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Element Eyes  作者: zephy1024
第十章 学園入学編
177/327

177.腰肉-Rump-

1991年7月1日(月)PM:14:50 南区特殊技術隊第四師団庁舎三階


「後藤師団長、第二小隊は無事生徒として潜り込めたそうですよ」


 ノックもせずに入ってきた形藁(ナリワラ) 伝二(デンジ)

 少し厳しい表情になった後藤(ゴトウ) 正嗣(マサツグ)

 しかし、彼は咎める事はしなかった。


「とりあえずは予定通りか」


 表向きは上司になる後藤。

 しかし、実際の主導権を握っているのは形藁だ。

 彼は後藤、いや人間そのものを見下していた。


「案外ばれないものだね」


 窓の側まで歩いた形藁。

 外をじっと眺める。

 彼の顔は、邪悪に歪んだ微笑を浮かべていた。


-----------------------------------------


1991年7月1日(月)PM:16:33 中央区精霊学園札幌校第一学生寮男子棟四階四○一号


 部屋の中にいるのは二人。

 桐原(キリハラ) 悠斗(ユウト)雪乃下(ユキノシタ) (カク)

 二人は向かい合うように椅子に座り、サイダーを飲んでいた。


「そうか。それじゃ嚇は一学年下になるんだね」


「そ・そうです」


 相変わらず、少しどもっている嚇。


「あ・あの悠斗さんは人間みたいですね?」


「そうだね。嚇は?」


「ぼ・僕は・・・」


 そこで姉の言葉を思い出した嚇。

 正直に話す事を選んだ。


「ぼ・僕は白鬼族(ハクキゾク)なんです」


 言った後に悠斗の次の反応に戦々恐々。

 しかし、彼の答えは嚇の予想とは違うものだった。


鬼人族(キジンゾク)の事は詳しくは知らないけど、そんなにおどおどしなくてもいいんじゃないか? 学年は違うけど、同じ学園で学ぶ仲間なんだしさ」


「・・・悠斗さん、ありがとう」


 少しだけ嬉しそうに微笑んだ嚇。


「巫や僕の友人達も誘って学園内散策しようか」


「え? でも悠斗さん達は既に見て回ったのでは?」


「僕達もまだ全部見て回ったわけじゃないからさ。行こう」


 彼の提案に、嚇は心底嬉しそうに答えた。


「はい」


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1991年7月1日(月)PM:17:58 中央区精霊学園札幌校第一学生寮男子棟一階一○一号


 部屋の中、ベッドに座っている二人。

 少女は少年の背後から、彼の首に両手を回している。

 しかし、少年は若干辛そうな顔をしていた。


「吹雪、突然部屋に来たと思ったら、何の用だ?」


「義彦兄様、用事がないと来ては駄目なのですか?」


「いや、そうじゃないけど。胸が・・・」


「胸が何ですか?」


「い・いや、何でもない」


 柄にもない表情の三井(ミツイ) 義彦(ヨシヒコ)

 若干、顔が赤らんでいる。


「それで俺にどうして欲しいんだよ?」


「どうもして欲しくありませんよ」


 密着率をあげるかのようだ。

 胸を押し付ける銀斉(ギンザイ) 吹雪(フブキ)


「暫定とは言え、一応風紀委員なんだけど?」


「でも男子棟に進入禁止なんて言われてませんし」


「ぐっ」


「でもなんで義彦兄様は、同居人無しの一人部屋なんでしょうか? ベッドは二つあるのに」


「俺が知るか? 古川所長にでも聞け」


 ふと時計に視線を向けた義彦。


「おっと、そろそろ巡回に行かないと」


「私もお供しますよ。三井お兄様」


「もう勝手にしろ」


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1991年7月1日(月)PM:19:28 中央区精霊学園札幌校第一学生寮一階


 初日という事と開校祝いも兼ねていた。

 夕食は支給される事になっている。

 メニューはランプステーキ。

 添え物としてマッシュポテト、人参のグラッセ。

 更にはほうれん草のソテー、ライスだった。


 寮一つで、最大八十名。

 男子棟女子棟共通。

 二人一部屋で、二十の部屋がある。


 今現在、厨房は戦争状態真最中。

 尤も、寮の全ての部屋が埋まっているわけではない。

 その為、実際には各寮の人数は五十名前後だ。


 席はぎりぎり足りている。

 しかし、一度に出せるのは限度がある。

 その為、時間差での夕食となった。


 座っている悠斗は嚇。

 反対側には中里(ナカサト) 愛菜(マナ)土御門(ツチミカド) 鬼威(キイ)の二人。

 四人が同じテーブルについていた。


 隣のテーブルにも四人。

 人参のグラッセを口にいれた土御門(ツチミカド) 鬼穂(キホ)

