02.はい、余裕
深夜零時、ヴァドは家へ帰るべく薄暗い路地裏を抜けている真っ最中。路地裏の横幅はそれほど狭くなく、使われなくなった自転車やゴミ生き物の死骸などが散乱し空気はお世辞にも綺麗とは言えないほど汚染されていた。
こんな場所は早く抜けたい、家へ帰ってゆっくりしたい。風呂に入りたい、テレビがみたい、ぐっすり寝たい、そんな時に限って災難な事が起きるのが人生ってものだ。
「……」
「グゥルルル」
災害レベル5 S級魔獣 POPなヘドロ
因みに災害レベルは1から順に5まで、強い順となっている。
朝から修行漬けでもう服はボロボロ、体は汗まみれ、出来ることなら浴槽にジャバンしたい所だ。それに、こんな汚い路地裏へわざわざ来たのも近道だったらだ、こんなことなら正規ルートで良かったぜ……。急がば回れってこういうことを言うんだな……。
「……ま、魔獣さんや、俺を見逃してはくれない、かい?」
「ガウルル」
どうやら無理そうだ完璧に威嚇してきている。コチラを睨みつけ、構えの体制へと早くもチェンジしてやがる。俺にとって今日がどれだけ大切な日なのか。魔獣は知らないだろうが特別な記念日なんだ。こんな所で邪魔されてたまるかってんだ。
体長は軽く見積って俺の十倍はあるだろう。こんな巨体に攻撃されてはこちらも困る。
「……ガル!!」
無情にもそんな巨体から鋭い爪の引っ掻き攻撃が繰り出された。コイツの掛け声は『ガル』。あまりにもダサいがそこは触れないでおこう。
「ガル!! ガル!!」
不覚にもそんな『ガル』は俺の顔面へ直撃した。
「……よせ。俺は言わずと知れた最強のヴァド様だぞ……ッ! いててててててッ!、いててててていてええええっっっ!!」
が、こんな攻撃如き俺が食らうはずない。少し目にゴミが入っただけだ。ふう、血、でてないし、よかった。
俺は顔面を手で拭った。幸い、付着したのは汗と泥だけだった。
そんな俺を他所にPOPなヘドロは俺を畳み掛けるかのように次々と攻撃を繰り出した。
「ググググ、グァァァア」
ふっ今度は牙か……っ。鋭い牙を剥き出し大きな口が俺をのみ込んだ。
「……うぅ、ぐほ、きたねえ……」
俺は魔獣の口から半分はみ出て涙ながらに嘆いた。こいつの体液でからだはもっとベタベタだ……。
──うお? コイツ跳ね上がったぞ? ッ!! 落ちてくる落ちてくる!!
「……ガルルルグァガルル」
うう、体重攻撃……。
「……うわあああ。くるなあああ! ッ?! いてえぇぇぇぇめ、めめめ目に砂がああ」
今度は押し潰された。……は、はやくどけてくれ……
「んんん!! グルるがァァ」
……お、おい今度は何だ? 角か? 角はないだろ角は! 角はないだ……
「……ッ!? あああッ!! いてえぇぇぇぇ! ちょっちょいまぅて! ダメダメ! や、やめろおお!!」
俺は空高く宙に舞った。人生で一度は空を飛んでみたいなんて夢見たことがあるがこんなのは望んでいない……。
──不覚ながら『ガル』の攻撃でかなりの砂が目に入ってしまったようだ。断じて砂が入っただけだ。こんな事で倒れてしまえば最強の名が廃る。
こんな所で俺の力は出したくなかった。だがしかし、コイツは俺の瞳を傷つけた。汚い砂で円な瞳を傷つけた。
──コイツ、もう許さねえ。
俺は魔獣を睨み付けた。
ッ! すると次の瞬間、POPなヘドロからは渾身のパンチが繰り出された。
「ガルウウァァ!」
スキル『封印』解除
【攻撃力】100→9999……
【防御力】100→9999……
「ふふ、ふはあああ!」
俺は『ガル』のパンチを片手で受け止めた。余裕だ。これぞ圧倒的勝利。残念だったな、相手が悪かった。来世でまた会おう。
得意の技を繰り出すべく俺は大きく振りかぶった。
「──必殺、強烈一撃」
──ゴゴゴゴゴゴゴッッッ……
強い衝撃波と共に俺の拳はPOPなヘドロを貫いた。
強く強く握られた拳には慈悲など存在しない。
解放された俺の力は手加減など出来ない。自分ですら制御する事が難しいのだ。
魔獣の姿を確認し俺はそっと突き出した拳を元に戻す、ひゅーひゅーと冷たい風が俺の罪悪感を加速させる。力の制御ができない拳、見つめれば見つめるほどむなしくなるだけ。俺は心を無にし家へ向かった。
辺りには煙が立ち込め、蜘蛛の巣も肝心の蜘蛛がいない。
爽快な音と共に、S級魔獣POPなヘドロは無惨な姿へと変貌した。跡形もなく砕け散った。俺の手によって。
スキル『封印』発動
【攻撃力】9999……→100
【防御力】9999……→100
【スキル】『泥耐性』獲得NEW!
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