53 アルカとルード 2
「なぜ? えっと理由?」
「そうだ。彼女は貴族には見えないが?」
なる程。確かにハティは見た目から庶民の恰好をしている。それもきっとティリーが若いころ着ていた服をそのまま着ているのだろう。
装備も無い。
アルカとルードの問題以前にそっちだったか。しかし今更引けない。
「貴族でなければ駄目なの?」
「ん……。駄目という訳じゃ無いが、リヴァンスハントすら受けてないだろ?」
「確かにまだ俺達ほどレベルを上げるわけじゃ無いかもしれないが、一緒に森で狩りをして、ある程度レベルもあがってる」
「ラドと一緒に? あの子は何者なんだ?」
うん、そこもちゃんと話さないとな。
「この子は、うちの使用人の娘なんだけど。ちょうど僕たちと同じ年なんだよ」
「年齢は見た感じでなんとなくわかるが。使用人の?」
「うん。家の住み込みで働いているから、同じ敷地に住んでいるんだ」
「なる程、小さいころから一緒に遊んでいたと?」
「そんな小さいころから、では無いけどね……」
実際、ラドクリフ少年の記憶にはハティの存在は無い。知り合ったのは俺がこの体に入ってからなので、一年弱程度の関係だ。
幼馴染と言えば良いのかもしれないけど、そんな嘘、すぐにハティが漏らしそうだ。
「装備も無いじゃないか、俺達と一緒に出来るのか? それに、ルードだ」
俺の友達という紹介をしたからだろう。少しだけ「ルード」と言う言葉にためらいを感じた。
「確かにルードかもしれないけど、この子は間違いなく天才なんだ」
「……天才?」
「だって、ルードにだって、S級冒険者がいるよね?」
「確かに、そう言う事はあるが。アルカとルードは能力的な問題じゃない」
「どういう問題?」
俺が尋ねると、アドリックは口を閉ざし周りを見る。
混んでいる時間ではないがここは冒険者ギルドだ。絶えず人が出入りし、特に俺達は注目をされている。
「一度出よう」
「……うん」
「とりあえず、森にいくだろ?」
「……そうだね」
俺達は言葉少なくギルドから出る。そして各々馬に乗りギルドを出る。俺達が目指す森はうちの館とは逆にある。ここよりも少し標高も下がる事もあり、もう雪もなく少しづつ魔物も活発に動き出している。
なんとなくアドリックの醸し出す空気のせいで、俺が馬に乗れない事もネタにはされないのは良かったかもしれないが……。俺は頭の中で用意していた言葉を確認していく。
そして後ろからそっとハティに囁く。
「なんか、ゴメンな」
「ん? 何が?」
「え? えっと。なんか貴族のゴタゴタに巻き込んでるみたいでさ」
「うーん。アドリック様はちょっと難しい事を考えすぎてるだけだと思うよ」
「ははは」
ハティのあっけらかんとした答えに俺は少し気持ちが楽になる。
そしてファラドは、何か楽しそうにニコニコと後ろからついてくる。ファラドは義将ファラドと呼ばれるほどの人物だ。第一王子派として争うアドリックに対しても諌言を口にする男だ。きっとアルカとルードの問題は、ファラドだって好んでは居ないと思う。
……。
街を出ると、何人かのエクスハントの兵士が合流してきた。やはりかなり過保護な冒険者活動だなあと思うが。通常は森までは歩いていくものらしい。今回俺達が馬で行くという事で、森の入り口で馬の番をしてくれるという。
確かに考えてみれば、馬に乗ったまま戦うというのも難しそうだ。そして、その馬をどうするかを考えると確かに徒歩で行くのが普通になるのだろう。
やがて、人里からだいぶ離れ、森の入口までやってくる。
アドリックが馬から降りると、俺達も同じ様に馬から降りる。
馬から降りたアドリックは、俺を待ち構えるかのようにこっちを向く。俺も逃げるつもりはない。小声でハティに馬に乗って待ってるように言うと、サロンから飛び降りてアドリックの方へ行く。
「ラドだって知ってるはずだ。アルカは高貴なるエルフの血を引き継いでいると」
「そうだね。その話は知っているよ」
「だったら分かるだろ?」
「……でもさ、アドリック。それって本当なのかな?」
