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Element Eyes  作者: zephy1024
第十章 学園入学編
156/327

156.御祭-Festival-

1991年6月16日(日)PM:18:51 中央区桐原邸一階


「ユート、ケガヒタイ?」


「イタイダヨ? マテア」


「ヒタヒ?」


「イタイ」


「ヒャタリ?」


「二人ともそれぐらいにしなさい。悠斗君が困ってるでしょ」


「ヒャイ」


「ハイ」


 どうやらミオの方が、ステアよりも習得が早いみたいだな。

 ステアはまだかなりぎこちない。

 だけど、それでもその習得スピードは普通に凄いと思う。

 ミオは更に凄いって事なんだろうな。


「ところで本当に明日から、学校にいくつもり?」


「はい。実質二週間もないわけですしね」


「余り無茶はしないように。まだ完治してないんでしょ?」


「そうですね。だから体育とかは見学するつもりですよ。紫さんこそ怪我は大丈夫なんですか?」


「私は完治してるわ。もともとそんな酷い怪我じゃないし」


「そうですか。良かった」


「そう言えば愛菜ちゃんが何でかわかんないけど、いつも以上に張り切って料理してるわよ。何かあったの?」


「えーいや? 何でしょうね?」


 まだあの事についての答えをもらったわけでもない。

 だから、愛菜が張り切っている。

 その要素というのが、まったく浮かばなかった。


「紫さん、張り切って何ていませんから。いつもおいしく食べてもらいたいと思ってるだけですよ」


 七人分のサラダ。

 トレーに載せ運んできた愛菜。

 少し赤面している。


 紫さんは、愛菜に聞かれてしまった。

 その事に、しまったという感じで舌を出している。


「そういえば休校していた学校は、ほとんどが再開したんだっけ?」


「聞いた限りはそうみたいですね」


「そっか。そうなんだ。あんな事件があったばかりなのに早いな」


「そうですかね? 僕には何ともいえないですけど」


 ミオとステアの顔を見ている僕。

 自分が死に欠けた苦い記憶。

 つい思い出してしまった。

 正直、出来ればあの部分だけ記憶を消してしまいたい。


「ユート? ドウシタヌ?」


「ダイジョウブ?」


 心底心配そうなミオとマテア。

 何も言わない紫さん。

 心配するような眼差しで僕を見ている。


「ごめん。ちょっと思い出したくない事を思い出しただけだから、大丈夫」


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1991年6月16日(日)PM:18:59 中央区中島公園


 立ち並ぶ露店、流れるように歩くたくさんの人々。

 カップルや親子連れ、様々な人が歩いている。

 彼女達三人もその中に紛れて歩いていた。


 白紙(シラカミ) 伽耶(カヤ)は薄黄緑の浴衣。

 編み込みを入れた髪の毛を後ろでまとめている。

 妹の白紙(シラカミ) 沙耶(サヤ)も編み込みを入れてはいる。

 だが、サイドにボリュームをつけて、薄水色の浴衣を身に纏っていた。

 緑の浴衣にシンプルに髪を結っているのは朝霧(アサギリ) 紗那(サナ)


「次何食べようかな? 沙耶は何がいい?」


「伽耶、焼き蕎麦食べたばかりだよ?」


「いいじゃない? 折角のお祭りなんだし」


「伽耶ちゃんて、食いしん坊さんなんですね」


「食いしん坊・・」


「確かに伽耶は食いしん坊だよ。私が言うんだから間違いない」


「沙耶だって人の事いえ・・・るかも」


「もう。そう言えば、愛菜ちゃん達も来るって言ってたけど」


「うん、言ってたね。でも悠斗君、怪我完治してないでしょ?」


「怪我が完治してないのは、私達も同じじゃない?」


「完治してないって言っても、私達は傷が少し残ってるだけじゃない? でも悠斗君は、数日前まで歩けない程だったんだよ?」


「悠斗さん、大丈夫なんでしょうか?」


「伽耶も紗那ちゃんも、心配なんでしょ?」


「そうゆう沙耶だって、三井さんと来たかったんじゃないの?」


 からかうような言い合いにも聞こえる三人の会話。


「私は、たぶん憧れっていうか、そんな感じなだけなんだと思う。好きかって言われるとわかんないな」


「それは私だって同じだよ。タイミング良く助けられたら、ドキッとしたっていいじゃない」


「紗那ちゃんはどうなのかなぁ?」


「なのかなぁ?」


 伽耶と沙耶に詰め寄られる紗那。

 照れ隠しのように俯いてしまった。


「わ・私は・・・私もわかりません」


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1991年6月16日(日)PM:19:04 中央区中島公園


「吹雪ちゃん、大丈夫? 少し休む?」


 その声は、紅色の浴衣で着飾っている十二紋(ジュウニモン) 柚香(ユズカ)だ。

 隣にいるのは銀斉(ギンザイ) 吹雪(フブキ)

