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Element Eyes  作者: zephy1024
第八章 獣牙復讐編
126/327

126.暗闇-Darkness-

1991年6月10日(月)PM:12:37 中央区西二十五丁目通


 沢谷(サワヤ) 有紀(ユキ)を攫った青髪の少年少女。

 彼等を追跡して、二人が辿り着いた先。

 一軒の小さい、西洋の屋敷のような建物。

 外門は開け放たれたままだ。


 桐原(キリハラ) 悠斗(ユウト)河村(カワムラ) 正嗣(マサツグ)

 二人は警戒しながらも、屋敷の中に進んでいく。

 屋敷正面の玄関が何か音を立てた。

 どうやら開かれていたのが、閉まる音だったようだ。


「中に入るしかなさそうだ」


「行こうぜ、悠斗。有紀を助けるんだ」


「そうだね。助けないと」


 二人は真直ぐに進んでいく。

 正面玄関には鍵は掛けられていない。  あっさりと、開く事が出来た。


 屋敷の中も西洋風の構造になっていた。

 玄関から入った二人。

 広いホールのような場所に立っている。


 二階にあがる階段が、左右にあった。

 一階左右正面にも、いくつかの扉。

 そのうちの正面の扉、その一つが半開きだ。


 迷わず半開きの扉に進む二人。

 扉の先は廊下のようになっている。

 その奥に更に扉が見えた。


 廊下を進み、扉の奧の部屋に進んだ二人。

 部屋の中には何もない。

 中央の螺旋状の階段が、下に向っているだけだ。


「何だこの部屋?」


 正嗣の言葉ももっともだ。

 階段だけがある部屋なんて普通はない。


「階段を降りるしかなさそうだ」


 悠斗の言葉に正嗣も頷く。

 一切人の気配を感じる事のない屋敷。

 奇妙に思いながらも、螺旋階段を降りていく。

 実際にはそんなに長い時間ではない。

 しかし二人には、階段を降りる時間がとても長く感じた。


 そして辿り着いた先。

 長方形の部屋のようだ。

 螺旋階段は、その中央部分に存在していた。

 左にも右にも、長方形に穴が開いている。


 真っ暗で、底がどこまであるのかは見えない。

 幅は四メートル程だが、長さは十メートル以上ありそうだ。

 そしてどちら側も、穴の奧に何かの機械が置かれている。


 東側と西側では、置いてある機械の種類は違うようだ。

 青髪の少年少女も有紀も、ここには見当たらない。


「もしかして開いてた扉はフェイクか? それとも穴に飛び込んだ?」


 悠斗は自分でそう口にしながら、他の理由を考える。


「フェイクなんて、考えてる余裕はなさそうだったけどな?」


 正嗣の言う通りだ。

 悠斗も、彼らにそんな余裕は感じなかった。


「だからと言ってこの穴に飛び込むかな?」


 制服の袖のボタンを一つ引き千切った悠斗。

 そのボタンを、穴に落としてみた。

 どんな空間にも、底はあるはずなのだ。

 しばらく待ってみる二人。

 ボタンが何かにぶつかるような音は、聞こえてこなかった。


「まさか底無し穴? いやまさか?」


 正嗣の言葉、底無し穴を否定したい悠斗。

 しかし、ボタンの音が聞こえてこない。

 否定する材料が無かった。


「やはりフェイクか? しかし穴の意味は何だろう?」


「フェイクかどうかは、屋敷を隈なく調べるしか、ないんじゃないか?」


 正嗣の言う通りである。


「そうだね」


「手分けして探そう。俺は屋敷の左から調べるから、右側を頼んだ」


 こうして一度、一階のホールに戻った二人。

 全ての部屋を探してみる事にした。

 だが結果は空振りだ。


 青髪の少年少女も、有紀も、誰一人見つける事が出来なかった。

 それどころか、屋敷には人の気配さえない。

 誰かが住んでいた形跡すらも、見当たらなかった。


 再び螺旋階段の下の、謎の部屋に戻って来た二人。

 部屋には一つだけ変化があった。

 穴だったはずの場所に、床が存在したのだ。

 そこには長方形で、何か魔方陣のようなものが描かれている。

 最初に口を開いたのは悠斗。


「非常識な考えだけど、これがいなくなった答え?」


「下から上がってきたって事になるよな?」


「考えにくいけど、そうとしか思えないね」


 恐る恐る塞がった床に、二人は足を踏み入れる。

 不思議と床は頑丈のようで、蹴ったりしてもビクともしない。


「この機械が、起動スイッチみたいなものなのかな?」


 床が出来た為、奥にある機械にも辿り着けた悠斗。

 隣の正嗣を見ながら、そう問いかけた。

 何か結晶のようなものが、機械の中に填まっているのが見えている。

 操作ボタンらしきものは一つだけだ。


「押すけど、いいか?」


「いいぜ。ここまで来たんだやるしかないだろ」


