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Element Eyes  作者: zephy1024
第十二章 学園制服編
195/327

195.同行-Accompany-

1991年7月7日(日)AM:10:42 中央区特殊能力研究所地下二階


 魔方陣の描かれた鉄格子の中。

 蹲るように座っている男。

 のは死んだ魚の様な目をしていた。


 聞こえてくる足音にも、興味を示す事はない。

 現れた黒のレディーススーツの女性。

 鉄格子越しに男を見る。

 彼女の瞳に宿るのは、憐憫。


鳥澤(トリサワ) (タモツ)、お前のした事は許される事ではない。でももし私が同じ立場だったとしたら、同じ事をしたかもしれないわ」


 悲しみの瞳で見下ろす白紙(シラカミ) 彩耶(アヤ)


「でもね。もしかしたら別に黒幕がいるかもしれないのよ。湯上(ユカミ) 正克(マサカツ)や他の監察官の保っていた一線を破壊した人物がね」


 彼女の言葉に、瞳に生気が少し戻り始める。


「あなたは明日、別の場所へ移送される。移送先については、毎回問い合わせてるけど教えてもらえてないわ。だから、私達はあなたが何処に移送されるのかはわからない。私も美咲もずっと疑問に思ってた。何故移送先を公表してもらえないのか」


 俯いていた鳥澤の顔が、かすかに持ち上がった。


「それを俺に聞かせて何か意味があるのか?」


「意味なんてないわ。でも、もし協力してくれる気があるならば、頼みたい事があるの」


 どう答えるべきか迷っているようだ。

 時折考え込むような表情になる鳥澤。


「移送するとなれば、手枷足枷をされる。そうすれば俺の力はほぼ使えない。そんな奴に何を頼むと言うんだ?」


 彩耶と視線を合わせた鳥澤。

 投げ遣りな瞳のままそう言った。


「あなたに何かしてもらうつもりはないわ。ただ、この二人を同行させる事を黙ってて欲しいの。IEPR日本ランキング四位のあなたなら、こっそり同行させても気付くでしょうしね。だから前もって頼んでいるのよ」


 先程までは彩耶一人だけのはずだった。

 だが、いつの間にか彼女の背後には少女が二人隠れている。

 少女二人に視線を移した鳥澤。


「白紙家の式神か? 見た目はかわいい童女だな」


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1991年7月7日(日)AM:10:46 中央区精霊学園札幌校第五研究所一階


 稲済(イナズミ) 禮愛(レア)が、義手を操作している。

 直ぐ側で見ている朝霧(アサギリ) 拓真(タクマ)

 古川(フルカワ) 美咲(ミサキ)は禮愛の後ろから覗き込む形だ。


 拓真に視線を向ける古川。

 視界の端に人形の手のような物が見えた。

 気になってしまった古川。

 視界の端に見えた人形に歩いていく。


 古川の腰の高さぐらい。

 四つん這いになっているらしい人形。

 カバーがかけられている。

 その為、手先の部分と足先の部分以外は見えない。


「これは?」


 古川の疑問に、拓真も顔の向きを変える。

 カバーがかけられている人形に目を向けた。


「あぁ、それですか。桐原君の案で製作している人形ですよ。厳密に人形と呼んでいいのかはわかりませんけどね。実際にはもう少し大きくなる予定です。それは強度や動作性能等を確認する為の試作機ですね」


「これは完成しているのか?」


「いえ、まだです。一応の骨組みが出来ただけでして。材料不足で進んでないんですよ。火伊那達が桜田さんにお願いしていた材料を持って帰ってきたら、また作業しますよ」


「そうか。そうそう直ぐには出来るわけもないか」


 二人が話しをしている。

 その間も、禮愛は一心不乱に義手の操作をしていた。


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1991年7月7日(日)AM:12:57 中央区精霊学園札幌校第一学生寮男子棟一階一○一号


 ベッドに寝転がっている三井(ミツイ) 義彦(ヨシヒコ)

