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76 ダンジョンもどき

 夜にそっと窓から月を眺める。


 うん。先日ゴブリン狩りの時に見たより細くなっている。月齢とか詳しいわけでは無いが、転生してきて1年弱、この世界で生きてきて多分月の動きは地球に居た時の月と同じだと思う。


 このままどんどん細くなり、新月、そしてまた満月に向けて毎日大きくなっていくのだろう。


 完全に予想ではあるのだが、俺に向けて放たれる暗殺者はエリックに放たれた暗殺者と同じだと考えている。


 その暗殺者の名は「ルナ」そして原作でのサブヒロインの一人となる女性だ。


 暗殺者がサブヒロイン? と感じるかもしれないがこれも大事なイベントの一つだ。



 ◇◇◇


 そのルナは幼い頃、盗賊に襲われ、両親を殺されたという過去を持つ。


 家も家族も失った彼女は、そのまま盗賊に連れ去られ、とある裏社会の人間へと売られる。その男は、幼い子供たちの中から才ある者を選び抜き、暗殺者として育て上げることで生計を立てていた。


 

 その中でルナはまだ子供ながら天才としてその才を見出される。そしてその歯車のひとつとして、殺しの技術を叩き込まれ、初めての仕事を任されることになる。


 それがエリックの暗殺だった。

 おそらく対象がルナと同じような子供である事から、初仕事として良い対称だろうと男は考えたのだろう。


 しかし、狙った相手──エリック・シュトルツは、ただの標的ではなかった。この世界に転生してきてチートを駆使し、最強を謳歌する男だ。

 当然のことながらルナは暗殺に失敗し、絶体絶命の状況に追い込まれたルナは自らの命を絶とうとする。


 ルナが手にしたナイフを自分の胸に突き刺そうとした瞬間。エリックは目にも止まらぬ速さでそのナイフを弾き、静かに言った。


「君が、ここで死を選ぶことは、本当に自分の意思なのか?」


 まるで、彼女の背負ってきた過去を見通しているかのように、エリックの瞳は彼女を捉えていた。


「君を、そこから救い出してあげる」


 その言葉が、長く凍りついていたルナの心に、わずかな光を灯す。



 ◇◇◇


 原作小説では、名シーンと言われる一幕だ。

 そして、エリックは約束通りルナを男の束縛から開放する。


 ちなみにルナの属性は、感情希薄系ヒロインだ。別の言い方をすれば無口なクールキャラとでも言おうか。割と好きです。


 

 グレゴリーと父親との会話を考えれば、もはやグレゴリーがエリック暗殺的な依頼を出すことはほぼ無いと言える。ということは、俺がルナを救わなければ、ルナは永遠に救われる機会が無くなる。


 そしてそのルナが現れるシーンが、満月の夜。なのだ。


 おそらく「ルナ」という名前の語源が月に由来しているのだろう。原作者がそれ故にエリックを暗殺するために登場するシーンに満月の夜を用意したのだと思うのだが。


 本来なら、明るい満月の夜より、暗い新月の夜に行動を起こす方がよりリアルな設定となるのかもしれないが、確かルナを管理している男が、自分の手駒にインパクトのあるイメージをつけようと、満月の夜に行動をさせるように仕向けたんだと思う。


 エリックの時と、俺のときで同じタイミングだとは言い切れないのだが、俺とエリックは同じ年齢。ルナが選ばれた理由とも合致する。


 だからこそ俺には確信があった。



 ……。


 ……。


 満月まではまだ時間はある。

 オルベアから、良さそうな魔道具は買えた。後は俺の技術か。


 出兵の話の影響だろう、アドリックからはパーティーの狩りと魔法の練習会はしばらく休みにするという連絡が来た。

 今のこの時期はそれはそれで良いのかもしれない。


 俺はハティを誘って、いつもの山へと狩りに行く。少しでもレベルを上げておきたいというのが一番だ。ルナの対策に関しては、一応は作戦は決めているが、それに対する俺の技術が微妙に不安なのだ。



