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82 ルナ 2

「悪い、ちょっと良いか?」


 夜中に俺は厩舎まで行く。もう暗く寝ているティリーの家族を起こす。流石にもう皆寝ていたのだろうが、外からドンドンと扉を叩かせてもらう。


 一応、緊急で夜でも馬を出す事はある。ノックをすればすぐにティリーとハティの父親が顔を出す。今更だが、母親は若くに亡くなっている為、ティリーの家族は三人だ。


「これは、ラドクリフ様、こんな夜更けに如何なさいましたか?」

「すまん、ティリーは居るか?」

「ティリーですね、少々お待ちください……」


 ディリーの父親は何が、とも聞くこと無くすぐにティリーを起こしてくれる。


「ラドクリフ様……。えっと、その子は?」

「ちょっと訳ありでな、今日泊めてもらえないか?」

「大丈夫です」


 ティリーも理由を聞いてこない。俺は申し訳ないと思いながらもティリーの好意に甘える。


「それで、上は部屋が余ってるよな。スコットが一部屋使ってるみたいだけど」

「はい、掃除をすればすぐに使えると思います」

「分かった。明日俺も手伝うから……。ルナ、今日はティリーに甘えさせてもらえ」


 俺は振り向いてルナに伝える。ルナは無表情のまま呟く。


「良いの?」

「良いも何も、約束しただろ。俺に任せておけ」

「……分かった」


 なんとなくパジャマを着ているティリーに新鮮さを感じてしまうが、今はそれどころではない。流石に朝までルナと二人で過ごすのもどうかと思いティリーを頼ったのだが、受け入れてもらえそうだ。


 暗殺者をそのままティリーに預けるのは大丈夫なのか? という話もあるのだが、原作では、エリックの暗殺に失敗した時点でルナは完全にエリック側の人間となる。今回俺は完璧にエリックの役をこなした(はず)だし、ルナの反応も原作通りだ。

 問題無いだろう。


 俺は、ティリー達に聞こえないようにそっと、ルナの耳元で囁く。


「今日はよく寝て、ダホンの事は明日考えよう」

「なんでも知ってるのね」

「なんでも、じゃないけどね。少なくとも僕の暗殺を依頼した人間は分かる、色々警戒はしていたんだ」

「ダホンはとても怖い人」

「知ってる……」


 本当に知ってる。


 ルナが、抵抗する意思を失うほどの存在だ。


 だけど、それはあくまでも七歳の子共に対しての物だ。エリックには遠く及ばないかもしれないが、俺は俺で、なんとかする……つもりだ。

 

 ……。


 ……。


 翌日、予定通り厩舎の二階にある空いた部屋を掃除する。

 この厩舎自体が、昔プロスパー商会の倉庫に使っていた建物の一つだ。今はもう倉庫としては使われていないが、一階部分は厩舎とティリーの家族の居住スペースになっている。

 そして二階部分が何個かの部屋に分かれている。


 ……なるほど、初めて二階に上がったが、たしかに小部屋が何個かある。ずっと使われていなかった為、かなり埃っぽいが掃除をすればまだまだ使えそうだ。

 部屋を見ていると、一つ外から南京錠のような鍵がかけられた部屋がある。俺はハティに尋ねる。


「スコットの部屋ってここ?」

「うん、そうだよ」

「きっちり鍵してるのな」


 鍵はちゃんと魔法で施錠するタイプのようだ、まあ色々裏のある人だからそっとしておこう。



「ルナはどこか希望はある?」

「隅でいい」

「隅か……。じゃあ、ここかな、少し狭いかな」

「大丈夫」

「よし、じゃあ掃除するか」


 ルナは階段を上がり一番奥にある部屋を選ぶ、部屋には何も置いてない棚などがあり、まずはそれを使っていない部屋へと移す。

 それにしても、この棚は本を置くのに良さそうだ。木箱を重ねた棚より安定性もある。今度交換しよう、などと考える。


 問題はベッドか。流石に部屋はあってもベッドはない。


「ベッドなんていらない」

「それでもさ、床に直接は体が冷えるから」

「慣れてる」

「うーん。慣れちゃ駄目だよな……」


 ルナはあまり気にしていないようだが、俺は気にしてしまう。するとハティが何かとても良いことを思いついたようにいう。


「この棚をさ、横にすればベッドだよ」

「棚を?」


 確かに言われてみればベッドっぽいサイズかも知れないが。上に板でも敷くのか?


 うーん、だったら、俺の部屋の木箱を持ってきて並べたほうが平らな面を出せる。寝るにはそっちの方が良さそうだ。

 うん。この棚はもう俺の部屋に運んじゃおう。交換だ。



 そんなこんなでドンドンと部屋は作られていく。俺の部屋まで棚を運ぶのにハティに手伝ってもらう。ハティとしては初めて館の中に入るようだ。

 キョロキョロと不思議そうに豪勢な内装をみている。


「すごいねー」

「まあね、あ、ほら、ちゃんと前見て、段がある」


 多分木の棚はかなりの重量があるのかもしれないが、俺もハティもレベルを上げ筋力もたくましい。問題なく俺の部屋までたどり着く。


「ねえ! 凄いよ。ぴょんぴょんする!」

「ちょっと俺のベッド壊すなよ」

「良いな! こんなベッドで寝たいよ」

「うーん。魔石でお金いっぱい入ったら買えばいいじゃん」

「剣が先だから。ベッドはあと、だけど欲しい! 頂戴!」


 うっほ。確かにふかふかのベッドというのは何とも言えない憧れを持ってしまうのかもしれない。まあ……。このサイズのベッドはハティの家には入らないと思うけどな。


「はいダメですよ。ほらそんな事より、そっちの木箱もって」

「ぶー。ケチ」

「一つじゃなくて、二つね。俺も二つ持つから」

「ふかふかだったなあ」

「あああ。しょうがないだろ? 自分で買ったベッドじゃないんだし」

「じゃあ頂戴」

「駄目だっつーの」

「じゃあ毎晩ここに寝に来るかな」

「! いやいやいや。もっとダメ」


 無自覚に何という事を言うんだ。ダメに決まっているじゃないか。

 うん、ハティに俺の部屋を見せたのは誤りだったかもしれない。

 

 あ、そうだ。それより。


「なあ、ハティ」

「ん?」

「ルナを頼むな」

「……うーん」

「どうした?」

「でもあの子、喋らないよ?」

「ぶっ」


 確かに……。ハティとルナはキャラ的に対極にいる。

 ハティは太陽のような明るいキャラで、ルナは月のような存在。確かに相性はどうなんだろう。


 俺はどうしたら良いのかと悩みながら館から庭へと出る。


 その時、ふと後ろからついてくるハティの脚が止まる。


「ん? どうした?」

「なんか……。嫌な感じがする」

「嫌な感じ? ……まさか」


 え? こんな早かったっけ。


 今回のイベントの詳細は、確かにうろ覚えなところもあるが……。エリックの時はもう少し置いてからだったような気がするのだが。まさか、昨日の今日だぞ?

 

 俺は気どられないように周りに注意を向けるが、良くわからない。

 しかし、ハティのこういった野生の感覚は信用できる。


「ちょっと急ごう」

「どうしたの?」

「ルナを追って来たやつかもしれない」

「ルナを? 連れ戻しに?」

「ああ……」

「そいつヤバいの?」

「ヤバいな。気をつけろよ」

「うん」


 どこから見られているかわからない。

 俺はせいぜい必死に木箱を運ぶような素振りをしながら、厩舎へと戻った。

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