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54 誤解はハティから

 ハティをパーティーに入れる件に関しては許可を貰ったものの、登録前にギルドを出てしまったため、パーティー登録は後日行うことになる。

 ハティだけじゃなく、俺もまだ登録はしていないんだけどな。


 パーティーの登録は、冒険者証をギルドに設置してある魔道具で連携してもらうことで完了する。冒険者証自体が魔道具であるため、そのプログラムをいじるような感じらしい。


 アドリックに今日はそれでいいかと聞かれて俺はもちろん大丈夫だと答える。




 皆が森に入る準備をしているとファラド将軍がハティに話しかける。少し硬い空気をほぐすそうとする感じだろう。


「お嬢ちゃんは、前衛だね?」

「うん、分かるの?」

「なんとなくな」


 戦闘スタイルとすれば、アドリックは前衛も後衛もこなせる万能タイプ、セヴァはガチムチのタンクだ。そして俺が後衛の魔法使い。リュミエラも後衛で回復とバフを担当する。


 例の守りの力を上げるリュミエラの魔法は、あれから改良を重ね、仲間の戦闘能力を上げる使い勝手の良いバフに調整してある。

 野盗などに襲われて身を守るだけでなく、こういったパーティーでの魔物狩りの時にも仲間の力を底上げするように対応できる感じだ。


 そしてハティは完全に前衛のアタッカーだ。

 原作では「竜喰らい」という呼び名を持つハティは、その名の通り、ドラゴンの肉が大好物という設定だった。その高級肉として名高いドラゴンの肉を食いたいが為に、最強種である竜達を狙って狩りに行くという事からついている。

 もはやドラゴンバスターどころではない。


 そんなドラゴンと戦うんだ。ドラゴンはこの世界でもトップレベルに強い魔物だ。そんなドラゴンの攻撃を一撃でも受ければ相当なダメージを受ける。ハティはその素早い動きで、ドラゴンの動きを掻い潜り攻撃を続けられるというのが特性だ。

 つまり、異様に速い速度を持ち、硬い竜の鱗を断つ攻撃力を持つ。


 といっても、それは完成形のハティなわけで、実際はまだまだだ。それでもスピードと腕力は同年代から考えれば目を引くものがある。


 俺は、そんな感じでハティの強さをこれでもかと説明する。


「なるほどな。ラドがそこまで言うんだ。期待しよう」

「うん。絶対後悔はさせないよ」


 アドリックは頷きながらハティを見る。


「ラドとはよく戦うのか?」

「えー。ラドは全然戦ってくれないんだよ」


 素直なハティの答えに俺は苦笑いをしながら、それを見つめる。アドリックも仲間にいれると決めればもうわだかまりは無くなったようにハティに接してくれる。


「まあ、ラドは魔法使いだもんな、訓練は一緒には出来ないか」

「違うよ。ラドは意地悪なだけだよ。リヴァンスハントから還ってきたばかりの時に戦ってくれたんだよ?」

「リヴァンスハントか、結構前だな」

「そうなんだよ、その時はあたしは一度もレベルを上げてなかったから。全然勝てなかったよ」

「……え?」

「でもね。あたしがレベルを上げたら、全然戦ってくれなくなって」

「そ、それは……。ラド。ちょっとずるくないか?」


 げ……。ハティ何を言っているんだ。それじゃあレベルが段違いに高い時に「俺つえー」してる嫌な奴じゃないか。しかもハティがレベル上げると戦わずに勝ち逃げしてる。そんなイメージになってしまう。


 話を聞いていたセヴァも「おいおい、筋肉が泣くぜ」なんて呆れた顔をしてる。


「ははは……。ちっ、違うんだよ。俺は魔法使いだからさ、そっちの練習が――」

「毎日剣持って踊ってるじゃん。スコットとはたまに戦ってるでしょ?」

「いや、あれは踊ってるわけじゃなく……」


 やばいぞ、ハティに喋らせていると良くない流れになりそうだ。ここは流れを変えないとまずい。

 

「よ、よし、そろそろ森にいかないとね! 時間がなくなっちゃうよっ」

「ん。そうだね。行こうよ。行こう!」


 ふむふむ。さすがハティだ。すぐに俺の振りに反応してくれる。話を合わせてるわけでもなく単純に戦いたいだけだとは思うけど。これはこれで良い。

 セヴァもそろそろ立ち話に飽きていたのだろう。「よし、行くぞっ」と早速森へと歩き出す。


 アドリックも苦笑いしながらそれについていく。

 と、振り向くとリュミエラは、その場に立ったまま俺を見つめていた。


「ん? どうしたの? やっぱりリュミエラは少し怖いのか?」

「ラド……。随分とハティさんと仲が良いのですね」


 おや? なんだかいつものリュミエラと雰囲気が違う。やはりハティに勝ち逃げしているというのはイメージが悪いか。

 かなり幻滅させてしまったようだ。リュミエラの目が少し怖い。思わず背筋に冷たいものが走るのを感じる程だ。


「え? う、うん……。まあハティも家に住んでいるからね」

「……一緒にお住まいなのですか?」

「えっと? いや、同じ敷地で……」

「……敷地が? 幼馴染のような、感じなのですか?」

「幼馴染というか、うーん……」

「まさか、それ以上の?」

「……へ? いやいやいや、ないないないって」

「でも、ハティさんはあんなに可愛らしいじゃ無いですか?」


 な、なんなんだ。これは褒め殺しってやつなのか。俺はうろたえながらも必死に答える。


「うーん……。まあ、お姉さんも美人だからハティそのうち美人になると思うけど……。まだ子供じゃ無いか」

「ハティさんのお姉さん?」

「ああ、ハティのお姉さんは家でメイドをしているんだ。僕の専属のメイドで――」

「せ、専属!? まあ! そんな……」


 あ……。やばい。また専属誤解が発生している。

 驚いているリュミエラに俺は慌てて弁解を重ねる。


「え? あ、いや。違うんだっ! そういうのじゃ無くて、家のメイドさんの中で色々と僕の身の回りの……」

「……身の回りの……。そうですね。男の人って……。そうなのかもしれませんね」

「おーい……」


 おいおいおい。何が起こってる? どんな地獄ですか。

 俺が助けを求めファラド将軍の方を向けば、ファラドは何故か厳しい顔つきで俺を見ていた。


「その年で専属だと?」


 いやあ、本当に……。専属とか、違うんだけどな。


 俺が必死に誤解を解こうと言葉を探している時、先に森へと歩き始めていたセヴァとハティが振り向いて大声で叫ぶ。


「なあ、早く行こうぜ!」

「そうだよ。早くしようよ!」


 いつの間にかハティもちょこちょことセヴァの後ろについて行っていた。



 俺はここぞとばかりに、「ごめんごめん」と二人に向かって走る。

 こうして俺は、難を……。逃れたのか?


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