「なんか、魔物が強くなってる?」


 狩りをし始めてしばらくして、俺はなんとなくそんな感じを受けていた。


「やっぱりそう思う? なんかちょっと違うよね」


 ハティも同じことを感じていたようだ。

 こうなると、原因はアレだろう。ゴブリン狩りの時に聞いた、魔力の影響を受けて強くなる魔物がいるという話。


 先日、俺が魔素溜りに魔力を吸われたことを思い出し、少し不安な気持ちが芽生える。


「こないだのダンジョンもどきに行ってみるか?」

「えー。駄目だよ。ラドまた魔力吸われちゃうよ」

「そんな無茶しないから」

「ラドは、アドリックたちといるときはあんま無茶しないのにね」

「うーん。まあ、ハティといると楽だしね」

「え?」

「身内みたいなもんだしな」

「う、うん」


 俺達は魔物を倒しながら再び、あのダンジョンもどきがあった場所を目指す。登山道とも言えない、僅かな獣道を頼りに道を進んでいく。


 そして俺達は衝撃の光景を目にする。

 あの時の穴が、まさに洞穴と言ってもいいほどの大きい間口を開けていた。


「これって、ラドのせい?」

「え? おれ? いや違うと言いたいけど……」

「だって、ダンジョンもどきに魔力を吸われると、爆発とか変なことが起こるんでしょ?」

「そ、そうだけどさ……。いや。これは変なことじゃないぞ、きっと」

「絶対変だよ……。え? 覗くの?」

「ちょっとだけな」


 俺が近づいていくと、ハティも俺のすぐ後ろをついてくる。

 穴の高さは二メートル程だろうか、小柄な俺から見ればだいぶ高く見える。そして穴の中は濃い魔力が充満していた。


「ハティ、気持ち悪かったら言えよ。結構魔力濃度が濃いや」

「うん」


 洞窟は斜面の北側に位置しているため、太陽の光も差し込まず、中は暗くてよく見えない。こんな洞窟に入るつもりも無かったから灯りの魔道具など持ってきてない。俺は杖を掲げて魔法を詠唱する。


「光のマナよ……」


 すると杖の先にぽっと小さな光の玉が浮かぶ。それを洞窟の中に向ければ中を照らし出す。ハティも興味深そうに穴の中を覗く。


「ダンジョンもどきが、ダンジョンになっちゃった……」

「いや、別にダンジョンってわけでもないだろ? 魔物が居ないし」

「でも、奥に何かいるよ」

「え? ……ほんと?」

「うん」


 洞穴の中は天井などがボコボコしていて、道の大きさは一定ではなく、狭くなったりしているようだ。そして、少し下に向かって下りになっていて、先までは見通せない。

 しかも、洞窟の中は魔力濃度が高すぎて、魔力視に頼りがちな俺には全く魔物らしい様子が見えないでいた。


「どうする? 行ってみようか」

「スコット戻って来るまで待ったら?」

「だって、いつ戻ってくるかわからないじゃん。戦争も始まりそうだし」

「なんで戦争?」

「ん? いや、なんとなくあっちの方に行くって行ってたかなって」

「行き先言ってた?」

「言ってなかった?」

「うーん?」


 そうか、ハティはモーガンの事なんて知らないしな。

 そんなことより、この洞窟で、どうするかだ。もしダンジョンなら、行くのがラノベマニアの本望だ。

 それに、ダンジョンは自分を強くする可能性があるはずだ。エリックだって、ダンジョンで実力のステージを上げるようなエピソードを持ってる。


 よし。


「……その顔」

「え?」

「分かったよ。じゃあ、あたしが前を歩くから」

「いやいやいや。俺が行くよ」

「前衛なんでしょ? あたし。行くならそれは絶対」

「……分かった。だけど俺も剣を持ってるからな。灯りだって俺が持ってるし」

「うん。ゆっくり行くからね?」

「おう」


 こうして、ダンジョンらしき穴に俺達は進むことを決断する。

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