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Element Eyes  作者: zephy1024
第八章 獣牙復讐編
119/327

119.色名-Color-

1991年6月10日(月)PM:12:00 中央区西七丁目通


 通称、電車通と呼ばれる道。

 栗髪の男と淡い金髪の女が歩いている。

 二人は以前、複数の生徒達に目撃されていた。


 角を曲がり小道へと入る。

 視界の左手、中学校の緑色のフェンス。

 高さをまるで感じさせない。

 軽々とフェンスを越えて、校庭に着地した。


 そこの中学校の教室の一つ。

 三井(ミツイ) 義彦(ヨシヒコ)は珍しく、数学の授業を真面目に聞いている。

 しかし突然の違和感。

 彼は顔を顰めて右斜め前を見た。


 十二紋(ジュウニモン) 柚香(ユズカ)も同様だった。

 微かに見える顔。

 怪訝そうな表情だ。


 続いて感じ取れたのは殺気。

 窓から校庭の方を見下ろす。

 隅っこに人間が二人いた。


 距離があるので断言は出来ない。

 しかし彼は、あの時の二人だとは直感。

 突然席を立ち上がる。


「三井君、どうした?」


 反射的に問うた教師。


「三井君、答えなさい。どうしたんだ?」


 義彦は答えない。

 窓を開けて校庭に下り立った。

 聞こえてくる教師や同級生の声。


「おいおい、三井の奴、何考えてるんだ?」


 唯一状況を理解しているような呟き。


「無茶しないでね」


 それは柚香の声。

 義彦に彼女の声は聞こえていない。


 ゆっくりと二人に向って行く義彦。

 声が聞こえるだろう距離まで近付いた。


「そんなに殺気放って何のつもりだ?」


 金髪の女が答えた。


「もちろん、あなたを誘い出す為」


 やはり柚香と登校中に遭遇した二人。

 教室の方でも何か騒いでいる。

 が、距離がある為、内容はわからない。


「ああん。やっぱり食べちゃいたいわ。見つめられるだけで、とても感じちゃう」


「クルファはやっぱりクルファですね」


 若干呆れ顔の栗髪の男。


「その欲望に真直ぐな所は、嫌いじゃないです。頑張って無力化すればいいんですよ」


「ああん? それこそ難易度高くて濡れちゃいそう」


「本当はもう、濡れてるんじゃないんですか?」


「カルバのいけず。それは言わないでよ」


「はいはい。それじゃこっちはこっちで、目的を達成しに行ってきますよ」


「ああん。わかったわ。サシで勝負していいのね」


「いいんじゃないんですか? 巻き込まれて食べられたくありませんし。サディスティックな事さえなければ、いいんですけどね」


「ああん? いけずのいけずなんだから」


「はあ。それじゃ頑張ってください」


「行かせると思うか? 栗髪の片眼鏡」


 瞬時に狼化して襲い掛かってきたクルシアルファ・レオリカルダン。

 その速度に防戦に陥る義彦。

 避けるのに、集中せざるを得なくなった。


 その間に、カルヴァット・マドロコシーは校舎に歩いて行く。

 顎目掛けて振り上げられた蹴り。

 紙一重でバク転で躱した義彦。


 即座に前進しストレートを放つ。

 逆に腕を捕まれる。

 勢いのまま、一本背負いのように投げ飛ばされた。


「そんなんじゃ、お姉さんはイカされないわよ! 坊や、本気できなさいな」


 膝を突き、腰を上下に振り上げる。

 反動で揺れるたわわな胸。


「・・・どんな思考回路だよ」


 全力開放した義彦。

 瞳が赤黒くなる。

 薄っすらと体の表面も、赤黒い奔流に覆われていく。


 この力もいい所ばかりではない。

 義彦の全力開放時の制限時間は推定七分。

 七分以上維持すると、理性を保ち続ける事が不可能になる。

 その可能性が高いと推測されていた。


 一年以上前に、一度理性を失った義彦。

 二度と同じ過ちを繰り返さないと誓った。

 本心を言えば使いたくはない力。

 その時の出来事は、それ程に彼の心に傷を負わせている。


 しかし生半可な力では勝てないと判断。

 後ろ向きな自分の気持ちを、無理やり押し込めた。

 この力を全力解放する。

 その時は七分以内に終わらせるという事だ。


 先程とは段違いの速度で肉薄。

 攻撃を繰り出す。

 その攻撃は、徐々にクルファを圧倒する。


「いいわ! やっぱりあなたいいわ!! もう私イキそう! 頭真っ白になって激しくイキそうよ!」


 彼女の言ってる事。

 そこはかとなく嫌な感じを受ける。

 義彦の拳が、クルファの顎を右から打ち抜いた。


 校庭で吹き飛ばされバウンド。

 強かに地面に打ち付けられた。

 更につつフェンスに衝突。

 血走った目に、口から垂れる血。


「あぁ、イッちゃいたい! イッちゃい・・・」


 一度立ち上がったクルファ。

 白目を向き崩れ落ちた。


「まさかクルファを一撃でノックダウンさせるなんて、凄まじい力ですね。ブリットを連れて来るべきだったのかもしれません」


 栗毛の人狼が、柚香を人質に歩いてきた。


「柚香、教室でおとなしくしてなかったのか?」


「ご・・ごめんなさい」


「動けば、この娘の可愛い顔が、傷物になりますよ」


 鋭く尖った爪を柚香の頬に近づける。


「栗髪の片眼鏡。カルバとか呼ばれてたか? 俺にどうしろと?」


