163.脱衣-Undress-
1991年6月19日(水)PM:17:58 中央区特殊能力研究所二階
教室に入ってきたのは朝霧 拓真。
他にも、続いて入ってきた三人。
普段は朝霧 紗那が車椅子を押して来る。
しかし今日は、別の女性が押していた。
彼女は一足先に教室に戻っている。
桐原 悠斗、三井 義彦と共にだ。
なので、拓真達が教室に入ってきた。
その時には、生徒全員は自分の席に座っている。 「それでは今日の授業を始める前に、少しお話しがあります」
拓真は、一度生徒全員に顔を向ける。
その後で、そう話しを切り出した。
「以前、魔導人形の関わる事件の報告書が配られたと思う」
彼の言葉に、反応するように頷く一同。
「その時、他に三人いるという話しを古川所長がしてると思う。今日はその三人を紹介したいと思います。左から堤 火伊那、友星 中、駒方 星絵といいます」
拓真の紹介に合わせて、頭を下げる三人。
「僕の妹、紗那と同じ魔導人形って事になります。僕がこんな体だから、今後この三人に授業をしてもらったり、僕の補助をしてもらったりすると思う。前にも少し話した事があると思うけど、僕の同期四人が彼等ね。それじゃ火伊那から挨拶をお願い」
「ご紹介に預かりました堤 火伊那です。基本的には、紗那ちゃんの変わりに朝霧先生の補佐をする形になると思います。よろしくお願いしますね」
「火伊那さん、かわかっこいい」
巻き起こる拍手。
その中に聞こえた声。
呟きになっていない、白紙 伽耶の独り言。
実は聞こえていたようだ。
火伊那は少し、照れたような表情になっていた。
「友星 中です。体育会系なので、ここでの授業よりは、学園での授業が始まってからの方が接点増えると思いますが、よろしくお願いします」
再び巻き起こる拍手。
「近藤さんとの組手はどうだったんだ?」
突然の義彦の言葉。
何と答えるか迷った中。
しばし躊躇した後に口を開いた。
「強かったですね。結局一本も取れませんでした」
彼の言葉を聞いた後。
反応するかのように、いくつかの声が聞こえた。
「近藤さんって、実は強かったりするんだ?」
そう言ったのは悠斗。
「能力未使用で組手したら戦い難かったな」
感慨深げに零した、瀬賀澤 万里江。
その言葉に、他の生徒達も意外そうな表情になった。
「普段おちゃらけてるから、そう見えるのかもな?」
「確かに、義彦兄様の言うとおりかもですね」
銀斉 吹雪の言葉に頷く面々。
星絵は、自分が挨拶をするのを躊躇してしまっている。
そこで拓真が一度手を叩いた。
「無駄話はそこまでにしようか。最後に星絵だよ」
「う・・うん。こ・駒方 星絵です。たまにホッシーと呼ぶ人もいたりです。私も割とおちゃらけ人間ですが、中と同じく学園の方が接点増えるかもです。その時はよろしくです」
「星絵さんって何かセクシーですね」
拍手の中の夕凪 舞花の発現。
悠斗と義彦は、頷くように何度も首を縦に振る。
伽耶や白紙 沙耶、中里 愛菜。
三人も同様の意見のようで、頷いていた。
「そんな煽てても、何もでませんって」
「あんまり煽てると木に登るから程々にな」
「火伊那ぁぁ、中ってば酷いよぅ」
火伊那に抱きついた星絵。
彼女は慰めるように、頭を撫でる。
「中に火伊那、ホッシーも漫才するなら余所でやってね」
拓真の言葉に項垂れた三人。
「さて、冗談はこの辺にしといて、今日の授業を始めようか。火伊那は補助お願いね。中と星絵は、今後の為に、空いてる席で見ていくといいよ」
拓真の言葉に、空いている席に座った中と星絵。
二人が座るのを待ってから、拓真は授業を開始した。
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1991年6月19日(水)PM:18:32 白石区土御門邸一階
木目調の比較的広い空間。
胸まである、灰色髪の少女。
三人の少女と戯れている。
そう見える程。
三人の少女は、あっさりとあしらわれていた。
少女は土御門 鬼都。
表向きは土御門 春己の義理の孫娘。
という事になっている。
実際には、春己の使役する式神の一体だ。
彼女に挑みかかっている三人。
サイドテールにしている赤髪白眼のアンジェラ。
青髪白眼のカロリーナは、ポニーテールにしている。
ツインテールの黄髪白眼は、リオネッラ。
四人の獲物は竹刀。
白の剣道着と黒の袴姿だ。
動きやすさを考慮しているのだろう。
露出の高い、袴と巫女服を合わせたような服装。
