80 ダンジョンもどき 5
俺が行くと言えば、ハティはついてくる。
レベル上げの効率という部分からいえば、どうなのかわからないが、ハティとしては属性付きの魔石が落ちたことでやる気がもりもりと湧いているようだ。
何でも、お金をためて今の鉄の剣を少し良いものに買い替えたいようだ。向上心は大事だよな。俺だってひたすら魔力ポーションいらずのブートキャンプを楽しんでいる。
「ぶー。また炭だったよ」
「しょうがない。そんな簡単に出るものなら冒険者は皆大金持ちだろ」
「そうだけどさ。……あ、なんかさレベルが上がってる感じするんだよ」
「レベルが?」
ハティの感覚なのだが、キノコを狩っていると身体能力の上昇が実感できる位あるという。俺はただ魔法を撃ってるだけだが、パーティー登録をしているため経験値の分配は入っている。
うーん。レベル?
そう言えば最近は魔力が減って吐き気を催すまで散弾銃の魔法を一発二発多く撃つようになったかもしれない。これは、魔力を減らしてから回復してることでの魔力増量分かと思っていたが、レベルアップによる効果も含まれているってことか?
っていうか。
よくよく考えれば倒せば必ず炭を落とす魔物というのもおかしい話だ。
本を読んでいるとダンジョンの魔物のドロップにも確率があり、むしろ確率的には何も落とさないことのほうが多い。そう考えると一つの結論になる。
……もしかしてあれって、ボス的な魔物なのか?
ボスはアイテムのドロップ率が異様に高いという。そのためボスが取り合いになり冒険者同士で揉めるなんてこともあるようだ。
そしてダンジョンボスは、通常の魔物と比べ経験値もボーナス付きで美味しいという。
もしかしたら本当にそうなのかもしれない。
それにしてもボスしか出ないダンジョンとか……。確かに泡沫ダンジョンだなあ。
今ではキノコはハティが倒している。そしてキノコを倒すとダンジョンから飛び出し、得意の索敵能力を活かしてダンジョンの近くに寄ってくる魔物を探して狩りに行く。
やる気もりもりのハティなのだ。
その間俺はひたすら魔法の練習だ。
この特殊な環境を利用し、俺は新しい魔法を試していた。
ダンジョンの魔素を吸える環境のみ、ほぼここでしか使うことが出来ない魔法だ。
「我が魔力よ。連弾のマナとなり……」
手は人差し指を伸ばした二本の手を前後にくっつけ、少し低め……。そう、サブマシンガンのようなイメージを作る。そしてその手を腰だめにし、しっかりとしたイメージを、気持ちを乗せた言葉とともに魔力へと転写する。
「ブチかませ!」
拳銃と同じだが、結局これが一番気持ちが乗るようだ。始めは武器によって変えるべきなのかと悩んでいたが、詠唱では無いんだ。今では散弾銃のやつも同じ掛け声で統一している。
そして新しい魔法は数度の失敗を重ね、ようやく形になりはじめていた。
ガガガガガッと、乾いた音が洞窟内に響き渡る。俺はその衝撃に銃身を模した指が上へと跳ね上がるのを必死に抑える。ここらへんは、マズルジャンプまで再現する必要があるのか。とも言えるのだが、よりリアルなイメージでないと魔法が上手く発動しないのだ。
離れたところの石壁がガシガシ崩れていく。だが、流石にこれは……。魔力の減りの方が早いか。
機関銃の魔法はいつまでも撃ち続けられる訳でもない。魔法の構築時に体内にある魔力を弾倉に変換するため、その弾倉分の魔力が終わると終了する。
そのためキャンセルしなければ、ほぼ一発で魔力を使い切る形になる。
その弾倉に込める魔力も、自分の体内魔力だけでは足りず、変換時に絶えず空間の魔素を吸いながら押し込めてようやく形となる。イメージ構築にもかなりの時間がかかってしまうのも難点ではある。
散弾銃の場合は毎回詠唱をしないと撃てないため、そのたびに魔素を吸い続けながら撃ち続けられるのだが。マシンガンの魔法は一度で吐き気がもよおす程の魔力を使用するため、休憩を挟まないとキツイ。
「か・い・か・ん・♪」
とは言え気持ちいい。某角川映画の女の子の気持ちがよく分かる。この無敵感。非常に楽しい。俺がこの気持ちよさを味わってると、いつの間にかハティが帰ってきていたようだ、そしてジッと俺を見つめる。
「それは、どうなの?」
「えっと? どうなのって?」
「なんかズルい……」
「ズルいかな?」
「ズルいよ。だってそんな魔法ずっと出てたら近づけないじゃん!」
「ああ……」
自分でも結構凶悪なのは理解している。散弾銃も、機関銃も人間が効率よく何かを攻撃するために、何年もかけて発達してきたものだ。こんなの出してきたら中世ベースの世界で剣を持った人間には、不条理以外の何物でもないだろう。
あ、機関銃とか自動小銃とか、厳密には違うのかもしれないけど、フルオートで撃つものだからみんな機関銃と呼ぶが許して欲しい。機関銃に関してはたしか、現代はフルオートで撃ちまくるより三点バーストでより精密な射撃をするらしいのだが……。
俺の希望はフルオートで弾幕を張るのが目標だ。
「でもさ。こんな魔素に溢れているからこんなの出来るけど、外で使ったら弾数も少ないし、一発で魔力使い切って動けなくなるぜ」
「うん? そうなの?」
「そうだよ、だって、アイアンバレットを百発撃つようなもんだし」
「……そう言われるとそうかも?」
「でしょ?」
「そうだよ」
そうか……。三点バーストか。
拳銃の魔法は今のところ無詠唱も出来ないし、実際の銃があるわけでもなく、拳銃も一発撃つのに詠唱をいちいちしないと出せない。
そのためにこれを考えたのもあるが、機関銃の魔法は、一度にイメージで作り出した弾倉を撃ち尽くすまで撃てる。ただ、発動中のキャンセルは出来るが、途中で一時停止して再び撃つとか、そういう細かい事は出来ない。
……確か拳銃でも三点バーストが出来る拳銃があったな。ベレッタだったか。細かい型番は残念ながら思い出せない。よく映画とかドラマの悪役が使っているイメージが有る。
実は魔法の発動時、機関銃の様な長物をイメージするより拳銃の様なサイズのものをイメージするほうが、脳が楽なんだ。消費魔力量も違う。だから散弾銃の魔法もソードオフショットガンの形のほうが良いというのもあるのだが。
一発撃つだけの拳銃の魔法より、三発を撃つ拳銃の魔法のほうが便利かもしれない。
……ちょっと考えてみるか。
自分の魔法を考えるというのはなかなか楽しい。俺は軍オタでもないし、映画が好きで多少武器を知っているだけなのだが、もうちょっと銃に詳しかったらなとも思う。ラノベの主人公は大抵、メッチャクチャ詳しかったりするからその点は残念だ。
だが、その前に他に練習しなければいけない魔法がある。
……。
……。
満月の日はどんどんと近づいてくる。
結局ルナに対しての俺の対策は一つしか思い浮かばなかった。俺はそれの練習のためにひたすらハティに付き合ってもらう。
それもあのダンジョンがあってこそだ。
対策はしていても、緊張はする。相手は俺を殺すためにやってくるんだ。失敗したらどうなるかわからない。かといって盛大に護衛を置いておくのは逆にルナの命が危うくなる。
俺は、自分も救いたいし、ルナも救いたいんだ。
原作を知っている故の希望でもある。俺は実にワガママな転生者なのだ。




