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70 影食い

 俺の剣が兵士の影に突き立つ。……しかし剣は土にめり込むだけで何も変わる感じがしない。


「くっそ、何だこれっ!」

「ラド、いったい何が?」


 突然ラピエールが苦しそうに膝をつき、俺が剣を抜いてラピエールの影に向かってそれを突き立てたんだ。当然だろう。他の皆は状況が分からずにいるのだろう。


「ま、魔法を……」


 俺の動きに気がついたのだろう、地面に手をついたまま真っ青の顔のラピエールが必死の形相で声を絞り出す。


 ――魔法か……。


 言われてすぐに俺はハッとする。確かにこういったスピリチュアルな雰囲気の魔物は物理攻撃に強いことがほとんどだ。俺はすぐに魔法攻撃に切り替える。


「巌のマナよ……。敵を穿て!」


 狙いは影だ。手を下に向けストーンバレットを放つ。


「ィィィィィィィ!」


 岩の弾丸が土にめり込む。その瞬間なんとも言えない奇妙な叫び声を感じる。声なき声といった感じで、空気を切り裂くような悲鳴にも感じた。


 ――行けたのか?


 見れば兵士の魔力の漏出は止んでいる。


「だ、大丈夫ですか?」

「うう……。そうか、地魔法か……気をつけろ」

「え?」 


 ラピエールはかなりの魔力を吸われたようだ。魔力の欠乏時の気持ち悪さは俺が一番良く知っている。それでも必死に俺達に情報を伝えようとしていた。


 俺はカバンから魔力ポーションを取り出し、ラピエールに渡す。

 ラピエールにとっても魔力ポーションは高級品だという認識はあるのだろう。魔力ポーションを前に一瞬ためらう。

 気持ちは分かるが今はそんな場合じゃないだろう。俺が蓋を開けて渡すとぐっと飲み込む。少し安心した俺は再び尋ねる。


「すまない」

「あれがなにか分かるのですか?」

「おそらく影食いだ……」


 影食い? 知らない魔物だ。しかしラピエールの言葉にアドリックが反応する。


「影食いだと?」

「アドリック知ってるの?」

「ああ。対象の影に入り、そこから影の主の魔力を吸う魔物だ」

「なっ。メチャクチャな……。地魔法に強いの?」


 また厄介な魔物だ、しかも地魔法が駄目なのか。

 そこはラピエールが説明を補う。


「地魔法は物理属性に近い……。他の魔法でないとトドメは厳しいです」


 なるほど、確かに石を当てるんだもんな。ただ魔力で精製した物であるからある程度のダメージは与えるようだ。先程も剣で効かなかったのに、ストーンバレットで影から追い払うことは出来た。


「わかった俺の雷魔法で行く」


 状況を見て、すぐにアドリックが決める。だが、その魔物がどこにいるかが問題だ。ここは木々も多く、俺達の影と木陰が交じる部分も多い。

 しかも、先程ラピエールが襲われた時のように、気配を全く感じられなかった。


「バフをかけます……」


 この状況でみんなの力を底上げしたいと感じたのだろう、リュミエラが例のバフをかける。確かに、今は少しでもこの不利な状況をなんとかしたい。


「我が魔力よ 聖なる光となり 勇ましき者たちに力を……」


 途端に俺達に不思議な力が入り込む。これは以前より随分と強化されてると感じた。


 と、すぐにその万能感がうすれていく。


「え?」


 俺が振り向くと、今度はリュミエラの魔力が影の方に流れているのが見えた。その瞬間俺は得も言われぬ怒りが湧く。


「ああ……」


 小さいリュミエラの魔力などそこまで大きくない。突然のことにリュミエラはどうしていいか分からず座り込む。


「リュミエラ!」


 俺はすぐにリュミエラに向かいながら詠唱を始める。地魔法が効きづらいと言われても知ったことではない。すぐにリュミエラの影から追い払えるならっ!