手首足首と首、頭に輪状の装飾品を着けた鬼都。
彼女はひたすら、防御に徹している。
アンジェラ、カロリーナ、リオネッラは三人。
連携して攻めようとしている。
だが、中々うまく連携する事が出来ない。
そのまま、軽くあしらわれているのだ。
「昨日よりはよくなっていると思いますよ。最初のうちは中々難しいかもしれませんが、継続は力なりです」
そう言った鬼都。
カロリーナの突きをいなした。
竹刀で弾くアンジェラの面打ち。
小手を打とうとしていたリオネッラ。
喉に竹刀を突きつけられた。
「鬼都ちゃん、強いで・・・す」
「今日も負けてばかり・・・です」
「勝てる気がしません・・・」
リオネッラ、カロリーナ、アンジェラの三人。
疲れた声でぼやいた。
「最初から強い人なんておりませんよ。私は、一般教養を教えるのが本来の目的なので、無理して続けなくてもいいとは思いますが?」
「やだ。言い出したのは私達、だから頑張る」
立ち上がったアンジェラ。
カロリーナもリオネッラ。
二人も彼女に続く。
「わかりました。それではもう一戦しましょう」
それから連続三戦。
鬼都に完敗した三人。
息もあがっている。
その場に寝転がっていた。
しかし、鬼都は呼吸も乱れてない。
そこに聞こえてくるかすかな足音。
道場の扉が開けれて一人の少女が現れた。
春己の孫娘、土御門 乙夏だ。
長い黒髪が揺れている。
「お疲れ様です。もうすぐ夕御飯ですので、着替えて来て下さいね」
「乙夏様、わざわざありがとうございます」
鬼都の言葉に、拗ねた様な表情の乙夏。
「鬼都ちゃん、様って呼ばれるのはやっぱり何か恥ずかしいよ」
「乙夏ちゃん、ありがとう」
走り寄っていくリオネッラ。
「着替えるのが先ね?」
「はーい」
乙夏の言葉に反応した三人。
アンジェラ、カロリーナ、リオネッラはその場で、剣道着と袴を脱いだ。
彼女達の行動に、呆れたような表情の鬼都。
「わかってはいますが、そう簡単には理解出来ないですよね」
「鬼都ちゃん達とはベースが違うものね? 人間としての恥ずかしいという気持ち。教えるのは中々難しいのかも」
乙夏の言葉に頷く鬼都。
「アンジェラ、カロリーナ、リオネッラ、着替える時は、場所を考えないと駄目ですよ」
乙夏を見ていた鬼都。
三人に視線を移動させていく。
彼女の言葉と視線に頷く三人。
しかし、本当の意味では理解してなさそうだ。
裸のままで、隠すような素振りも見せなかった。
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1991年6月19日(水)PM:18:48 中央区特殊能力研究所五階
ソファーに座っている古川 美咲。
資料に目を通していた。
そこに扉を開けて入ってきた、白紙 彩耶。
ジーパン、ティーシャツにパーカーを羽織っている。
テーブルには、コーヒーカップが六つ置いてあった。
「おかえり、彩耶」
「ただいま。来客があったのね?」
視線を資料から、彩耶に向けた古川。
「あぁ、予想外の人物にな。事前に聞いてたとは言えども、まさか本当に来るとは正直思わなかった。提案された事が更に予想外だったしな」
「提案? よくわからないけど、先にこっちの報告する?」
「あぁ、お願い」
「まず、蘆菜 摩埜を狙った獣化族は中国の【獣化解放軍】という組織の過激派の一派、そこの下っ端だったわ。狙った理由は不明。ただどうやら【十三黒死鬼】という組織と揉めて敗北。一部が日本に密入国しているようね。とりあえず細かい事はこの資料を読んで」
彩耶から資料を受け取った古川。
資料に目を通し始める。
「ウォールセイムとエリシャベルだったか? あの二人の様子はどうだ?」
「あれからは暴走する事もないし、使役者となった摩埜ちゃんともうまくやってみるみたいよ」
「まあ、あの二人からみれば、摩埜ちゃんは命の恩人みたいなものだろうし当然か。茉祐子とも仲良くなったみたいだしな」
「そうなの?」
「あぁ、一昨日昨日と楽しそうに話してたからな」
彩耶は、ティーカップに紅茶を入れ始めた。
「良い事なんじゃない? そう言えば予想外の出来事って?」
「そうそれだがな、朝に彩耶が出て行った後、防衛省特殊技術隊第四師団から電話があってな。私との面会を求めて来たのさ」
「向こうからってのは珍しいわね?」
「そうだろ? とりあえずこっちに来てもらえるなら、会う事にしたんだけどな。来たのが師団長の後藤と部下五名」
「後藤? 後藤 正嗣って事?」
「そうだ。師団長様、直々さ」




