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Element Eyes  作者: zephy1024
第十一章 学園開始編
183/327

183.狼狽-Dismay-

1991年7月4日(木)AM:7:34 中央区精霊学園札幌校第三学生寮一階


 テーブルを挟んで対面で、朝食を取っている二人。

 一人は目元にかかる黒髪で、後ろを刈上げている少年。

 もう一人は、きれいな黒髪。

 一つ一つが非常に細い、八つのテールにしている少女。

 二人は不思議な刺繍の施された、着物のような服装だ。


「濡威兄、重霧君は?」


「起こしても起きないから置いてきたわ」


「酷いな? 同居人でしょう?」


「伊都亜ちゃんが、今頃起こしにいってるんじゃないか?」


 そう言った少年、地樹鎖爾(チキサニ) 濡威(ヌイ)

 スライスされたゆで卵を一切れ、口に入れた。


「伊都亜ちゃんに会ったの?」


 ゆで卵を飲み込んだ後に答えた濡威。


「あぁ、澪唖が来るちょっと前かな? 重霧が起きないって報告したら、何も言わずに起しにいってしまったんだわ。そうゆう澪唖こそ、煉瓦ちゃんはどうした?」


「お風呂から中々出て来ないから、先に来ちゃった」


「人の事言えるのか?」


「私はちゃんと先に行く旨伝えてあるもん」


 地樹鎖爾(チキサニ) 澪唖(レア)

 少し拗ねたような顔になりながら答えた。

 彼女の表情に苦笑する濡威。


「そうか。あぁ、そうだ。昨日三井・・さんが大怪我したらしいぞ」


「えぇ? なんで?」


「詳しい話しは知らんよ。昨日は第四研究所の医務室にいたらしいけどな」


「うそぅ? 後で見舞いに行かないとだね」


「俺は行かないぞ」


「えぇ? 何でぇ?」


「ついでにもう一つ情報をやろうか。桐原(キリハラ) 悠斗(ユウト)が昨日から三井を手伝ってるらしい」


「呼び捨てにしちゃ駄目だよぅ? でも、そうなんだ? それじゃ、桐原君にも会えるかもしれないかなぁ?」


「さあな? 会えるといいな」


「濡威君、澪唖ちゃん、おはようございます」


 朝食を食べている二人。

 挨拶してきた少女。

 向日葵色のストレートヘア。

 VとIの描かれたヘアピンをしている幼女。


 彼女の背後には、赤褐色の髪のポニーテールの少女。

 赤褐色の垂れ耳をパタパタさせている。


「おはようございます」


 二人は、挨拶をした後、移動する。

 別のテーブルで朝食を食べ始めた。


「別のテーブルで食べるなら、態々挨拶に来なくてもいいだろうに。律儀というか何というか? フィーアは無表情なのがちょっとあれだけど」


「いいじゃないの。でも義彦君と会った時はそんな事もなかったみたいだよ? 鬼那ちゃんが言ってた」


「そっか、別にいいけどよ。俺等と話す時も別に無表情じゃなくてもいいじゃないかよ」


「あ? 寂しいの? 寂しいんでしょ?」


「何言ってやがる? んなわけあるかよ」


 ぷいと顔を逸らした濡威。

 しかし、その行動は薮蛇になってしまった。


「やっぱ寂しいんだ? 顔を逸らすあたりが素直じゃないよぅ?」


 反論する事を諦めた濡威。

 先に食べ終わったので、席を立つ。


「濡威兄、逃げるのぅ?」


 しかし、彼女の言葉に、彼は振り向く事はなかった。


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1991年7月4日(木)AM:7:42 中央区精霊学園札幌校第一学生寮一階


「私、嫌われてるのかなぁ?」


 一人、呟くように囁いた幼女。

 ZとWの文字の描かれたヘアピンをしている。

 髪は向日葵色のストレートヘアだ。

 同じテーブルにいる土御門(ツチミカド) 鬼威(キイ)

 一緒に朝食を食べている。


「嫌われている?」


「ん? ごめん。聞こえてた?」


「はい、確か同室は黒恋ちゃんでしたね」


「うん、あ、知ってるんだっけ?」


「はい、ここに来るまでは一緒に住んでましたから。あの人はもともと口数も少なく、淡白な感じなのです。だらかもしツヴァイちゃんが、それで嫌われていると感じているならば、思い過ごしであると進言しますにゃん」


「にゃんってどうしたの?」


 少しだけ笑ったリアツヴァイ・ヴォン・レーヴェンガルト。


「可愛いかなと思いまして。でも少し恥ずかしいですね」


 ほんのりと顔を赤らめた鬼威。


「ちょっとだけ新鮮かもしれない」


「鬼那や鬼穂の前では絶対出来ません。今日は別のテーブルだから出来る事でした」


「そうなの?」


「いる時にやると、それをネタにしばらくいじられそうです」


「そうなんだ? 皆仲良しさんだよね」


「そうなのです?」


「鬼那ちゃん以外は、学園始まってから知り合ったけど、凄い仲良しに見えるよ」


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1991年7月4日(木)AM:7:47 中央区精霊学園札幌校中等部一階


「立候補者増えたんだね」


 薄緑のボードを見ている少女。

 そう口にしたのは、白紙(シラカミ) 沙耶(サヤ)