 

「我が魔力よ。鉛弾のマナとなり……。」


 跳弾がリュミエラに行かないように俺は上にジャンプをし、指を銃の形に模してましたの影へむける。


「ブチかませ!」


 俺の叫びと共に、パンッ! という音と共に指先から弾丸が放たれる。弾丸は誤ること無く影を射抜く。


「ィィィィィィ!」


 先程と同じ様に、奇妙な叫び声とともにリュミエラからの魔力の漏出が止まる。早くに対処したので、リュミエラはまだそこまでひどい状態には成っていない。

 それを見てホッとするが、再び影食いを見失う。


 くっそ……。どうすればいい。



 影に入れるということは、実態は無いってことなのだろう。物理攻撃に対して無効であるというが、魔法でありながら物理攻撃になる地魔法には痛みを感じるようだ。


 魔力で精製された石や鉛弾は、魔力を纏っているということなのだろう。


 それなら、魔力を剣に込めて切ればそれなりには効果があるのだろうか……。残念ながら、アドリックやセヴァの剣と比べ、俺やハティの剣は普通の鉄の剣だ。魔力の通りもそこまで良いわけじゃない。そして、セヴァの魔力操作ではまだそこまで剣に魔力を通すことは出来ないだろう。


 ……。


「どうすればいいんだよ!」


 セヴァも自分なりに、前衛の自分では何も出来ないことを感じているのだろう。対応を俺達に尋ねる。

 それはアドリックも考えていたのだろうすぐに答える。


「セヴァとハティはじっとしてろ。魔力が吸われている感じがしたらすぐに教えろ」

「わ、わかった!」


 正しい判断だ。問題は、アドリックの詠唱が俺と比べてだいぶ遅いという問題。二人の魔力量ではもしかしたら……。くっ。考えろ……。


「も、もう一度バフを――」

「あ、まって。リュミエラ」


 リュミエラも魔力ポーションで少し余裕が出来たのだろう、再びバフをかけようとするがそれを聞いて俺は慌てて止める。


「え?」

「……そうか」


 あの時は、もしかしたらリュミエラが魔法発動時に練る魔力に反応した?


 俺の魔法の着弾時に、魔力が周りに弾けるのは見えた。もしかしたら傷を負って、回復のための魔力を欲しがっているのかもしれない。


 そうでなくても、やつは魔力を吸うために、美味しそうな獲物を探しているはずだ。


 ……釣れるか?


 俺はその場で始勢の体勢をとり、魔力を練る。そしてその魔力を足元へと移動させる。


「スー。ハー。スー。ハー……」


 来い。


「スー。ハー……」


 ここに美味しい魔力があるぞ……。


 ゾクッ……。


 その時俺の影に何かが入り込んで来る。そしてズズズと、俺の魔力が引かれるのを感じた。この感覚は以前にも味わったことがある。あのダンジョンもどきに魔力を吸われた時だ。


 ……それにしても、あれと比べれば。


「フゥ……」


 俺は全力の魔力操作で引っ張られる魔力を俺の方へと寄せる。あのダンジョンもどきに比べれば、なんてことはない。

 俺の魔力操作の感覚は体外にまで及び、影の中の影食いごと掴むように引っ張る。


「ィィィ!」


 影食いの戸惑いは、魔力を通して伝わる。


「アドリック。俺の影だ!」

「分かった!」


 俺はアドリックに伝えながらも意識を集中し続ける。ガッチリと、逃げようとする影食いを抑えつける。


「我が魔力よ。雷のマナとなり。魔を滅ぼせ!」


 三行だが、あの天才アドリックの魔法だ。アドリックはバチバチと両手から電撃をこぼしながら俺の影が伸びる大地へその両手を叩きつける。


「ィィィィィィ……」


 雷撃はバチバチと地面へと流れ俺の影の中で一際盛大に轟を響かせる。雷撃の余波が俺の方までチリチリと飛んで来るが、歯を食いしばって耐える。

 俺の魔力の腕の中で影食いが、その生命をチラシていくのを感じていた……。


「どうだ……。やったのか?」

「間違いない。ジャストミートに散ったのを感じたよ」

「ほ、ほんとか?」


 まあ、そうだろう。アドリックもそこまで常時魔力視を展開できるわけではない。こんな理由のわからない魔物、本当に倒せたのかも実感できないのだろう。


「あ……。魔石……」


 そして俺の影の中に転がる大きめの魔石が、影食いを仕留めた証拠となった。


 ……。


「ふぅ……。でも、ゴブリンの怯えの原因はこれで分かったかもね」

「ああ。あんなのに狙われたら、ゴブリンも訳が分からないまま少しづつ魔力を吸われて死んでいくしかないんだろうな」


 アドリックもようやく不安が薄らいだのだろう。

 それでも、俺達は来たときのようなピクニック気分から一転して、完全に警戒モードのまま集落まで戻っていった。


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