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Element Eyes  作者: zephy1024
第九章 人工迷宮編
143/327

143.奔流-Torrent-

1991年6月10日(月)PM:14:32 中央区人工迷宮地下二階


「凄まじい魔力の波動を感じるのぅ。何十年? いや、何百年も溜め込んだんじゃろうか? 生贄捧げるというのは、この量では現実的でなさそうだしのぅ。それに波動が強くなる方に向う程に、彼奴等との遭遇回数も増えているようじゃな」


 彼は溜息を付いた。

 その表情はやれやれといった感じだ。


「全く老体に向わせる場所ではなかろうに。さて、鬼穂は無事合流出来ているかのう。ちと心配じゃな」


 言ってる傍から、前方と後方より足音が聞こえてきた。


「やれやれだのぅ。鬼都は殿、鬼威は鬼都の援護。儂と鬼湯は正面突破じゃな」


 土御門(ツチミカド) 春己(ハルミ)の指示。

 即座に行動を開始する三人。


 迫り来るのは待たしても、小鬼(ゴブリン)の群れ。

 前後あわせて六十体程。

 その中には、体格の大きな者も混じっている。

 しかし春己達の相手には役不足だった。


 小鬼(ゴブリン)を蹂躙していく二人。

 前進する春己と土御門(ツチミカド) 鬼湯(キユ)

 二人の視界の先に、紫に輝く何かが見える。


「あれのようじゃの」


 向ってくる小鬼(ゴブリン)の群れ。

 屠りながら進んでいく。

 少しずつ、近くなっていく紫の輝き。

 その全貌が、二人の視界に徐々に露わになってくる。


「なるほど、こうゆうからくりなわけじゃったか」


 高さ二メートル程のクリスタル。

 その上部の空間では、黒い球体が浮かんでいた。

 時折、プラズマのようなものが煌いている。

 そこからは、小鬼(ゴブリン)が湧き出るように現れていた。


「やれやれ。これが彼奴等の出現の理由、というわけじゃのぅ。全く、なんでこんなものを仕掛けたのじゃろうかのぅ? 何て物思いに耽っている場合ではないわな」


 徐々に数を増していく群れ。

 うんざりしながらも、攻撃の手を休めない二人。


「鬼湯、手加減は無用じゃ。思う存分暴れてみせぃ。ついでに、儂があれを破壊するまでの露払いを頼むんじゃぞ」


「畏まりました」


 まるで、クリスタルまでの道を抉じ開けるかのようだ、

 今までとは段違いの速度。

 そして、桁違いの攻撃力で蹴散らしていく鬼湯。


 更に、背後からの銃撃が追加される。

 土御門(ツチミカド) 鬼威(キイ)の手に持つ火縄銃。

 そこから放たれる一撃は、火縄銃ではあるまじき威力だった。

 クリスタルの上の、黒球から現れる小鬼(ゴブリン)

 木っ端微塵に粉砕していく。


「遅くなりました。背後は殲滅完了です」


 鎧武者の土御門(ツチミカド) 鬼都(キト)が、春己の側に現れた。


「ご苦労じゃった。儂がクリスタルを攻撃するまで、彼奴等の殲滅を頼んだぞ。儂が攻撃したら、即、儂の背後に集まるのじゃ。破壊と同時に、閉じ込められている魔力が暴走するじゃろうからのぅ」


「「「御意」」」


 三人が全く同じ声で、同時にそう答える。

 その為、傍目には一人が答えた。

 そのようにしか聞こえないだろう。


 しかし春己には、三人がそれぞれ発した声だ。

 と言う事がわかっている。


 邪魔者を排除しながら、徐々にクリスタルに近づいていく三人。

 少し離れた所から狙撃していた鬼威。

 狙撃しつつ春己の背後に追いついた。


 彼女は目標を変更。

 周囲に陣取る小鬼(ゴブリン)

 至近距離から銃撃を加えていく。


 とうとう、クリスタルの目の前に辿り着いた四人。

 手に持つ刀を上段に構えた春己。

 意識を刃に集中させる。


 既に彼の視界に見えているのは、目の前のクリスタルのみ。

 裂帛の気合と共に繰り出された一撃。

 クリスタルが壊れたかどうかを、確認する事もない。

 即座に、三人の式神は春己の背後へ戻った。


 彼等を呑み込んで行く、紫の光の奔流。

 高濃度の魔力の奔流。

 あらゆるものを飲み込んでいった。


 迷宮地下二階に拡大していく。

 そしてほんの数秒で、迷宮地下二階を飲み込んだ紫色の奔流。

 まるで、消失していくかのようだ。

 徐々に霧散していった。


 後に残された物体、

 一瞬で過剰な魔力を浴び続けた。

 その為、肉体が耐え切れる魔力総量を超える。

 崩壊してしまった体。

 哀れな小鬼(ゴブリン)、その原型を喪失した亡骸だけだ。

 そして静寂だけが訪れた。


-----------------------------------------


1991年6月10日(月)PM:14:46 中央区人工迷宮地下一階西ブロック


 迷宮の中を歩いていく。

 茶色い髪の、バイクスーツに身を包んだ女性。

 隣は、青髪のショートカットの少女。

 一振りの刀を腰に携えている。


 彼女は、袴と巫女服を合わせたような格好。

 少しひらひらした服を来ている。

 頭には、髪の色よりも濃い、青の角のようなものが一本生えていた。


 前衛の彼女。

 周囲への警戒をしつつゆっくりと進む。

 少し離れているバイクスーツの女性。

 前衛の少女の速度に合わせて歩いていた。


「今の揺れは、破壊出来たのかもしれないな」


 突如彼女の体から、何かが震えているような音が聞こえてくる。

 左脇下部分にある、ポケット状の部分に右手を突っ込む。

 そこから、一枚の札を取り出した。

 札を、電話をかけるかのように口元に近づける。


通信(コレスポンド)


