


「……なんで、私を……?」


 誰にも届かない声が漏れた。


 影たちは微動だにしない。

 むしろ、近づいてこないことが逆に恐怖を煽った。


 “そこに立っているだけ”なのに、荒野そのものが変質したような圧迫感があった。


 影の足元には夕暮れの光が届かず、腐食したような影のひび割れが薄く広がっている。

 裂け目は深くもなく浅くもない、ただ“空間が間違った”ような黒だった。


(……何なの、本当に……)


 レイナはきつく唇を噛んだ。


 逃げるべきか。

 それとも近づいて確かめるべきか。


 どちらの選択肢も、喉が拒絶するような冷たさを持っていた。


 影の揺らぎが、ふと弱まる。

 次の瞬間、夕焼けがにじんだように影が薄れ――

 そのまま、静かに、風に消えるように“溶けた”。


「……え……?」


 ただの空が残った。

 荒野の向こうには、いつも通りの光景しかない。


 けれど。


 たった今まで、確かにそこで“こちらを見ていた何か”の残滓が、空気に色濃く残っている。


 レイナは膝が震えるのを抑えようとして、抑えきれなかった。


 胸の奥に焼き付いた影の残像。

 それは、雷よりも冷たく、魔獣よりも静かで――脳裏にこびり付くような存在だった。


(……あれは……絶対に、この世界のものじゃない)


 確信だけが深く刻まれる。


 だが、シエラの授業でも学園の教本にも、あんな存在の記述はなかった。


 影の正体は分からない。


 それでも、確かに感じた。


 ――終わりかけている。

 ――何かが“始まろうとしている”。


 胸の奥がひどくかすかに疼いた。


 その意味を理解する日は、まだ遠い。

 けれど、この瞬間こそが第二章の終幕になることを、レイナは知らない。


 薄闇が世界を包み始めた。


 ゆっくりと、静かに、確実に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