 マテア・パルニャン=オクオは、満面の笑みで食事に勤しんでいる。

 対面している雪乃下(ユキノシタ) (ミコ)

 マテアを微笑ましく見ていた。


 隣の土御門(ツチミカド) 鬼那(キナ)

 ナイフできったランプステーキに、フォークを突き刺す。

 口の中にいれると、味わうように咀嚼し始めた。


 少し離れたテーブルにいる吹雪。

 何処か不満げな表情だ。

 黙々と食べているミオ・ステシャン=ペワク。

 別のテーブルには、十二紋(ジュウニモン) 柚香(ユズカ)の姿も見えた。

 他にも多数の生徒が座っている。

 非常に数が多い。

 後姿しか見えない人もいる。

 その為、誰が何処にいるかは判別が難しかった。


 マテアと嚇、巫の三人。

 本当に嬉しそうな微笑みだ。

 凄く美味しそうに食べている。


 食堂にいる生徒。

 そのほとんどが、満足しているようだ。

 悠斗も、おいしく食べている。


 巫とマテアは同室だった。

 その影響ももあるだろう。

 既に凄い仲良しになっていた。


 巫の裏表のなさそうな性格。

 それも幸いしたのかもしれない。

 二人が楽しそうに会話をしている。

 悠斗は、二人を見ながら、夕食にも満足していた。


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1991年7月1日(月)PM:23:57 白石区ドラゴンフライ技術研究所五階


「アラシレマさんよ、クインティプル、ドゥテキャプル、セプテュプルの三体は問題なさそうだ。トリーデキュプルは若干問題ありだが、しょうがないだろうさ」


「そーなのねー。まあ、ほーかーはこーれらーよりも駄目だーしー。しょーがなーいかー」


 窓ガラスの向こうの四人。

 研究員に診断されている。


 無表情のクインティプル・トルディ・マトウス・トリバス。

 ドゥテキャプル・トルディ・マトウス・トリバスはしかめっ面。

 二人は、青緑のロングヘアー。


 セプテュプル・プヌス・トルシとトリーデキュプル・プヌス・トルシ。

 黒髪のツインテールの二人。

 四人全員の耳は、先が尖っていた。


「しかし実験体に姓名を何でつけた? ナンバーでいいんじゃ?」


「えー? だってさー僕の子供なーんだしさー。母の苗字つけなきゃさー、かーわいそーじゃないかー?」


 彼は思ってもいない事を口走った。


「やっぱ、くそだな。お前は俺と同類だよ」


 男はそう言いながら、歪んだ微笑を浮かべる。


「ほーめこーとばーとうーけ取っておーくよー」


 一度、隣の男に顔を向けたアラシレマ・シスポルエナゼム。

 窓ガラスの向こうの四人に視線を戻した。

 彼女達は全員、簡素なガウンを羽織っている。

 研究員から時折質問をされているだ。

 何か答えている様子も見受けられた。


「そろそろ、全ての母体が限界だろうしな」


 そこには慈悲の感情は感じられない。


「でーももっと脆いかーと思ったーけどねぃ。新しーいーの調達しよーか?」


「調達してまたするのか?」


「君が実験体を欲しーならー、いいよー。嫌いじゃなーいしね」


「あいかわらず、いかれてんな」


「そ-れは、おーたがいさーまでしょ?」


 二人は同時に、いやらしい笑みを浮かべた。


「まあ、そうだけどな。趣味の方向性は間逆だけども。そーだな! どうせなら、違う母体にするか?」


「たーとえーばー?」


 アラシレマの問い掛け。

 男は少し考える素振りになった。


「そうだな? 何がいいか? 考えとくわ。そう言えば学園は今日からか?」


「そうだね。ごとーちゃんの知らない彼らも、無事潜入に成功したみたいだよ」


「楽しくなってきたな。あ、言うの忘れてたぜ。あいつら、車で移動していた変な服装の一団と遭遇して、魔術っぽいものやらやたら反応のいい奴等に防がれて、逃げられたらしいぜ」


「へー? そーんなこーとーが? 父親としてしーっかり躾しなおーさないとーね」


 おぞましい雰囲気を纏わせはじめたアラシレマ。


「一応は貴重な実験体なんだ。死なれたら困るし、程々にしといてくれよ?」

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