 言葉とは裏腹に、不安げな顔の正嗣。

 悠斗も決して、不安じゃないと言えば嘘になる。

 そんな心境だ。

 悠斗は、躊躇を見せずにボタンを押した。


 微かに、何かの駆動音のようなものが聞こえる。

 足元の魔方陣が、仄かに明滅を繰り返す。

 最初は異変に気付かなかった二人。

 徐々に足元の床が下がっている事を理解する。

 下がっていく速度は、だんだん速くなっているようだ。


「一風変わったエレベーターって所か?」


 若干強がりにも聞こえる正嗣の言葉。

 しかし、そう考えれば青髪の少年少女と有紀。

 三人がが消えた理由も説明がつく。


 問題は辿り着く先が何処なのかだ。

 徐々に下がっていく床。

 まるで地層を見せびらかすかのようだ。

 徐々に、視界に見える壁の色は変化していく。

 やがてそれも暗闇に飲まれてわからなくなった。


 照明になるような物は何もない。

 二人は、終点に辿り着く。

 その時まで、暗闇の中おとなしくしているしかなかった。


「これ何処まで下がるんだろうな?」


 正嗣の疑問に答える術は、悠斗にはない。

 独り言のように呟く。


「俺が教えて欲しいよ」


-----------------------------------------


1991年6月10日(月)PM:12:55 中央区大通


 アグワット・カンタルス=メルダーとアリアット・カンタルス=メルダー。

 二人の追跡を諦めた古川(フルカワ) 美咲(ミサキ)

 そのまま西に向かい、本来の目的地である場所に辿り着いた。


「所長遅かったですね」


 白衣の出立ちの、特殊能力研究所第一研究室室長。

 眼鏡の男、一条河原(イチジョウガワラ) (マモル)

 彼が車から降りて、古川を出迎えた。

 その両手首には、何かのデバイスのようなものを装着している。


「三巳と四鐘は南口に向ってるはずです」


「そうか。出入した者はいたか?」


「ここに着いてから入っていったのは人狼が二人」


「そうか。アグワットとアリアットだな」


「はい、アンジェ・・火蜘蛛(カクモ)に追跡させてます」


「わかった。それじゃ行こうか」


 西洋風の、小さな神殿のような建物。

 扉は鍵が掛けられていない。

 アグワ、アリアの二人が開けたのだろう。


 両側に並ぶ扉には、目もくれず真直ぐに進む二人。

 開け放たれた正面扉。

 そのの奧には螺旋階段。

 躊躇する事無く、階段を駆け足で降りていく。


 降りた先は長方形の部屋になっていた。

 片側は幅二メートル程の正方形状の穴。

 真っ暗で底は見えない。


 その奧には何かの機械が見える。

 反対側にも同じ機械が置いてあった。

 押せるボタンは二つ。

 そのうちの片方が点滅している。

 床には正方形の魔方陣。


「昇降機って所か」


「そのようですね。おそらく、点滅しているボタンを押せば降りていくのでしょう」


「点滅してない方は、降りてしまった昇降機を呼ぶボタンって所だろうな。片側が穴なのは、アグワットとアリアットが降りているからなんだろう」


「同じ場所に出るとは限りませんが、どうしますか?」


「降りるしかないだろうな」


 何の躊躇もせず古川はボタンを押した。

 徐々に下がり始める床。


「アーティフィシャルラビリンスか」


「所長は確か、関東のアーティフィシャルラビリンスに潜った事があるんでしたね」


「そうだな。十年前の話しだがな」


 闇に飲まれていく目の前の光景を見つめている。

 古川は過去に思いを馳せた。


「惠理香と二人、無策でな。若気の至りさ」


「それでも、情報を持って帰還したわけですから」


「・・・そうだな」


 古川の表情も見えない暗闇。

 鎮は言葉を続ける。


「現在確認されているラビリンスは二十一。そのうちの、アーティフィシャルラビリンスと判断された場所は七。ここで八になるわけですか」


「・・・そうゆうことだな。ナチュラルラビリンスも、見つかってないだけで、もっとあるかもしれないが」


「そうですね。未開の地や人間の手の入りにくい場所ならば」


 鎮の表情はわからない。

 しかし声からは、嬉しそうに話しをしているようだ。


「日本のナチュラルラビリンスは三。アーティフィシャルラビリンスはここで二となる。二割が、狭い島国の日本で発見されいてるわけでして」


 いつもの事ではある。

 だが、毎度毎度聞かされている古川。

 彼女としては、うんざりしている。


 しかし、その会話の中にも、有用な意見が出る事もある。

 なので、無碍にも出来ないというジレンマ。

 暗がりの中、スパイダーラヴァーの鎮との会話は続いていった。

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