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Element Eyes  作者: zephy1024
第十章 学園入学編
167/327

167.微笑-Smilingly-

1991年6月21日(金)PM:15:57 中央区特殊能力研究所五階


 諌めようとしたオルガ・アレシア・マクタガート。

 しかし、アイラ・セシル・ブリザードは一歩も引かない。

 視線をぶつけ合う二人。


「いいじゃないですか? 堅苦しいのは抜きにしましょうよ。私達は政治的駆け引きで、ここに来たわけではないのですよ?」


「しかし・・・!?」


 エレアノーラ・ティッタリントンとクラリッサ・ティッタリントン。

 二人は口を挟む事も無い。

 凛とした表情のままだ。


「はぁ、まったく」


 真剣なアイラの目力。

 負けたオルガが折れた。


「所長、私はどうすれば?」


 狼狽している園崎(ソノザキ) リーザ。

 その表情に苦笑した古川(フルカワ) 美咲(ミサキ)


「礼儀的には、座るのは問題かもしれないが、アイラさんがそう言うなら座ってもいいんじゃないか? アイラさん、構わないんですよね?」


「はい、もちろんなのですよ」


 おずおずと古川の隣に座る園崎。

 エレアノーラ、クラリッサと対面になる位置だ。

 彼女が座り終わるのを待ったアイラ。


「手紙でお伝えしましたが、学園に三名入学を許して頂きたいのですよ。目的は【獣乃牙(ビーストファング)】の監視ですのよ」


 そこでティーカップを持ち上げたアイラ。

 香りを楽しむようにしてから一口飲んだ。


「香りを楽しむ程、上質な紅茶ではありませんよ?」


 古川の言葉にも微笑を返しただけだ。


「そんな事はありません。ワタクシはこの紅茶悪くないと思いますよ。リーザちゃんの淹れ方が上手なのですよ」


 褒められた園崎。

 照れくさそうな表情だ。


「話しを戻しますよ。監視というのはあくまでもメイマク? メイミク? メイ・・」


「名目ですよ。アイラ」


 オルガの容赦ない指摘。

 少し恥ずかしそうな表情になった。


「そうです名目ですよ」


「それでは本来の目的は別にあると?」


 古川の言葉に頷くアイラ。


「ワタクシ達と反目しあっている組織と言うのはいろいろあります」


「【神聖闇王朝(イエローズスコタビディナスティア)】とか? ローマ派やその他の派閥とかですかね?」


「そうですよ。しかし反目しているだけでは駄目だとワタクシは考えております。そうゆう意味では日本という国は、その軋轢が比較的少ない。特に北海道はワタクシ達が調べた限りは、一番その影響が少ないと思ってますのよ。だからこそ友好を深める為ですよ。東京には過去、同様に入学させた者はおります。今後、他の学園にも同様に入学をさせるつもりですのよ」


「過去に入学した者がいるのは知っていますが、ある時期からそれも無くなりましたが、再び協調路線に向かうという事ですかね?」


「そう解釈してもらって問題ないですよ」


「それで、手紙には三名とありましたが。入学されるのは?」


「ワタクシとエレアノーラ、クラリッサの三名ですのよ」


 古川は驚愕の顔になる。


「大司教あなたがですか?」


「はい。ワタクシは先程も申した通り、名ばかりの大司教ですの。なので問題はありませんのよ。もちろん、入学するからには一生徒として扱ってもらって構いません。むしろそうするのが当然です。布教活動をするつもりももちろんありませんのよ」


「一生徒としての振る舞いを超えるような事があれば、理事長権限で排除して構わない、とは言われてましたが、そうゆう事でしたか」


「更に本音を申しますと、ワタクシ四名共、一度、北海道に来てみたかったのですのよ」


 古川は唖然とした。


「本音かどうかはともかくとして、そんな事まで話してしまっていいので?」


「信用してもらうには、まずは正直に話す事だと、ワタクシは考えておりますのよ。ワタクシ達が持ってきている魔装器ももちろん登録させて頂きます。図書館には既に登録されておりますので、改めて登録する必要は無いのかもしれませんけど」


 今回の会合。

 全てアイラが担当するようだ。

 他の三名は会話に参加して来ない。


 園崎は居心地が悪そうに座っている。

 しかし、オルガ、エレアノーラ、クラリッサ。

 この三名は、まるでいないかのように静かだ。


「入学を拒む気はありません。学園の理念にも反する事でもありますし」


「それでは認めて下さるですの?」


「もちろんです」


「それでは、オルガ、あれを」


「はい」


 アイラの言葉に反応したオルガ。

 紙袋から大きな封筒を取り出した。


「古川理事長、いやここでは所長ですかね?」


「どちらでも構いませんが」


「必要な書類は全てこの中にはいっております。確認をお願いいたしますの」


 オルガより封筒を受け取った古川。


「すぐに確認した方がいいですかね?」


「ワタクシとオルガは、明後日一度本国へ戻ります。大丈夫だとは思いますが、明後日以降で、もし修正が必要な場合はエレアノーラかクラリッサに相談をお願いします。ここが宿泊しているホテルになりますのよ」


