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Element Eyes  作者: zephy1024
第八章 獣牙復讐編
107/327

107.逃奔-Scarper-

1991年6月10日(月)PM:12:11 中央区西二十丁目通


 二車線の道路。

 ぶっ飛ばして走り続ける車。

 タイヤを唸らせ、突如右折。

 対向車線に車がいれば、事故を起こしていただろう。

 更に次の角を左折する。


 運転手は、追ってくる存在には気付いていた。

 しかし、完全に存在を無視している。


 そんな車が目指している場所。

 運転手の娘達が通っている中学高等学校。

 そこでの戦いも、架橋に入っていた。


「か・・伽耶、わ・・私は・・・いい・か・・らこの・・娘を止め・・て!! は・・早く・・しな・・ない・・・と・・みん・・皆が・・・」


「へん!! 泣いた所で、止めてやる程あたしはお人好しじゃないよ」


「やだ。沙耶は助ける、けどリリだっけ? あんたも止める!」


「本当、あんた馬鹿ね!! この状況でどうやって止め・・ちょっとまて? 火の刃の先っぽが見えないのはなんで?」


 油断してたのはあたしの方。

 馬鹿なのはあたしだ。


「いたぁぁぁ」


 まさか火の刃で、黒薔薇の茎の間。

 掘ってきたっていうの?

 でもあたしの手の平に、下から突き刺さっている火の刃。

 それを見ればそうとしか思えない。

 残りの魔力で唱えられるか?


≪スピトズ サメン イン デン レトズテン ゼフン≫


 駄目、集中しきれなかった。

 狙いが甘い。

 けど、それでも尖った十個の種子だ。

 火の刃で防ぐ時間はないでしょ。

 え、真直ぐ突っ込んでくる?

 なんて馬鹿なの?


 氷の刃?

 痺れた体だから戦闘不能だと思ってた。

 なのに倒れながらも・・・。


 掴んでるのもやっとの氷の刃。

 伸ばして種子を突き刺すなんて?


 もぐってた火の刃を、無理やり振り上げた?

 それでもまだ残ってる。

 少なくとも二発は致命傷コースよ。


 まさかの火の刃の二刀流?

 致命傷のを含めて、燃やすなんて馬鹿げてる。

 残り七つのうち二つははずれた。

 けど、四つは直撃コースよ。

 まさか刺さるのを無視して突っ込んでくるなん・・。


「ぎゃふっ・・・」


 何か頭に衝撃が来た。

 クラクラするよ。

 勝負はあたしの負け。

 だけどあたしを殺しても、黒薔薇は消えないわよ。


「伽耶も沙耶も一応無事みたいだね。いや無事っていうのかな?」


 男の声だけど、誰?


「パパ!! 沙耶が沙耶が!」


 パパ?

 元魏とかいう奴?


「ふむ、沙耶はどうやら体は痺れているけど、命に別状はなさそうだ」


「よ・よかった」


「おいおい、何も泣かなくてもいいじゃないか。伽耶」


「でも・・・でも・・だって・・」


「泣くのはとりあえず後にしようか。この植物を何とかしないとね」


「う・・うん」


「黒茎に黒薔薇の蕾か? 生命力を吸収して対象を徐々に弱らせるってところか」


 この男何者なの?

 何でそんな少しの時間で理解出来てるの?

 でも、理解しても無駄よ。

 止めれるわけないんだから。


枯渇(ディプリション)


 え?

 嘘でしょ?

 そんな馬鹿な事が????


 あたしの黒薔薇が枯れていく。

 物凄い速度で渇いて崩れていくよ・・・!?

 何で・・・!??


「パパ? あそこに転がっている人? 狼? え? 何?」


「ん? 狼化族だね。ここに着いた時に挑んで来たんだよ」


「そ・そうなんだ・・・」


 黒薔薇も枯らされて、完敗しちゃったっぽい。

 経過時間から考えると、衰弱してる人はいるだろうけど。


 反撃の糸口を見つけようと思った。

 けど、考えるだけ阿保らしくなっちゃった。

 清々する程の完敗みたいね。


「とりあえず二人の治療をしてから、校舎の中の状況の確認だね。伽耶は歩けるかい?」


「うん、大丈夫。だから沙耶をお願い」


「わかったよ」


麻痺解毒(アンチパラリシス)


「沙耶、しばらくすれば、痺れも取れると思うから。その間に治療をしようか」


「パ・・パ・・」


「おっと、言いたい事聞きたい事あるかもしれないけど、伽耶共々、怪我の治療が先だよ」


-----------------------------------------


1991年6月10日(月)PM:12:22 中央区特殊能力研究所地下二階


 二十分位前に感じた、何か変な感じの違和感。

 何だったのかはよくわからない。

 その後かすかに、上の方が騒がしかった気もする。


 何が起きてるのかはよくわからない。

 だけど、違和感の前までまったく使えなかった力。

 何故か使えてる。


 鉄格子の前面にあった、魔方陣らしきものも光を失っていた。

 結果から考えるとさっきの違和感が原因か。

 俺を拘束していた魔方陣の影響が、消えたって事なんだろうな。

 逃げるなら今のうちってことか。


 鍵穴がなかったので不思議に思っていた。

 だが、この魔方陣が鍵の役目もしているのだろうか?

