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Element Eyes  作者: zephy1024
第十章 学園入学編
154/327

154.不穏-Disquieting-

1991年6月16日(日)PM:15:38 中央区大通公園三丁目


「そう、彼のは魔力じゃないな。私達は魔力を魔子、義彦のような力を霊子と呼んでいる。同じような力だが、いろいろと違うところもあるんだよな」


「そうなんだ」


 少し小さめの声で話している二人。

 そこに突然割り込むように声が聞こえた。


「古川所長じゃないですか?」


 突然話しかけられた古川(フルカワ) 美咲(ミサキ)

 声で直ぐに誰か理解する。

 声の方に顔を向けるた二人。

 一人の女性がスーツ姿で立っていた。


「迪。ということは、ここにいるのは二班ってことか?」


「はい。お隣のかわいいお嬢さんは?」


竹原(タケハラ) 茉祐子(マユコ)と言います。義姉(アネ)がいつもお世話になっています」


 頭を下げる茉祐子。


「ご丁寧にどうも。阿賀沢(アガサワ) (ユズル)です。茉祐子ちゃん、よろしくね」


 迪は茉祐子に優しく微笑む。


「古川所長に妹さんいたんですね? あれ? でも苗字が違う?」


「そこは気にするな。彼女はいろいろあって、私が引き取った。血縁関係は無いが、そんな事は関係ない」


「何か事情があるみたいなので、深くは聞かない事にします。でも古川所長の私生活、ズボラで大変でしょ?」


「そんな事ないですよ。もともと家事は慣れてますから」


「でも所長にも覚えさせた方がいいと思うけど」


「余計なお世話だ。ズボラだっていうのは自覚してる。そっちこそ、健一とは仲良くやってるんだろ? 見舞いにも来てたみたいだし」


「仲良く?」


「茉祐子、迪と健一は恋人同士なんだよ」


「ええ? そうなんですね。健一さんとは余りお話しした事ないけど」


 そこで少しだけ苦々しい顔になる迪。


「でもあの時、喧嘩なんかしてなければ、あんな事にはならなかったですし」


「それは迪には非はないだろうさ。直前の喧嘩の内容は健一に聞いたが、あれはどう見てもあいつに非がある」


「健一も自覚してるのか、お見舞いにいった時に謝ってきました。あんなに心底、申し訳なさそうな顔した彼は、始めてみたかもしれません」


「あの仏頂面の健一が?」


「美咲姉、仏頂面は酷いと思うよ」


「私が言うのもどうかとは思いますけど、仏頂面は否定は出来ません。でも加害者だったとは言え、少女の方も一命を取り留めたみたいで安心しました」


 少し苦笑した迪。


「そうだな。ところで迪も座ったらどうだ? 休憩中なんだろ?」


「はっ? はい。それじゃお言葉に甘えて」


「そもそもお前は私の部下じゃないんだ。所長と呼ぶのもどうかとは思うが」


「今更修正なんて出来ませんよ」


「健一の影響なんだろうか」


「それもありますけど、今私がここに、こうしているのは半分は所長のおかげです。だから」


 手に持っている本を、空いている方の手で何度もなぞった。


「美咲姉、なんだかんだいって面倒見いいもんね」


 茉祐子の言葉に、少し照れた古川。


「二人とも買い被りすぎだ」


「そんな事ないと思うよ。迪さんもそう思いますよね?」


「そうですね。私もそう思います」


 照れた古川は、軽くからかわれる。

 他愛もない会話をしていた三人。

 ふと腕時計を見た柚。

 時間がオーバーしていた。


「あっ、私そろそろ戻らないと」


「そうか。またな」


「迪さん、お仕事頑張ってください」


「は・はい、ありがとうございます」


「迪、健一が寂しがってるだろうから、また見舞い来いよ」


「え? は・・はい」


 赤面しながら離れていく迪。

 古川と茉祐子は、しばらく見ていた。

 そこで何度目かの冷たい風が、二人を撫でる。


「少し寒くなってきたしそろそろ帰るか」


「そうだね。でも途中で、食材の買出し手伝って」


「わかった。たまには少し高級な材料でも買ってみようか」


「うん? 高級な材料? 例えば?」


「いや、料理出来ない私に聞かれてもな。高い肉とかか?」


「スーパーじゃなくて、普通のお肉屋さん行ってみる?」


「それもいいな」


「それじゃいこ」


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1991年6月16日(日)PM:18:32 中央区中央警察署四階


「わざわざここまで呼び出して、どうしたのかしら?」


「私も来て良かったのかな?」


 捜査資料に目を通している笠柿(カサガキ) 大二郎(ダイジロウ)

 白紙(シラカミ) 彩耶(アヤ)山中(ヤマナカ) 惠理香(エリカ)が彼を見ている。


「ああ、彩耶さんが問題無いと言うなら、俺は何も言う事はない」


「それで、ここに呼び出すからには、何か聞きたい事があるとかなんでしょうね」


「そうだな。違う場所だと他の奴等が五月蝿い。とりあえずこれを見てくれ」


「捜査資料じゃないの?」


「そうだが、その仏についての見解を聞きたい。資料みりゃわかるが、事件の概要としては、人気の少ない所で何か鈍い刃物で惨殺された仏だ。今日発見されたので二件目。写真だとわかりにくいかもしれんが、傷口がかすかに焦げ付いているんだよ。鑑識の見解としても焼かれた跡という事だ」


