75 街の人だかり
期待以上の買い物が出来た俺は、ホクホク顔で街を歩く。
今日はもう一箇所行く予定の場所がある。鍛冶屋だ。はじめは普通に樹液採取の金具を作ってくれたところに行こうと思っていたのだが、魔道具でだいぶお金を消費した俺は、なんとなくプロスパー商会の運営している鍛冶屋に行くことにする。
鍛冶屋といっても何か作ってもらうとかではない。金属を少しわけてもらおうということなのだが……。端材をね。
地属性の魔法では、土に干渉して壁を作ったりが出来る。それを金属に対してはどうなのかを試そうと思うんだ。
俺の地属性が、土や石より、金属により適正が強いことを考えればそういうのも出来るんじゃないかというのが今回の考えだ。
領都の鍛冶屋団地は、オルベアの店のある旧市街地からだと、中央の大通りを超えた反対側になる。俺達は足早に街を歩く。
……ん?
中央の大通りまで来た時だった。ちらっと冒険者ギルドの近くを通りながら、ギルドの方を見れば、なんかいつもと様子が違う。ギルドの建物の前には人だかりが出来ており、みな入り口辺りで何かを見上げていた。
そんなのを見れば当然気になる。すぐに俺はギルドの人だかりまで行く。
見れば入口の横の壁にデカデカ領主からの張り紙が掲示されていた。
……なるほど。いよいよか。
掲示によると、イタルカで反乱が起き、それを討伐するために国王からの要請に従い兵を出す事になったらしい。その際に民間からも兵を募集するということだ。
冒険者は等級により給与が増減すること、その他、荷物を運ぶ人夫、調理師、その他諸々出兵に関する必要な人員を募集するということだった。
そして、役人がそれを口頭でも説明をしていた。
もしかしたらスコットはここの調査に潜ってるのかもしれない。掲示板を見ながらそんなことを考える。
よくよく考えればいたって普通の話なのだが、なんとなく、ラノベを読んでいると出兵は正規の領兵だけで行くのようなイメージだったため、その募集は予想外であった。
「おっし。来たぜ来たぜ」
「ああ! 何でもあっちは素人たちが集まった反乱兵っていうじゃねえか。一稼ぎさせてもらうかな」
「久しぶりにうめえ話だな」
そして、その掲示板を見ている人々の反応も俺の感覚とはだいぶ違った。
給与はそれなりに高く、しかもその分に関しては税金がかからない、などの優遇措置はあるのだが……。
戦争に行くのにあまり忌避感は無いのか。
むしろ稼ぎ時と考えている人が多いように思えた。
俺はそっと人混みからぬける。地球じゃ戦争に行った人たちがその後の心的外傷後ストレス障害を患ったりという話はいくらでも聞いたことがある。
魔物が居て、盗賊が居て、いつ自分が殺されるかわからない。そんな世の中では戦争はそこまで強い心的障害を受ける事柄でも無いのだろうか。
「どうしたの?」
「うーん。戦争って人と人が殺し合うんだぜ。なんか行くの怖いと思わないのかなって」
「少なくとも飢えて死んじゃう事は無いじゃん」
「……そっか。まあ、そういうことなんだろうな」
俺だってすでに対人戦をこなしている。相手はどうしようもないクソ野郎かもしれないが、あのときはスコットが最期を締めてくれた。
……あの時スコットが居なかったら俺はトドメの剣を振れたのだろうか。
まあ、深く考えてもしょうがない話なのかもしれない。
今後俺が自分の死亡エンドを避けるためなら躊躇うつもりは無いんだけどな。もしかしたら心の何処か、少し甘えはあるのかもしれないけど。
……。
その後俺は、鍛冶屋に向かう。確かにプロスパーの鍛冶工房は樹液採取の時に使ったような鍛冶屋とは規模が違った。煙突が立ち並ぶ建物で、中にはずらりと炉が並ぶ。
この工場では一般的な廉価な製品が作られいる為、おそらく行程毎に担当が居てシステマティックに作業が進められているのだろう。
他の工房では一人の職人が一つの剣を始めから最後まで担当するのが一般的だというが、完全にやり方が違う。
どちらが良いかはわからないが、これはこれで効率は良いんだろうと感じる。
俺が工房を覗いていると、一人の事務員が近寄ってくる。
「ほら、危ないから入っちゃだめだよ」
「ああ。ごめんなさい。ちょっと余った鉄とか貰えないかなって思って」
「うーん? 鉄は余ってないなあ」
完全にふらりと遊びに来た子供だしな。こういう対応をされるのは当然なんだが。なんか自分から「社長の息子だ」と言うのは、少々恥ずかしいことに気がつく。
だけど、言わないと話は始まらない。俺は少し顔を赤らめながら自己紹介をする。
「えっと……。僕、ラドクリフって言います」
「……ラドクリフ? あれ、どこかで聞いたことあるかな?」
「あの、ラドクリフ・プロスパーです」
「ラドクリフ、プロ……! あ、お、おぼっちゃま?」
「で、です。あの、もし大丈夫だったら、なんだけど……」
「ええ、ええ! 大丈夫ですよ」
事務員は、奥へ行き作業をしていた一人の職人の下へいく。事務員に何かを告げられた職人がこちらを見る、そして、その職人が現場を監督していた年配の男の方へと行く。そこでまた二人が会話をしてこちらをちらりと見る。
……うーん。本当に会社になってるな。
俺はなんとも言えない気分で彼らの動きを見る。
やがて、手押し車いっぱいに鉄のインゴットとでも言うのだろうか、製鉄したきれいな塊が俺の前に運ばれてくる。
「おぼっちゃま……これでよろしいでしょうか」
「……えっと。これって使った余りとかじゃないですよね?」
「当然です。そんなものお渡しできません」
「いやいやいや。あのこれ父に言ってきた話でもないですし。本当に切れ端で良いんですよ」
「し、しかし。どうぞお気になさらずに」
「それに、僕ら二人でここにきているので、こんな持てないっす……」
「え?」
俺の言葉に現場の責任者っぽい男の人がようやく気がつく。
手押し車に乗せるような量を、家まで持って帰れるわけもない。それに、そんなにいらない。
塊をちょっと一つ持っただけで、それが重すぎると感じる。魔力を全身にまとわせれば持てないわけじゃないが、これを何個か、となれば馬のほうが可哀想だ。
「じゃあ……」
と、俺は鉄の塊を一つ持ち上げると詠唱を唱える。一応試しなので略式はしない。実は金属に対して加工をするような魔法は使ったことが無い。
ただ、射撃場を作った時のように、土に作用させられるなら金属が得意な自分なら行けるのではと考えたのだ。
「我が魔力よ。鉄のマナとなり、我が意に従え……」
んぐ……。これは質量の問題なのだろうか、土に魔法を作用させるのと比べ異様に魔力を消費する。一気に魔力が吸われる感覚に少し怯みながらもなんとか、手にした鉄の塊を細長い棒へと変形させることが出来た。
そしてそのまま、魔力を込めある程度の場所で切り落とす。
ゴン! という音と共に切り取られた残りの鉄塊が地面へと落ちる。眼の前で見ていた男も口をあんぐりと開けて驚愕している。
「なっ……。ま、魔法でございますか?」
「うん、良かったなんとか動かせた。そうなんだよ、これの練習がしたかったから金属を分けてくれってお願いで。だから、こんなに一杯はいらないんだ。この塊の残った分くらいでいいよ」
「わ、わかりました……」
それでも、突然やってきた商会長の息子のために必死に対応してくれたんだ。俺もしっかりとお礼を言い、工房をあとにした。