「おい。ラドどういう意味だ?」
「だって、エルフの血って見えないでしょ?」
「ふぅ。何を言っている。髪の毛にそれは現れてるだろ?」
うーん。信じているものにそれは違うというのも結構残酷なんだよな。
「伝説って何千年もの間に色んな間違いが混じったりするんじゃないかってさ。ルードって言っても赤い髪だったり青い髪、緑の髪、黒い髪とか色々あるでしょ? 金髪や茶髪だってその中の色の一つだったりしないかなって」
「なっ……。ラドは信じないのか?」
「信じていないと言うより、色々と古い伝説の本を読んでて気になったんだ」
「気になる? 何を?」
「昔のエルフの伝承で、エルフや、ハーフエルフは出てくるんだよ」
「……それが?」
「でも、どの伝説を見てもクォーターエルフって出てこないんだ」
「それがなんだって言うんだ?」
うーん。一応この世界でも馬とともにロバや、ラバがいるのは確認してある。
「ラバって知ってる?」
「……いや」
「馬とロバをかけ合わせて作ったのがラバなんだ」
「だから、それがどうしたんだ?」
「言ってみれば、ハーフの馬、もしくはハーフのロバ、となるんだけど」
「それがアルカとどういう関係が?」
「……ラバには繁殖力が無いんだ」
「なに? どういうことだ?」
「種族が違う者同士から生まれた子は、子供を作れない……。つまりハーフまでの血統しか残せないんだ」
「え……」
俺の言葉に、アドリックが固まる。当然だ。アドリックは俺より少し早く生まれているからすでに七歳ではあるが、七歳で理解できるような話かというとすこし難しいとは思う。
それでもアドリックは転生チートを謳歌しまくるエリックの一番のライバルでもあった。それだけ才能としてはずば抜けたものを与えられている。
今までのアドリックを見ていてこの話だってなんとなくでも理解できるという判断だ。
「人間とエルフも種族は違う。だからハーフエルフは繁殖力が無かったんじゃないかって。それを唱えた学者が昔、居たらしい」
「そ、それは単なる説だろ?」
「でも、アルカがエルフの血を引いているというのも説でしか無いんだ」
「そ、そんなはずは……」
アドリックは少しうろたえたように答えながら、視線をファラドに向ける。ここにいる大人はファラドだけだ。当然の反応だろう。
そのファラドは、厳しい顔のまま、じっとアドリックを見つめていた。
「ごめんねアドリック。混乱させちゃって」
「……こんな話、父には出来ないぞ?」
「分かってる。アドリックが友達だと思ってるからこそ、言いたかったんだ……」
「……」
「僕だってまだこれがホントだなんてわからないよ。だけど、あやふやな説だけで、友達であるハティをパーティーに入れるのを断るというのは、なんていうか、さみしくて……。残念だなって」
「ラド……」
「なに?」
「お前は、本当に……。なんだよ!」
「僕は。……アドリックや、セヴァ、リュミエラの友達だと思ってるよ」
声を荒げるアドリックに、俺はあえてトーンを落として答える。珍しくアドリックは怒ったように、そして戸惑ったように、明らかに混乱していた。
「……。俺はお前に借りがある」
「え?」
「リュミエラを守ってもらった」
「あれはっ。違うよ、僕だってセヴァだって、リュミエラを守りたかっただけだよ」
「……ハティといったな? パーティーに迎えよう」
「アドリック……」
「だが、これで借りはナシだぞ」
「いや、貸しなんて作ったつもりもないから……。でも、ありがとう」
「全然戦えなかったらクビにするからなっ」
「大丈夫。ハティは天才だから!」
アルカとルードの俺の話が、アドリックにどう影響したかは分からない。現にアドリックは話に納得しての許可ではなく、俺への借りだという。
だけど、まずはここからだ。
横目でファラドを見れば、ファラドはどこか満足そうに優しい笑みを浮かべていた。
……。
「え? じゃあ、俺もアドリックに貸しがあるのか?」
そんな中、空気が読めてないセヴァの一言に、俺は反応することが出来なかった。