 一瞬、札に書かれている文字が発光。

 淡い光を放ち始めた。


「彩耶か?」


『そうですよ。彩耶ですよ』


 前回の通信時とは違い、彼女の声は鮮明に聞こえてくる。


『美咲今何処にいるの?』


「迷宮の中だが? 通信出来るって事はアレは消失したのか?」


『え? 美咲がやったんじゃないの?』


「ちょっといろいろと、予定外の事態に遭遇してな」


『予定外の事態?』


「鬼穂、悪いがしばらくは、一人で警戒よろしく」


「かしこまりました」


 特に表情を変える事もない。

 彼女は古川(フルカワ) 美咲(ミサキ)の指示に従う。


『え? 何?』


「あぁ、悪い。こっちの話しだ」


『予定外の事態と関係あるのかしら? その話しは後で聞くとして。そうよ、黒い球体は消失したわ。こちらの被害はせいぜい、新人が掠り傷を負ったぐらいかしらね。いろいろと酷い有様ではあるけど』


 前を歩く土御門(ツチミカド) 鬼穂(キホ)

 その姿を視界に捉えつつ、古川は会話を続ける。


「その当たりは、私達の管轄ではないさ。監察官の仕事だろ?」


『そうね。でも図書館の件があるから、何か難癖つけてきそうな気もするわね』


「今に始まったことじゃないさ。だが、存在自体が疑問視されて、解体の話しも出てきてる以上は、奴らもそう馬鹿な事はしないとは思うがな」


『そうね。省庁をまたがっている組織を、一元化しようという話しもあがってるんでしょ?』


「そう見たいだな。でも当分先の話しだろうさ」


『まあそうでしょうけど。私達は一応、討ち洩らしがないか確認してから、退却するけどいいかしら?』


「あぁ、問題ないだろうさ。黒い球体が消えたのなら、もうそっちには、何かが出て来る事はないだろうしな」


『でも美咲が破壊したのじゃないのなら誰が? あ、キホってもしかして式神の鬼穂?』


「あぁ、そうだぞ」


『え? それじゃ春己様が動いてくれたの?』


「そうゆう事だな。事前に有事の際は協力をお願いしていたからな」


『そうなんだ』


「あぁ、そうそう。惠理香にお礼と、時間ある時に来るよう言っといてくれ」


『わかったわ。今ちょっと離れた所にいるから、後で伝えとくわね』


「他に何か情報はあるか?」


『今の所特にはないかな?』


「そうか。一度研究所に戻った時に知ったのだが、いろいろとこちらにも損害が出ている。またいろいろと、予定を変えなければいけないかもな。詳しい話しは元魏にでも聞いてくれ」


『え? そうなんだ。死亡者いたりはするの?』


「今の所はいないみたいだが、何人かは危ないようだ」


 そこで古川は唇を噛み、苦々しい表情になった。

 しばし無言になる二人。


『時には死と隣り合わせになる、とは言っても。やっぱり身近な仲間だものね。元魏さんを信じましょう』


「・・・そうだな」


-----------------------------------------


1991年6月10日(月)PM:14:46 中央区人工迷宮地下一階北ブロック


 がっしりとした体躯。

 だが、傷だらけの体。

 左手はだらりと垂れている。

 右手は肩の部分を押さえていた。


 両足は地面には触れてはいない。

 まるで、何かにぶら下がっているかのようだ。

 だらりとしている。

 一見すると空中に浮いているように見えた。


 だが実際には違う。

 残っている一組の腕を、足代わりにしている。

 交互に動かして進んでいる形だ。


 透明な為、本人以外には、そう見えるというだけである。

 傷もかなり深いものもあり、まさに満身創痍。

 常に苦悶の表情を浮かべて、かなり呼吸も荒い。


「はぁはぁ・・・・この屈辱・・・忘れぬ・・・二度も・・古川・・・奴は・・ただ・・殺しただけ・・はぁはぁ・・では許せぬ・・絶望に・・絶望を・・重ねた上で・・はぁはぁ・・」


 そこに現れた小鬼(ゴブリン)の一団。

 数はおよそ二十体。

 後衛から放たれる矢。

 体に突き刺さるのも無視した。


 まるで八つ当たりでもするかのようだ。

 形藁(ナリワラ) 伝二(デンジ)は歪に微笑んでいる。

 現れた小鬼(ゴブリン)の群れ。

 手前から透明な手で、蹂躙しながら進んで行った。

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