「まずはその物騒な力を、やめてもらえますかね」


「わかった」


 瞬時に瞳の色が元に戻る。

 体を覆っていた赤黒い奔流も消失。

 それを見たカルバ。

 柚香の頬に近づけていた手を前に向ける。

 爪を義彦に向けた。


「躱せば、どうなるかわかってますよね」


 伸びた爪が義彦の左上腕を貫通。

 苦悶の表情になる。

 痛みで叫びだしそうなのを、唇を噛んで堪えた。


「やはり、苦悶の表情というのはいいですね!」


「義彦さん!」


「片眼鏡。お前こそ、柚香に何かしたらただ殺すだけじゃ済まさないぞ」


「その虚勢。いつまで続きますかね?」


 左上腕を押さえながら、カルバを睨みつける。

 再び伸ばされたカルバの爪。

 義彦の右腿を貫通。

 彼は膝をついた。


 その光景に唇を噛み締める柚香。

 義彦を見つめている。

 彼女の瞳に、何かを決意した灯火が燈った。


≪カラー:レッド≫


「柚香やめろ・・・」


 痛みに堪えつつ叫んだ義彦。

 柚香はやめる事もなく言葉を紡いだ。

 言葉が終わると同時。

 柚香の首を押さえている手が緩くなる。

 苦しみだしたカルバ。


 その瞬間に、柚香は腕の拘束を抜け出しす。

 義彦の側に移動した。

 徐々に激しくなる痛み。

 端も外聞も投げ捨てたカルバ。

 その場で悶え苦しむ。


「馬鹿な奴だ。俺でさえ、本気の柚香には、勝てるかどうかわからないのに」


 顔を顰めている義彦。

 今カルバを脅かしているのは柚香の怒りの炎。

 心の思いを、色という言葉にして発動させる。

 かなり特殊な部類の力。


 一応魔術という事にはなっている。

 だが、実際にそうなのか。

 柚香本人でさえわかっていない。


 もちろん、湧き上がる感情でしか発動出来ないわけではない。

 ある程度任意に、現象を操作する事も出来る。

 相手の感覚に、強制的に任意の現象を体感させているだけ。

 実際にカルバの体が、燃えているわけではない。


 しかし、脳でそうであると感じてしまう。

 それだけで、それは凄まじい破壊力を示す。

 今カルバは、現実にされているわけでもない。

 なのに、体の中から燃やされている感覚を味わっている。


 一通り苦痛の声を上げ続けたカルバ。

 耐久の限界点を突破。

 一瞬声が途切れた。


 しかし痛みに再び意識を覚醒。

 苦痛に呻着始める。

 何度か繰り返し、抵抗する意思も気力も削がれていた。


≪カラーレス≫


 柚香の言葉で、カルバは絶叫をあげるのをやめた。

 しかしぐったりと、して汗だくだ。

 その瞳も、既に何処を見ているのか定かではない。

 義彦に肩を貸して校舎に戻る柚香。


「柚香・・お前良かったのか?」


「え? はい。確かに私は、忌わしいこの力に苦しめられてきました。二度と使わないと考えてみました。でもそれで義彦さんを失えば、吹雪ちゃんにも顔を合わせられません。一生その事を後悔すると思ったんです。だからいいんですよ。もちろん無闇に使うつもりはありませんけど・・・」


「お前まで爪弾・・・いや何でもない」


「それよりも手当てをしないと。出血が酷いですし」


「あぁ」


 曖昧に頷いた義彦。

 密かに、柚香に力を使わせてしまった。

 そんあ事態を招いた事を後悔している。

 柚香は、彼の思いに気付いていない。


 しかし、使ってしまったのだ。

 場合によってはそれも前提に動くしかない。

 という意識も、義彦にはあった。


 義彦とクルファ、二人の戦い。  彼の学級も含めて、他の生徒達も、窓に張り付いて観戦していた。

 もっとも、二人の動きを補足出来ていた生徒がいるかは疑問だ。

 先生数人と何人かの生徒が出てきた。

 義彦と柚香に走っていく。


 その中には保険医も含まれている。

 その手には救急箱が抱えられていた。

 義彦は傷の手当てを受けている。

 先生方に事情の説明と、二人の厳重な拘束を頼んだ。

 そこで電話回線が不通な事を知り、嫌な予感を感じた義彦。


 学校にあった備品のロープ。

 両手足を厳重に縛られた人狼二人。

 縛った先生は、そっち方面の知識が豊富のようだ。

 かなり不思議で難解な縛り方をされていた。


 先生と一緒に来た生徒達。

 義彦の指示で、騒ぎを収拾する。

 その為に、各教室や職員室に向っていた。

 義彦と柚香は、校庭に転がっている人狼を見張っている。


「しかし何で柚香があそこに?」


「え? あ・・えっと。怒らないで下さいね。義彦さんが心配だったってのと、それとカルバと言いましたか? 私に出てこないと皆殺しにすると言われて」


「それで馬鹿正直に出て来たって事か」


「はい」


「本当、馬鹿だな」


「馬鹿は酷いですよ」


 少し泣きそうな顔になった柚香。

 義彦はその頭に、ポンッと手を置いて優しく撫でた。


「すまなかった。力を使わせるようなヘマをした」


 一瞬きょとんとした柚香。

 首をブンブンと振って否定の意を表す。


「義彦さんだって、本当は使いたくない力を使いました。だから」


「なんだばれてたのか」


「それはもちろんです」


 微笑む柚香。

 義彦も少しぎこちなく微笑んだ。

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