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 ハティとスコットは小屋にいる間は毎日のように雪幻草を探して山を彷徨っているようだった。途中に出てくるスノーラビット等を捉えるとおみやげに持ってきてくれる。


 ドマーネ達も体が資本の冒険者だ。肉類が食卓に上ると当然テンションは上がる。


 それにしても、少しドマーネ達も退屈になってきているのだろう。冒険者と言ってもドマーネたち三人の主たる仕事は賞金稼ぎだ。

 犯罪者たちを追い、戦うのを仕事にしているそんな三人が、雪山で樹液を集め、測った温度や、収穫量をノートに記し、あとは収穫した樹液を煮詰める。そんな生活を続けているんだ。


「もしよかったら数日街に降りて息抜きしてくる?」

「おお、旦那良いのか?」

「流石に同じ仕事もずっとやってると疲れるでしょ? 風呂とかにも入りたいだろうし。あ、とりあえず今日までのお給料を渡しておくよ」


 そう言い、三人にこれまでの日当を渡す。三人とも予想していたより多めの額が入っていたようで驚きとともに喜ぶ。

 俺としても、ずっと連勤させてしまってることに若干の後ろめたさはある。ゆっくりしてくるようにと三人を見送る。


 それでも三日ほど休んでまた上がってくると言うので、その時にまた野菜や果物など適当に食材を買ってくるようにお願いした。


「いいんですか?」


 そんなやり取りをオッツォは不思議そうに眺めていた。

 まあ、この世界で労務協定など存在しないだろうし、ちょっと不思議なのかもしれない。


「たまには休みをあげないと、労働効率も下がるからね」

「労働効率ですか?」

「まあ、ここの仕事はそんなに大変じゃないけど。それでも集中力が落ちれば樹液を焦がしちゃうこともあるだろうし。まあ、ね」

「なるほど……」


 なんかプロのビジネスマンに偉そうなことを言いすぎかもしれないが、まあ良いだろう。


 ……。


 ……。


 それから二日経つ、オッツォももう樹液採取に関しては問題なく理解していた。本来一人でもできる仕事だ。二人で採取等をしているとだいぶドマーネ達も暇だったんだろうなと感じる。



 この日、昼の気温計測を終えた俺は、外でいつものように魔力操作をしながら太極拳をしていた。

 少しぬかるんでいるがそろそろ雪も溶け始め、日の当たるところならそのくらいは出来るように成ってきている。


「ラドー!」


 山の方から俺を呼ぶ声が聞こえる。俺は太極拳の手を止めそっちの方を向けばハティが何やら大事そうに両手で何かを抱えて走ってくる。

 後ろにはスコットが苦笑いをしながら歩いてついてきていた。


「おお、ハティどうした? って、それ……。もしかして?」

「ひっひっひ。なんでしょうか!」

「雪幻草?」

「正解!」

「おお、見せて見せて」


 お、おお?


 なんとなくイメージで、可憐でファンタジックな植物を予想していたのだがちょっと違う。雪幻草は、どちらかと言うと多肉草の様な感じだった。球根のように根の部分が丸い塊になっており、上部の茎や葉が分厚い多肉植物の様な見た目に成っている。


 可憐というよりキモかわいいって感じだ。


 不思議そうに見つめる俺にスコットが説明してくれる。


「この根の丸い部分が魔石を覆ってるんだ」

「あ、この中に?」

「そうだ、その魔素をすべて吸収すると成長が止まり、そのままにしておくと次第に枯れるんだ。このまま魔石が空になる前にギルドに持っていき、精算をする感じだな」

「へえ……。あ、そうか。ハティも一回山降りる?」

「降りる!」

「ああ、じゃあ、スコット一緒に行ってあげて」

「良いのか?」

「なにもない山だし」


 こうして、ハティとスコットも山を降り、俺はオッツォと二人で仕事を続けた。 



 ……。


 その後、ドマーネ達も山に戻ってくる。交代でオッツォも一度山を降りたりと、メンバーは入れ替わりながら作業自体は続いていく。


 それから数週間採取を続け、採取量が減ったところで今年の採取を終了する。

 試しとは言いつつ、白樺の樹の量も多いため結構な量のシロップを作ることが出来た。


 ちなみにシロップの濃度に関してはオッツォが悩みながらある程度決めていた。


 薪ストープの火力だとたまに焦げて味に苦みが出たりするということで、途中で街に戻った時に、専用の魔道具を持ち込んでいた。

 魔道具のコンロは火力量も調節できるため、こういう作業には最適のようだ。

 俺の採取ノートと別に用意してあったノートに、何%くらい煮詰めるのが最適かなど一生懸命探っていた。


 多分、オッツォに任せておけば問題ないだろう。

 ドマーネ達ともうまく関係を作り、採取等の規模を拡大するときの手助けなども頼んでいた。


「ねえ、オッツォさん」

「はいなんでしょう」

「んと……。来年以降の採取はどんな人を使う予定なの?」

「えっと、冒険者ギルドで依頼を出すとか……。あとは商会で募集する感じでしょうか」


 まあ、そんなところだろうな。

 なんか俺としてはプロスパー商会の評判も良くしたいんだよな。


「僕の館の周りって、畑やってる農家さんいっぱいいるでしょ?」

「ええ……。居ますが」

「多分この時期って、みんなまだ畑仕事を休んでいる時期だからさ、ご近所さん達にやってもらうのって良いかなって」

「えっと……。引き受けますか?」

「うん、多分みんな冬は仕事無いから、内職したりして畑を休ませてる時期の収入を確保しているみたいだから。地元の人達にそういうのお願いするのって、喜ばれるかなって」


 地産地消じゃないが、地元にお金を落とすのって日本に居た頃はよく言われた事だったからな。なんとなくその流れもあるし、家の周りの農民たちがあまり贅沢な生活をしているようには思えないんだ。


 それに俺は死亡エンドがあるラドクリフという少年に転生したのだが、それはそれとして、大商会の息子という恵まれた立場にいる。

 初めて館の高い塀の外へ出た時から、それは気になっていた。


 立派すぎる我が家と比べて、周りには畑と粗末な民家。あまり良い気はしない。


 オッツォもここに来てようやく俺の言いたいことを理解したようだ。


「……確かに、そうかもしれませんね」

「だから、僕らもあの集落で生活しているから、皆喜んでくれれば、ご近所付き合いもいい感じになりそうだよね」

「……失礼ですが」

「ん?」

「ラドクリフ様は……。本当に六歳なんですか?」

「え? あ、もう少しで七歳になるんだよ」

「そうですか……。いえ、とてもいい案だと思います。そこも含めて事業計画を纏めさせていただきます」

「うん、よろしくね。安く使うって言うよりちゃんと地域が良くなるように給金も上げてほしいな」

「はい、そこら辺は会頭とも相談しないといけませんが、その気持大事にしたいと思います」

「ありがとう」

「い、いえ……」


 まあ、考えが六歳じゃないと突っ込まれれば、何も得ないのは確かだ。

 と言っても転生なんて話し、絶対口にできないし、しても信じられるような話でもない。言うならば、純粋な子供なら皆の平和とか、そういうの考えそうじゃないか。というスタンスで意見をブレないようにするのが一番なのかもしれない。


 一応うちは男爵家になる。商人だけどれっきとした貴族だ。ノブレス・オブリージュってのが貴族のルールなら、近所の人達にお金を落とせるなら落としたいって思う。


 父親がどこまで金に汚い商人かは分からないが、オッツォの様な若い従業員を見れば割と自由にさせているような気もする。

 そこに期待しよう。


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