表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Element Eyes  作者: zephy1024
第十章 学園入学編
158/327

158.友好-Amity-

1991年6月16日(日)PM:19:52 中央区中島公園


 波打っている長い赤紫の髪。

 グラマーな女性が、赤紫の浴衣を身に纏い歩いている。

 赤紫の髪は目立つ。

 特に年配の人間の中に、奇異の視線を向けている人もいた。


 しかし彼女は、周囲の視線は全く意に介してない。

 髪の色も確かに目立つ。

 ボリュームがあり、歩くたびにたわわに揺れているその胸元。

 そこに視線を釘付けにしている男性人もいるだろう。


 彼女の両の手は小さな手で握られている。

 両隣には、黒髪黒眼の二人の少女。

 二人も彼女と似たような赤紫の浴衣だ。

 彼女達三人の元にやって来た、黒髪黒眼の少年。

 青紫の浴衣で、両手に林檎飴を持っている。


「お兄ちゃん、ありがと!!」


 少女の一人が、彼から林檎飴を受け取った。

 満面の笑みでそう言って労う。

 少年は、彼女の頭に手をそっと置いて、撫でる事で返した。


 その後に、もう一人の少女にも林檎飴を渡した少年。

 もう一人の少女も満面の笑みで返す。

 少年は彼女の頭に手をそっと乗せて、何回か優しく撫でた。


 最初に林檎飴を受け取った少女。

 少年と手を繋いで来た。

 なので少年は、最後に赤紫の髪の女性に林檎飴を渡す。


「買って来てくれて、ありがとね」


 そう言って彼女に見つめられた少年。

 少し照れているようだった。


-----------------------------------------


1991年6月16日(日)PM:20:02 中央区桐原邸一階


 彼女達は、着付けの為に戦争の真っ最中だった。

 桐原(キリハラ) 悠斗(ユウト)は。灰色に青帯の浴衣。

 中里(ナカサト) 愛菜(マナ)に着付けしてもらった。

 今は玄関で油を売っている。


 ミオ・ステシャン=ペワクとマテア・パルニャン=オクオ。

 予想通り着付けの方法は知らない。

 三笠原(ミカサワラ) (ムラサキ)も知らなかった。

 それは愛菜にとっても、予想外だ。


 土御門(ツチミカド) 鬼穂(キホ)は青と白の浴衣。

 既に自分で着付け始めている。

 紫と白の浴衣を手に持っている少女。

 下着姿の土御門(ツチミカド) 鬼威(キイ)