 鉄格子のだとしたら、扉は簡単に開閉する事が出来そうだ。


 これはこれで何と言うか、無用心なんじゃないのか?

 だから外に出られるかもしれないのだが・・・。

 かすかに金属のこすれる音はする。

 ゆっくりと押していくと、扉はあっさりと開閉する事が出来た。


「え? おまえ、何で外に出てるの?」


 隣の鉄格子の、遠崎とか言ったか?

 死んだ魚みたいな目。

 俺が出た事で僅かに反応したな。


「扉なら開いてるぞ」


 ちっ、俺は何で教える気になったんだ。


「え? まじですか?」


 反対側の鉄格子の、西崎だったか?

 疑問なら開けてみればいいだろ。

 こんな奴らに関わってる場合じゃない。

 とりあえずは、俺はここから脱出しないといけないんだ。


 階段を上って、踊場で様子を見てみた。

 どうやら、上の階には誰もいないようだな。

 ここが地下一階か。

 一階も誰もいなさそうだな。


 ちっ、あいつらもっと静かに上って来い。

 誰かに気付かれる前に、一気に駆け抜ける。

 そうして、俺は裏にある窓から外に出た。


 普段なら人がいるはず。

 なのに、こんなに静かなのはなんだろう?

 疑問には思った。

 でもとりあえずは、ここから離れないとな。

 また捕まるのは勘弁して欲しいし。


 あの薬をただでくれたあの男。

 何か困った事があれば頼れ。

 そう言って、とある住所を教えてくれた。


 おそらく家の事はばれているだろう。

 癪ではあるが、頼らせてもらうとしようか。


 俺は何とか平常心を保ってはいる。

 だが、いつ決壊するかわからない。

 あの薬が、正直欲しくて堪らないし。


-----------------------------------------


1991年6月10日(月)PM:12:34 中央区特殊能力研究所付属病院五階六号室


 こんなに直ぐに、再びこの病室のお世話になるとは思わなかった。

 伽耶は、隣のベッドで何か物思いに耽っている。

 パパは入口近くの椅子に座っていた。

 古びた本に夢中だ。


 濁理って女の子と、パパが倒した狼化族の人。

 怪我の手当てはした。

 その後は、念の為隔離してあるそうだ。


 私達二人が、再び襲われる可能性もある。

 なので、パパはここを動けない。

 確かに、伽耶も直ぐに動くのは無理だろうな。


 私も、痺れは回復した。

 そうは言っても軽症とは言えない傷だ。

 爛れが痕にならないと、嬉しいけど。


 激昂してたけど、それでも伽耶は冷静に対処してた。

 もう私なんて、ただのお荷物にしかならない気がする。

 火と水の違いはあるけど、飲み込みも伽耶の方がいいし。


 私はどうすればいいんだろうな?

 とりあえずパパに状況を確認してみよう。


「パパ、皆は無事なの?」


「無事だといいんだけどな。残念ながら魔術通信は妨害されてるようでね。一応接続は出来るけど、声が聞こえにくいんだよ。電話回線も、どんな方法を用いたのかわからないけど、繋がらないんだよね。本当は原因を調べたいんだけど、人員不足って所かな」


「それじゃあ、連絡する術も、連絡を受ける術もないって事?」


「そう言う事になるね。それに襲撃者達の目的もよくわからないし、何もかもが後手後手にまわってるかな?」


 そこで物思いに耽ってた伽耶。

 パパに顔を向けた。


「そんな状態なのに、私達ここで寝てていいの?」


 同じ事は私も思ったけど・・・。


「伽耶の言う事もわかるけどね。沙耶も同じ事思ってるようだけど。相手の出方がわからない以上は、動きようがない。それに負傷した娘二人を、こんな所に置いていくわけにもいかない。二人ともまだ動くのは辛いだろうし」


「・・・確かにパパの言う通りだけど・・・」


「伽耶は歩くぐらいなら問題ないけど、沙耶は歩くのも辛いだろうしね。何処で何があるかわからない以上、父親としても、この病院の医者としても、二人にはおとなしくしていてもらわないとね」


 不満げな伽耶の気持ちもわかる。

 けど、確かに今の状態で私達が動いてもね。

 役に立たないのかもしれない。


 学校の皆は、どうなったんだろうな?

 あの後パパが、学校に医療班を残してきたみたいだけど。

 皆生存してるってパパは言ってる。

 けど、やはり心配になってしまう。


 あの女の子は、元々私達二人が目的だったみたいだし。

 私も伽耶も、あの学校に通ってなければ良かったのかな?

 そうすれば、皆はあんな事件に、巻き込まれることもなかった。

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