 一人考え事に耽っている。

 ふと、窓際に置いてある目覚まし時計を見る。

 昼を過ぎている事に気付いた。


 傷の影響と土御門(ツチミカド) 鬼那(キナ)達の監視。

 食料をまともに準備していない。

 その事に今更気付いた。


 朝については、前日に土御門(ツチミカド) 鬼威(キイ)が買ってきてくれていた。

 その為、問題なかったのだ。

 しかし、昼食については、何も考えていなかった。


 ベッドから起き上がった義彦。

 冷蔵庫を開けてみるが何もない。

 ほとんど何も買出ししてなかった。

 だから、当然ではある。


 四日前に土御門(ツチミカド) 春己(ハルミ)にやられた義彦。

 体を拭いてもらったりはしていた。

 しかしそれから四日、風呂には入れない。

 シャワーを浴びる事もしていなかった。


 髪の毛についている寝癖。

 どうするか迷っている。

 しかし、このまま空腹に耐え続けるのは御免蒙りたい。

 その為、面倒だと思いながらも行動を開始する。

 青色のジーパン、半袖のポロシャツに着替えるのだった。


 顔を痛みで歪めている義彦。

 それでも何とか靴を履いた。

 廊下を歩いてくる足音。

 さほど興味を抱かない。

 勢い良く玄関の扉を開けた。


 そこで驚いている顔の二人。

 見知った顔に出くわす。

 竹原(タケハラ) 茉祐子(マユコ)とリアドライ・ヴォン・レーヴェンガルト。

 二人がびっくりした顔で立っていた。


「まゆとドライ?」


「おにぃ? もうびっくりした。アリアベーカリーのパンだよ」


「義彦、こんにちわ。食事の配給です」


「えっ!?」


 予想も出来ない展開。

 二人の言葉に唖然とする義彦。


「ドライちゃん、配給っていうのは語弊あるんじゃないかなぁ? 私達はお見舞いに来たんだからさ」


「それでも配給なのです」


 意味不明な自信で、そう言い張るドライ。

 苦笑いの義彦と茉祐子。


「おにぃ、これアリアベーカリーのパンだよ。とりあえずお邪魔してもいい?」


「あぁ、もちろんだ。丁度昼飯を買いに行こうと思ってたからありがたい」


 靴を脱ぎ、部屋の中に戻る義彦。

 茉祐子とドライも彼の後に部屋に入っていく。


 ベッドに座った義彦の視界に入ってくる二人。

 茉祐子は、デニムのロングスカート。

 半袖のポロシャツもデニムだ。

 ポロシャツの中には白のティーシャツを着ている。


 白と淡い桃色のストライプのツーピースのドライ。

 袖や襟は濃いピンク。

 小さいハートマークが刺繍されていた。


「二人とも、かわいいな」


 何気なく放った義彦の言葉。

 しかし、効果は抜群だったようだ。

 頬を染めてもじもじする二人。

 茉祐子とドライの反応。

 微笑ましい顔になる義彦だった。


「二人とも紅茶でいいか?」


 立ち上がろうとした義彦。

 しかし、きりりと睨んできた二人。

 茉祐子とドライの視線に動けなくなった。


「怪我人は大人しくしていて下さい。おにぃはコーヒーでいいの?」


「あ・・あぁ」


 茉祐子とドライの予想もしない視線。

 蛇に睨まれた蛙如く動けない義彦。

 歯切れ悪く酷く曖昧に返事を返すだけだった。


「ドライちゃんも手伝ってね」


「了解です」


 しばらくしてティーカップ二つを持ってきた茉祐子。

 ドライは自分の分のティーカップをテーブルに置いた。

 そして椅子に座る。

 茉祐子もティーカップをテーブルに置いた。

 その後、部屋の隅にあった椅子に歩く。

 椅子をテーブルまで移動させて座った。


「あ、先におにぃの包帯取り替えないとだね」


 茉祐子は、視線を彷徨わせて何かを探す。

 服が汚れたら悪いからと、何度か断った義彦。

 茉祐子とドライの強い言葉に押し切られ、抵抗を諦める。

 彼女の視線の意図に気付いた義彦は、救急箱を指差した。


「あの中だ」


 こうして、上半身を晒す事になった義彦。

 傷口は左脇腹と右胸、右上腕の三箇所。

 いずれも切り傷で、左脇腹が一番深い。

 茉祐子とドライは、一緒に入っていたタオルを水で湿らせた。

 その上で、優しく義彦の体を拭いていく。


「怪我の経緯は一応聞いたけど、他の傷は塞がっているのに、この三箇所だけ何でこんなにも遅いんだろう?」


 何気なく呟いた茉祐子の言葉。


「確かに茉祐子ちゃんの疑問も当然です。説明すべきですよ」


 義彦に問い掛けるかのようだ。

 視線を合わせたドライ。

 包帯の取替えが完了。

 義彦は上着を羽織った後に口を開いた。


「憶測の話しだが、相手の武器に、自然回復を遅延するような、呪いなり何なりの効果があるんじゃないかという事だ」


「え? それじゃ回復しないって事なの?」


「いや、徐々に塞がっているだろ? だからあくまでも遅延だ。効果を解除出来ない限り、すぐには塞がらないのかもな」

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