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あの頃の風景 プロローグ  作者: ミクマリ
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眩暈

大阪の街は東京よりも湿度が高いらしい。身体に熱が籠り額から滝の様な汗が流れてくる。

まだ午前7時なのに暑さが20度まで上がり早朝散歩をしているジャージ姿の男もこの時間に散歩した事を悔やんでいる様な険しい形相となっている。

ホテルをチェックアウトして商売道具を入れた鞄を持ち裕也は梅田繁華街に入り、駅とは反対方向へと目的なく歩いていた。夏物スーツを脱ぎ無造作に片腕に持ち邪魔なネクタイだけ外して鞄の中に無理やり押し込んだ。ワイシャツも上のボタン2つ外して髪をワックスで幾分立て無造作ヘヤに仕上げた。

ここは東通り商店街と云われ事前のネット情報にて通称スケベ商店街と言われるところだ

風俗店やDVD屋やカラオケボックス、鮨、焼き鳥、焼き肉、立ち食いうどん屋がひしめき合い

縦の通りはラブホだらけだ。

早朝で店は閉まっているにも関わらず独特で猥雑な空気を醸し出している場所である。

覚悟を決めた裕也は行動も早く今日は商談のある目的地まで行かず

一日大阪見物する予定に決めた。

明日以降の事も何も考えておらずこの後の展開もめんどくさいので考えない。

東京も大阪も都会と云われるがどこも人工的な緑を植林して無機質な道路を少しでも景観良くしようと無駄な努力をいているに過ぎない。高層ビルが規則的に立ち並びその中でヒートアイランド現象の異常熱気を作ってしまった人間のせめてもの償いなのであろうか。偽物の自然に騙された雀の声には朝の爽やかさよりも一層都会もどきの胡散臭さが際立ってくる。

ビールで流し込んだ睡眠薬でも裕也に熟睡を与えず未だ意識朦朧として歩いている裕也はイラつきながら

独り言を呟いた。

(早く天災でも来て皆死なねぇかな。)

裕也は缶コーヒーが嫌いなので喫茶店を探している

土地勘の分からない裕也は今どこに向かって歩いているかも分からない

スマホのネットナビを見ながら目的地を探すような野暮な事はしない

気の向くまま歩くだけだ

陽光が容赦なく照り付け、汗だくになりながら珈琲が飲めない苛立ちが益々湧いてくる。

午前7時ではサラリーマン姿の人は見えず道も閑散としている

その代わりに老人達が男女とも古い自転車に空き缶を入れた大きなゴミ袋を括りつけ走っている姿を何人も見かけた。歳を取っても生きていくのに必死な世の中、年金だけでは生活できないのか?

年金も貰えない訳ありの老人達なのか?

何の為にこんなに必死で働かなくちゃいけないのか?

この老人達は戦後日本の高度経済成長期に身を粉にして働き日本を経済大国1位にまで押し上げた

国にとっては感謝されるべき人達じゃないのか?それなのに年金では生活出来ずに老体に鞭打って早朝に空き缶拾いをしなければいけないほど困窮しているのか?

俺の時は年金も貰えないかもしれない。

なのに毎月少ない給料から年金が天引きされている

バブル期に経済大国になった日本が団塊世代や無能なバブル世代のバカ達が食い散らかして

挙句の果てにこれかよ!

アメリカ主導の自由経済を導入したからこんなにも貧富の差が広がったじゃねぇのかよ。

不機嫌な頭にて暑さで不快指数マックスで爆発寸前まで我慢して歩いてたらお初天神の看板が見えてきた

「俺はどこに向かってんだ?茶店も無いのかよ!」

仕方がないので裕也はマックに入り珈琲だけを頼んだ。アルコールと睡眠薬を常時服用しており裕也の胃は朝食を食べれなくなっており毎朝吐き気を我慢する生活スタイルになっていた。

裕也は小声で毒づいた「俺が胃潰瘍になるなんて全くたいしたクソブラック会社だぜ!」

「マックは喫煙席が無いから嫌いなんだよな」

仕方がないので我慢してスマホ見ながら紙コップのブラックコーヒーを飲んでいた。

前方で頬肘ついて気怠そうにしている女の子が目に飛び込んできた

ひとりで暇そうにしているが相棒が居そうな気配もなく

旅行鞄をテーブルの下に置いており出勤前にはとても見えない

ブスではないが垢ぬけない地味な田舎もんの娘に見える

こちらの視線に気づいて女の子と視線があった。

笑顔も見せずに視線も逸らさずボーとみてやがるな。。

「あの、私に何か御用でしょうか?」女の子は俺に突然聞いてきた

「別に何も用事はありませんよ」俺は面食らって咄嗟に頭を働かした

「俺は東京から遊びにきていて道に迷ってるんです」

「駅にはどう行けばよろしいのか教えて頂けないでしょうか?」

女の子は暫く沈黙して「すみません、私も大阪の道が分からず駅がどこにあるのか分からないのです」

これが裕也とマリの最初の奇妙な出会いであった



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