 銀と黒の浴衣に、銀色の髪を頭の上で纏めている。


 二人は菖蒲池の近くの木に寄りかかっていた。

 吹雪は痛みに耐えているようだ。

 少しだけ、苦悶の表情。


「柚香ちゃん、御免。無理言って、付き合わせる形になっちゃって」


「ううん、それはいいの。その怪我で、動くのはまだ辛いだろうってのはわかってたし」


「でも、本当ありがと。でも三井兄様も一緒に行きたかったな」


「そうだね。でも三井君、きっと今日祭りだって、覚えてないんじゃないかなぁ?」


「そうかも。三井兄様なら絶対忘れてると思う」


「彼、余りイベント毎には興味示さないものね」


「こんな事ならもっと早く声を掛けるべきだったなぁ。約束さえしてればたぶん忘れないとおも・・思う?」


「どうだろうね? 容赦ない時は、本当容赦ないからなぁ?」


 しばし無言になる二人。

 視界の先には、屋台の間から、通り過ぎる人の流れが見える。

 吹雪には深い意味はない。

 屋台を、少し離れた所から覗いている人達を見ていた。


 ふとそこで、見た事があるような人物に気付いたのだ。

 髪型が違うだけ。

 なのに、かなり大人びた雰囲気に見える。


「あれ伽耶ちゃんと沙耶ちゃんじゃない? 紗那ちゃんもいるね」


 吹雪の突然の言葉。

 人の流れを注意深く見る柚香。

 人混みの中、立ち上がった吹雪。

 気付いたらしい伽耶と視線が合った。


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1991年6月16日(日)PM:19:09 中央区中島公園


「お祭りって楽しいねー!!」


 そう言葉にしたのは、黒金(クロガネ) 早兎(サウ)だ。

 両隣には黒金(クロガネ) 佐昂(サア)黒金(クロガネ) 沙惟(サイ)もいる。

 三人は普段から着ている振袖。

 それにに似通っている感じの浴衣を着ている。

 早兎は、手に持っているフランクフルトを食べ始めた。


「早兎、もうそれで五本目ですよ? よく飽きませんね」


「んむふふ」


 食べながら奇妙な声を出す早兎。


「でも三井さんは今日も護衛任務中。私達だけが来てしまって良かったのでしょうか?」


「沙惟の言葉もわかります。だけども、折角お前らが楽しんで来いと言ってくださったのです。そのお言葉に報いる為にも、楽しみましょう」


「佐昂姉がなんか、かっこいい事言ってるぅ? いやかっこいい?」


「早兎、何か言いましたか?」


「なーんでもないよー」


「かっこいい事なんでしょうかね? 佐昂姉も、結局は祭りが楽しみだったのではないか、と分析いたします」


「こんな時に勝手に分析しないでいいです」


 表情からは余りわからない。

 しかし、佐昂も沙惟も実は楽しいようだ。


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1991年6月16日(日)PM:19:11 中央区中島公園


 綿飴をおいしそうに食べながら歩く笑顔の少女。

 彼女は夕凪(ユウナギ) 舞花(マイカ)

 橙色を基調とした浴衣を纏っている。


 その隣で、彼女の手を握って歩いている瀬賀澤(セガサワ) 万里江(マリエ)

 彼女は灰色の浴衣を着ている。

 舞花の歩く速度に合わせて、ゆっくりと歩いていた。


「まり姉、さっきの男の子といけばよかったのに? 結構かっこいいと思うけどなぁ?」


「駄目だよ。そんな事したら、舞花は一人になるでしょ」


「そうだけどさ」


「それにあんな軟弱な奴は駄目。私を倒せる位でなければ、彼氏としては認めない」


「まり姉に勝てる人なんて、中々いないと思うけどなぁ? 誰かいるかなぁ? 例えば三井さんとか?」


「あいつならいい勝負になるだろうね。だけど年下は無理かな」


「そんな事言ってると、行き遅れるよ?」


「そんな事はないと思うよ。私よりも強い人なんて、これからいくらでも出逢える。それに行き遅れそうなら、勝手に見合い話しを持ってくるだろうさ。いや、まてそれも困る」


「去年も言ってた気がするけど、そんな事で出逢えるのかなぁ? あ、あの人、半年位前に、まり姉と激闘を繰り広げた人いたよね?」


「半年前・・・白のとこの人だったかな? たぶん私と同じか一つ上ぐらいだったと思う」


「その人はどうなの?」


 そこで少し思案する万里江。

 彼女から放たれた次の言葉。


「確かに強かったが、名前も顔も思い出せない奴に、恋慕も何もないだろ?」


「顔も覚えてないって・・・」


 彼女の言葉を聞いて、舞花は驚愕。

 絶句するしかなかった。

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