 彼女も自分で着付けを始めた。


 愛菜は下着姿のままでいる。

 全裸の紫の、着付けをしようとしていた。


「紫さん、下着はいいんですか?」


「あれ? 浴衣っていうか着物って、下着はつけないんじゃないの?」


「基本はそうかもしれませんけど、拘る必要はないと思いますよ?」


「あ、そうだよね。んじゃ一応、下着は着るよ」


 その間、暇そうなミオとマテア。

 鬼穂と鬼威の着付けを、興味深そうに見ている。


「時間あんまりないんだから、早くした方がいいと思うよ」


 玄関から聞こえてくる悠斗の声。

 愛菜ももちろん、そんな事はわかっている。

 紫の着付けを終わった愛菜。

 次にミオに浴衣を着せて行く。


 ミオとマテア、紫の耳はヘアバンドをした。

 その上で、髪の毛でうまく耳を隠している。

 愛菜が試行錯誤した結果だ。

 鬼穂と鬼威は、既に着付けを終えていた。


「愛菜さん、手伝った方いいですか?」


 鬼穂が愛菜に問いかける。

 鬼威も視線で愛菜に訴えていた。


「大丈夫。ゆーと君の相手をしてあげて」


「わかりました」


「はーい」


 鬼穂と鬼威は、玄関に向かって歩いていく。

 ミオの浴衣を着せている愛菜。

 その様子を、まるで勉強しているかのように見ている紫。


「紫さん、そんなに見られると何か恥ずかしいですよ」


「いやさ。この際だから、覚えれそうなら覚えようかなと思いましてね」


 彼女達の耳には、悠斗達の声が聞こえてくる。


「本当だ。角は隠れてるんだな」


「完全に隠れているわけではありません。髪の毛で見えないだけで、実際には小さな突起があります」


「そうなんだ?」


「悠斗さん、触ってみるぅ?」


 そう言ったのは鬼威。


「あれ? 思った程硬くないな」


「そうですね。普段は最低限の魔力しか通ってませんから」


「なるほど」


「はい、マテアちゃんも終わり。それじゃ皆でお祭り行こう」


 ミオは髪の色と合わせる様な色合い。

 濃い桃色を基調とした浴衣。

 濃い水色の浴衣はマテアだ。


 玄関から外に出た一行。

 少し歩くのが辛そうな悠斗。

 愛菜が支えながら歩いていく。


 二人の後ろがミオとマテア。

 はぐれないように、紫が手を繋いでいる。

 鬼穂と鬼威が最後尾の布陣で、歩き出した。


-----------------------------------------


1991年6月16日(日)PM:20:09 中央区中島公園


 人混みの中を歩くアラシレマ・シスポルエナゼム。

 珍しくスーツ姿ではない。

 黒系統の浴衣を羽織っている。

 その手にあるのはクレープ。

 彼はクレープを啄ばみながら、歩いている。


「何かスースーすーるーなぁ? 着慣れてなーいかーらーかーなー?」


 そんな彼の視線は、常にある人物を見ている。

 人混みの中、時折見える赤紫の髪。

 微笑んでいるように見える彼の表情。

 だが、その瞳だけはまるで違う。

 裏切り者を見るかのように、澱んでいた。


「たーぶーん、少女ーがー二人ーに、少年ーがーひーとーりー?」


 誰にも聞こえないようなか細い声。

 しかし昏いとても昏い感情を孕んでいる。


「こーこ数年、何だーか様子がおーかしい気はしーてたんだーけどねー。今更、何を仲良し小好ししてやがるんだ? 裏切るつもりか!?」


-----------------------------------------


1991年6月16日(日)PM:20:19 中央区中島公園


 褐色の肌に緑髪の少年と、褐色の肌に白髪の少女。

 何処となく顔が似ていると言えば似ているかもしれない。

 褐色肌に金髪の青年が、少年と少女の背後を歩いている。


「日本のお祭り」


「そうだよ。折角だしいろいろ食べてみようか。いいよね?」


 少年が、同意を求めるように背後の人物を振り返った。


「全く。問題さえ起こさなければ構いませんけどね。くれぐれも、普段のように誰彼構わず、女性に声を掛けないようにして下さいよ」


「別に誰彼構わずじゃないさ。私だって相手を選んでる」


「その点は否定です」


 少女が呟くように囁いた。


「我が愛しの妹よ。それは誤解だ。信じてくれ」


 無視するかのように囁いた少女。


「あれおいしそう」


「買って参りましょうか?」


 背後の青年が、彼女の呟きに答える。


「お願いします」


「御意。折角ですし、近くで見てみましょうか」


 少年を無視して会話を進める二人。

 悲しみの瞳を浮かべる少年。

 少女の手を握り、はぐれないように注意しながら進む青年。

 少年はただ後ろを歩くしかなかった。


 彼等の進行方向とは、逆側を歩いてくる少女達。

 合流して五人になった白紙(シラカミ) 伽耶(カヤ)達だ。

 ふと人混みの中に視線を移した少年。

 五人の少女達、その中の一人、銀髪。

 銀斉(ギンザイ) 吹雪(フブキ)から視線を逸らせない。

 彼は思わず、人混みを逆流するように歩き出した。


 しかし、中々先に進めない。

 彼女も自分が見られている事に気付いたようだ。

 一度少年と視線を合わせた。

 しばらく交錯していた視線は、逸らされてしまった。


 何とか人混みを掻き分けて吹雪に話しかけた少年。

 しかし、少年の予想とは裏腹。

 色好い返事は返ってこなかった。


 それでもめげない少年。

 いつしか周囲の人達が、少し離れて成り行きを見ている。

 少年は、突然肩を掴まれた。


 彼は後ろを振り返った事を後悔する。

 そこには、悲しみの瞳で涙を耐えている少女。

 隣には、呆れた表情になっている青年がいた。


-----------------------------------------


1991年6月16日(日)PM:20:32 中央区中島公園


 様々な色の、単色のドレスとベールに身を包んだ一団。

 彼女達は総勢十三名。

 祭りを歩く人の波の中、一際目立っている。

 微かに見えている耳の先は尖っていた。


「やはり、場違いな格好だったか」


 そう言ったのは、緑のベールの人物。

 更に隣の青のベールの人物が口を開いた。


「妾の私達が、同伴してよかったのでしょうか?」


「あなた達も私達と同じ血を持つ妹だ。妾とか負い目を感じる必要はないぞ」


 一団のリーダー格らしい。

 黒のベールの人物がそう言葉にした。


「そうですよ。折角お祭りというのに来たのですから、楽しみましょう」


 紫のベールの人物の言葉だ。

 続けて黄のベールの人物が口を開く。


「これから暫くは、私達はこの街でお世話になるのですしね」


 答えるような隣の橙のベールの人物。

 黄のベールの人物を見る。


「はい、そうですね。慣れないと駄目でした」


 そこから少し離れた場所。

 彼女達を見ている一団。

 悠斗や愛菜、紫達だ。

 その瞳は、奇異の目ではない。

 綺麗なドレスとベール。

 感嘆の眼差しで見ていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