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挿話11.茶菓子

レオナルド視点。「51.悪役」の数日後の話。



 カツカツと足音を立て、室内に入ったレオナルド。

 控えていた部下に上着を渡し、ソファーに腰を下ろした彼は、短く息を吐く。


「午後からの予定は、本日復帰するヴァネッサが引き継ぎます」

「分かった」


 レオナルドの返事を聞いた部下は、手渡された上着を整えた後、部屋を出て行った。その部下と入れ替わるようにして、メイドがティーセットを運び入れる。ソファーへと背を預けていたレオナルドは、体を起こし、注がれたカップに口をつけた。


 珍しく、スペンサー嬢からの希望で“お茶会”を開いたのが三日前。そこで、ヴァネッサに関する、にわかには信じがたい話を聞いた。

 通常であれば、彼女の話を鵜呑みにすることは、まず無いだろう。しかし、これまで彼女から提供された情報の内容や、あの自信に満ちた顔に、もしかしたら本当に────と、思ってしまっていた自分に驚いた。


 結局、アイヴィーとのお茶会後にすぐ、部下をクスタードの森へ向かわせたレオナルド。説明に合った通り、森の奥、二本に分岐した川を下って行った先に、滝が流れ落ちる湖があった、と帰ってきた部下から報告を受けたのが、つい先ほどの事だ。


「まさか、本当に……」


 レオナルドは、再びソファーに深く沈みながら黙考する。

 しかし、だとすれば、長年閉じ込めてきたこの行き場のない想いを打ち明けることができ、明るい未来へ向かえるのではないだろうか。しかも、俺だけではなく、国全体でだ。


 “ロッソと森の龍”


 ソレ(・・)は確かに、この辺りの国の人間なら誰でも知っているほど、有名な伝承である。

 だが、それだけではない。

 このアルバ帝国を築いた際、幾多もの国が傘下となった時から、皇族にのみ教えられ、後世へと引き継がれている書物の中に記されている────赤金に輝く髪と瞳を持つ少女と、その子を寵愛する守護龍の記録。

 その本を読めば、誰もが知るその御伽噺が、本当に過去に起こった事であると信じずにはいられない程であった。


 レオナルドは、その本の内容を知るはずのないアイヴィーから、ヴァネッサについて聞かされた時のことを思い出す。


「…………ッ」


 あの時、最後に見せた真っ黒なアイヴィーの笑みを思い出したレオナルドは、ぶるっと背筋を伝う悪寒に身を震わせた。


「あの顔は、悪役というより悪魔のようだったな」


 思い出しては体が冷える感覚を覚えたレオナルドは、あの顔は忘れようとお茶と共に用意された茶菓子へと手を伸ばす。


──さて、ヴァネッサにはどう話を切り出すか。


 彼女が何も知らず休養している間に、話はとんでもないほど大きくなっている。

 この後、スペンサー嬢から聞いた事を伝え、今後を話し合うべきだろうな……。

 レオナルドがそう結論を出した時、扉をノックする音が響いた。


「失礼します。とても長いお休みを頂いておりましたが、本日から泣く泣く復帰致します」

「……あぁ」


 部屋に入るなり、いつもの口調でそう言ったヴァネッサ。充分に休養したこともあり、顔色は良く見える。しかし、レオナルドは彼女の手元に視線を落としながら、気おされたように答えた。

 頭を上げたヴァネッサは、あぁ、とレオナルドの視線に気づき、お茶と共に用意されていたお皿の上に、紙袋の中身を移した。


「実は、あの時……殿下が席を立った時に、残りの茶菓子を全て食べてしまったのは……またこうして殿下が食べて喜んでくれるよう……味を覚えて、練習するためだったんです」

「……ヴァネッサ」


 そう言いながら不器用に笑ったヴァネッサを見て、レオナルドは零すように彼女の名前を呼んだ。

 皿の上には、袋から取り出した様々な形の茶菓子が並べられている。


「いや、嘘だろう。だったらなぜ、これまでの数年間なにもなかったんだ」

「…………」


 ヴァネッサをジトっとした目で見つめながらそう言ったレオナルド。無言になったヴァネッサが持ってきた、あの日の────ヴァネッサが横取りをして食べてしまった────ルーティアさんの作る茶菓子を再現したらしいモノに目をやる。

 その中から一枚、手に取って口に入れる。


 ボリッ


「…………」


 形状も、色も、何もかも、あの頃に食べていた茶菓子とは違う。

 全くの別物である。

 味も……正直言って、あまり美味しくはない。


「まぁ……、いいんじゃないか」

「……!」


 そう言って、パクッと手に持っていた残りをすべて口に放りこんだレオナルド。ヴァネッサは目を丸くした。


「ラスカと共に作ったのですが、少し分量を間違えてしまったようで……失敗作だったのですが、殿下の口にはあったようでよかったです」

「…………」


 驚いた表情のままそう言ったヴァネッサを見て、レオナルドは目を細める。目の前に置かれている皿の上には、まだたくさんのお菓子が積まれている。その中から一つ、今度はハートの形のクッキーを手に取る。


「これは……ヴァネッサ、君が作ったのか」

「いえ、それはラスカです」

「……君が作ったのは無いのか」

「私のはこちらです」

「これは……」


 レオナルドはヴァネッサが指さした、不思議な形のクッキーを手に取り、様々な方向から観察する。


「ドラゴン?」

「ネコです」


 味覚も音痴で見る目もないんですね、と呟いたヴァネッサに対抗するように、レオナルドは再び山の中から一つ、一際不格好なクッキーを手に取る。


「もしかして、この不細工なのも君が?」

「すごい! どうして分かったのですか? それはレオナルドの顔です」

「…………」


 相変わらずの憎まれ口。

 しかし、どこか楽しそうな彼女の姿を見て、レオナルドは口を噤んでいた。

 本当はこの後、ヴァネッサにアイヴィーから聞いた内容を伝えたのち、気持ちを打ち明け、共にクスタードの森へ行ってみよう、と提案するつもりでいたのだが……。


──調査と称して陛下直属の騎士と、あとは謁見希望も出して、書類も準備しておこう


 レオナルドはヴァネッサには黙って、全ての準備を急がせることを決めた。


 こうして、ヴァネッサはレオナルドからこれといった説明もなく、突然「出かけよう」と言われ、クスタードの森へと連れていかれた。そして、そこで祝福を受けたヴァネッサは、訳が分からないまま、レオナルドと共に陛下に謁見するという目まぐるしい数日を送ることになった。書類にサインをする段階……外堀を完全に埋められた状態になってから、ようやく我に返ったヴァネッサは、レオナルドに説明を求め、そこで初めて想いを伝えられたのであった。



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