 古川はアイラからメモ用紙を受け取った。

 事前に準備していたのだろう。

 ホテルの名前、住所、電話番号と部屋番号。

 必要な情報が記載されていた。


「それと、最初に渡すべきだったかもしれませんね」


 アイラは足元の紙袋をテーブルの上に置く。

 他の三人も追従するように、動いた。


「友好の印です。イギリスの紅茶の茶葉やお菓子がはいってます。是非皆様でご飲食下さいの」


「ありがとうございます。リーザ、悪いが受け取って運んでもらえるか?」


「はい、わかりました」


 園崎が紙袋を受け取って運んでいく。

 だが全てを一度に受け取るのは難しい。

 なので、二回に分けて運んだ。


「古川所長、お時間はまだダイジョウです? ダイジョウ・・ビ? あれ?」


「大丈夫? ですかね?」


「すいません。まだ日本語を、完璧にマスターしてないのですの」


 少し恥ずかしそうなアイラ。


「意味合いが通じればいいんじゃないかな、と思いますよ。それで時間がどうしましたか?」


 園崎は全ての紙袋を受け取り終わった。

 既に、ソファーに戻って座っている。


「もしよろしければ。日本について、北海道について、札幌について、お話しをワタクシ達に聞かせてもらいませんです? リーザちゃんの話しも聞いてみたいですのよ」


 微笑んでいるアイラ。


「私からもお願いします」


 そこで一切会話に参加して来なかったエレアノーラ。

 彼女の言葉だ。


 続くようにクラリッサとオルガも、似た様な事を口にした。


「お願いします」


「是非お聞かせください」


 彼女達の願いに、少しだけ微笑んだ古川。


「構いませんよ。リーザも問題ないよな?」


「私でよければ」


-----------------------------------------


1991年6月21日(金)PM:18:32 中央区特殊能力研究所五階


 ぐったりと椅子に座る古川(フルカワ) 美咲(ミサキ)

 園崎(ソノザキ) リーザはソファで真っ白になっている。

 二人はアイラ一行を玄関で見送った。

 そのまま、片付けの為に戻った直後だ。


 雑談をしていたに等しい。

 とは言え、相手が相手だ。

 迂闊な事は言えない。

 精神的疲労で、ぐったりしているのが古川。


 リーザは、また少し違う。

 深く関わり合う事もないと思っていた天上の存在。

 何故か気に入られてしまった事による精神的疲労だ。


 扉を開けて入ってきた白紙(シラカミ) 彩耶(アヤ)

 二人を見るなり、苦笑いになる。


「ただいま。予想以上にお疲れのようね?」


「彩耶か」


 彩耶が来たが疲れているリーザ。

 反応さえ皆無だ。


「何でリーザもぐったりしているの?」


「リーザは何故か、気に入られたようだぞ」


「アイラさん、オルガさんの二人との会話はツカレマシタ」


 何故か最後は棒読みだ。


「リーザ、時間も過ぎてるし今日は帰ってゆっくり寝ろ。明日は土曜日で良かったな」


「ハイ、ソウシマス」


 まるで抜け殻のようなリーザ。

 緩慢な動きで部屋を出て行った。


「彼女、大丈夫なのかしら?」


 そこで幽霊のように腕を動かした古川。

 受話器を取り何処かへ内線をかけた。

 力無く受話器を置いた後に、疲れ切った声で呟く。


「緑に介抱頼んだ」


「そう。それで印象としてはどうなの?」


 再び椅子にぐったり座り込んだ古川。


「入学する三人のうち、大司教のアイラ・セシル・ブリザードは色々と腹黒そうだな」


「明日は【神聖闇王朝(イエローズスコタビディナスティア)】でしょ? エルフィディキアの人も来るんだったかしら?」


「そう」


「普段、腹の探り合いを私に押し付けてるツケね」


「おっしゃる通りでございます。返す言葉もございません」


「全く。片付けとかは私がやっとくから今日は帰りなさい。最近それでなくても遅かったんでしょ?」


「はい、今日は素直にそうします」


 机の引き出しを開けた古川。

 資料を彩耶に渡した。


「大司教様達の資料?」


 彩耶の言葉に彼女はただただ頷く。

 ゆっくりと立ち上がり帰り支度を始めた。

 その光景に苦笑した彩耶。

 ソファに座り、資料に目を通し始める。


 魂の抜けたような古川。

 しばらくして、部屋から出て行った。


「美咲、今日はおつかれ様」


 彩耶の言葉に、古川は軽く手を上げるだけだった。

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