 すぐ後ろには白紙(シラカミ) 伽耶(カヤ)もいる。


「へぇ? えっと立候補者アイラ・セシル・ブリザードに、推薦者エレアノーラ・ティッタリントン? 誰?」


「誰だろう? 上級生なんじゃない?」


「そっか。沙耶も立候補してみる?」


「しません。中等部の代表挨拶をした伽耶こそ立候補したら?」


「いやだよ。あれだって古川所長に頼まれたから、渋々だったし」


「その割にはノリノリで話してた気もしたけど?」


「えぇ? そんな事・・あったかも・・」


「推薦しましょうか? 伽耶お姉様」


 からかうように、そう言葉にした沙耶。

 対して伽耶は心底嫌そうな表情になった。


「沙耶、お願いだからやめてよね」


-----------------------------------------


1991年7月4日(木)AM:7:48 中央区精霊学園札幌校小等部五階


 一人教室で椅子に座っているのは陸霊刀(リクレイトウ) 黒恋(コクレン)

 こんなにも早く教室に来ているのは彼女位だろう。

 彼女は少しだけ、悲しそうな瞳で窓の外を見ている。


「わあ、陸霊刀さんだっけ? はやいね」


 声のした方を振り向いた黒恋。

 竹原(タケハラ) 茉祐子(マユコ)が立っていた。


「竹原・・・茉祐子だっけ?」


「うん、竹原でも、茉祐子でも、呼びやすい方でどうぞ。何か悲しそうな瞳してる?」


 自分の席に座った茉祐子。

 彼女の的を得た反応。

 咄嗟に反論すべきか迷った黒恋。


「――してない」


「えぇ? そうかな? してるよ。話ししたい人と話せてない感じがする。私もおにぃと話ししたいな」


「おにぃ?」


「な・何でもないよ。陸霊刀さんも話せるといいね」


 余りにも図星の言葉。

 彼女は結局反論を言う事が出来なかった。


「――黒恋でいい」


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1991年7月4日(木)PM:12:52 中央区精霊学園札幌校中等部二階


 食堂で昼食を取っている中等部の生徒達。

 四人もその中のテーブルの一つにいた。


「三井さんの言ってた、ゆーと君に逢わせたい人って誰だろうね?」


「誰って聞かれてもなぁ? さっぱり見当がつかないんだよね」


 食事をしながら会話をしている四人。

 中里(ナカサト) 愛菜(マナ)の何気ない問い。

 桐原(キリハラ) 悠斗(ユウト)は思っているまま答えた。

 何故かにやけている河村(カワムラ) 正嗣(マサツグ)

 沢谷(サワヤ) 有紀(ユキ)は、首を傾げていた。


「お前、一部の鬼人族(キジンゾク)? では有名人みたいだからなぁ? 案外初対面の相手かもよ?」


鬼人族(キジンゾク)の一派のお嬢様を助けた事もあるみたいだし、そっち関連だったりしてね?」


「あの時は怪我して入院したし、大変だったんだから」


 少し拗ねたような声の愛菜。


「何で二人が知ってるんだ?」


「私はマサから聞いたのよ」


「俺は親父からだな」


「助けたって言っても、俺と三井さん、吹雪さん、それと、伽耶さんと沙耶さんの母親の彩耶さんの、四人で協力したわけだし」


「でも一番強いボス的な人は、悠斗君が倒したって聞いてるよ?」


「悠斗君が一番の功労賞だって言ってたよね?」


 隣のテーブルの伽耶と沙耶。

 二人もも話しに割り込んできた。


「悠斗さんも凄い強いんですね」


 伽耶と沙耶と同じテーブルにいる土御門(ツチミカド) 乙夏(オトカ)

 まるで英雄でも見るかのようだ。

 目を輝かせて悠斗を見つめていた。


「いやいや、乙夏さん、そんな強くないって。義彦に勝てないのは当然として、吹雪さんや伽耶さん、沙耶さんにだって勝てる気しないよ」


「私こそ、桐原君に勝てる気しないから。彼は凄く強いんだよ」


 乙夏の隣の銀斉(ギンザイ) 吹雪(フブキ)

 彼とは間逆の事を述べる。

 追従するように頷く伽耶と沙耶。

 そして、その言葉を真に受けて信じている乙夏。


「ゆーと君は、私も強いと思うな」


 この場での強いの意味合い。

 若干勘違いしている愛菜。

 しかし、彼女達の言葉に、突っ込む気も失せた悠斗。

 訂正する事を諦めた。


 そこにたまたま側を通りかかる黒金(クロガネ) 佐昂(サア)

 黒金(クロガネ) 沙惟(サイ)黒金(クロガネ) 早兎(サウ)も一緒だ。

 義彦の伝言を、悠斗に伝えたのは佐昂だった。


「丁度いい所に佐昂ちゃんだ」


「はい? 何でしょう?」


「義彦からの伝言だけどさ。僕に会いたい人が誰かは知らないのかな?」


「残念ながら、そこまでは教えてもらってませんでした」


「悠斗さん、モテモテですね」


「こら、早兎も余計な事言わない。そうじゃないかもしれないですし」


 何気ない彼女の言葉。

 それぞれの妄想を膨らませ始めた女性陣。

 中でも、愛菜は明らかに狼狽している素振りだった。

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