「この写真だけだと、何とも言えないわね。惠理香はどう思う?」


「彩耶と同意見かな? ただ、二件目の方が傷口の焼かれた部分の範囲が、広がってる気もしない?」


「言われてみればそんな気もするけど」


「そうか。能力者の犯行の可能性は有ると思うか?」


「無いとは言えないけど、これだけでは断言は出来ないわね」


「本人も無意識に、発動している可能性もあるかもしれない。でも私も彩耶も専門家なわけじゃないし」


「能力者の犯行による、仏専門の司法解剖なんてないだろうしな?」


「そうね。経験の多い教授とかなら、いるのかもしれないけど。私達は直接的な接触がないからわからないわ」


「そうか。もし時間が大丈夫ならば、犯行現場も見てもらえるか?」


「私は構わないけど、惠理香は大丈夫?」


「大丈夫よ」


「でも笠柿さんいいの?」


「上にも許可は取ってあるからそこは問題ない」


「それならいいけど」


「そっちで調べた後で私達が行っても、無駄足にしかならない気がするけど」


「かもしれんが、もしこれが能力者の犯行なら、そっち側の人間にしか気付かない事もあるかもしれないだろ」


「そうかな?」


「彩耶、行ってみればわかる事じゃない?」


「確かにそうかもしれないわね。笠柿さんわかりました」


「こんな所まで呼び出した上に悪いね」


 笠柿を先頭に、三人は部屋を出て行った。


-----------------------------------------


1991年6月16日(日)PM:18:45 中央区監察官札幌支部庁舎五階


「鳥澤支部長、何故です? 私は納得できない」


 支部長室で、大声を上げて詰め寄っている男。

 彼は監察官札幌支部一班班長の湯上(ユカミ) 正克(マサカツ)


 彼は背も高く筋肉質。

 かなり厳つい顔をしている。

 詰め寄られる側はかなりの重圧を受けるだろう。


 しかし対する鳥澤(トリサワ) (タモツ)支部長。

 その表情を一つも変える事もなかった。

 かつての事件で権限も含めて縮小され、監察官とは名ばかりの組織。

 現状を考えれば、湯上の言い分を受け入れるわけにはいかない。


「本来我々監察官の仕事は監督する事。ならば今こそ、その大義を取り戻すチャンスだとは思わないのですか?」


「取り戻したいと思うのはもちろんだ。だが湯上班長、君の言っている事は、極論すればテロをしろと言う事ではないのか?」


 冷徹な声でそう告げる鳥澤。


「過去に暴走したかもしれない男に警護させているんですよ? そもそも本来、彼女の管理は監察官が所有していたものです」


「過去はそうかもしれない。私は資料でしか知りえないが、十年前、東京で監察官が起した事件。到底擁護できるものではない。組織として存在そのものを、解体されてもおかしくはなかったのだぞ」


「だからといって、今行なわれている暴挙に何もしないというのは、到底我慢なら無い」


「湯上班長、君の言い分もわからないわけではない。確かに図書館についての管理権限は、十年前までは監察官だった。だが今は剥奪され関与する事は許されない。それを力付くで取り戻す。それがテロでなくて何なのだ? 研究所や関係機関、しいては精霊庁に勝てもしない喧嘩を売るつもりでいるのか? もしこれ以上この話しを続けるようであれば、私も立場上、君と一斑の賛同者を処罰しなければならなくなるぞ」


「く。そんな事言って、今に後悔しても知らないからな。いくぞお前等」


 これ以上掛け合っても無駄と判断したようだ。

 それとも、処罰される事に恐れたのだろうか。

 湯上は負け惜しみのように言うと、支部長室を出て行く。


 彼の後ろに続く四名の男達。

 最後に出た男は支部長室の扉を乱暴に閉めた。

 しばらく無言で歩く五人、突如湯上が呟く。


「精霊庁から左遷されてきた若造が」


「しかしどうするのです?」


「我々は十年間苦渋を舐めさせられてきたのだ。あんな若造にはその気持ちはわかるまい。結果オーライになればいいのだろうさ」


「結果オーライというと?」


「鬼どもの料亭だかで起きた事件。そこでどうやら二人の三井は、独自判断で対象を滅したらしい。だが咎められる事はなかった。それはそうしなければどうしようもない、と判断されたからだろう。我々も結果オーライと思われればいいのさ」


「それはわかりますが、実際どうされるわけで?」


「過去に暴走した、疑いのある男が警護しているのだ。やりようはいくらでもあるだろう」


 十年辛苦を舐めさせられてきた。

 そう思っている彼。

 瞳に宿るのは、暗い昏いどす黒い激情。


 そこには既に、倫理観や道徳観はなかった。

 監察官であれば、持ち合わせていなければならない規範。

 残念ながら、それが残っているとは考え難かった。

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