俺は俺 森の国と山の国
一人の女が篭を背負ってとぼとぼと街道を歩いている。
まだ若いが美人とはいえない。
「ここから向こうはアイントーレだ、何をしにいくのか。」
「教会の依頼で、薬草を探しに参ります。」
「何もないから危険はないと思うが、気をつけていくんだぞ。」
「ありがとうございます。」
2回ほど角を曲がって木々に枯れた物が目立ち始め、衛兵たちから姿が見えなくなると、女は駆け足になり、更に速度が上がって枯れはてた木々の間を一陣の疾風が通り過ぎる。
ここが世界樹のあった場所。
女は1時間も経たないうちに魔法で脚力を強化してアイントーレの中心部まで走りきった。
崩れ去って堆積物となった世界樹の脇に、小さな木が一本だけ緑の葉を茂らせて生えていた。
森の民の少女は自分自身の体を使って世界樹の再生を試みていた。
まだ細い幹に手を当てて何かをしていた女はため息をつく。
次の日の朝女は国境の町の広場にいた。
少し上質の武具を纏った女は二つの酒の樽を背負わせたロバを引いて集合している隊商へ近寄っていった。
「護衛団の者だ、ドンペスまで荷があるのだがこのロバを引いて行ってくれぬかな。礼はする。」
差し出された小さな袋の中身を見て商人はうなずいた。
「人手に余裕がありますから、一頭ぐらいロバの面倒を見るのはわけない事です。お任せください。」
「よし頼む。」
護衛団の傭兵達が集まってくると女はそちらに帰っていった。
「隊商のものです、今日はひとつよろしくお願いいたします。」
「うむ、まかせろ。」
護衛団の団長は女の差し出した皮袋を黙って受け取った。
一行はその日のうちにドンペスの門前についた。
門の前には帝国軍が警戒のために配備されていた。
女が団長に近づく。
「団長様、私が手続きをしてきますからゆっくりとご休息ください。」
「うむ、そうさせてもらおうか。これをもっていけ。」
許可証である皮を団長から受け取り、女は帝国軍の係官のところまで一人馬を飛ばした。
偽造が出来ないように魔法が込められている皮の許可証を高々と掲げ、封印を解いて広げる。
「隊商の責任者です。商人18名、傭兵8名をつれてまいりました。確認お願いします。」
書いてある数字を読み上げて了承を得る。
女は商人が門を通り抜けるたびに大きな声で数を数える。
「17、18名、以上です。」
時間を置いて、また傭兵が通るたびにまた数を数える。
「7、8名、以上で全員です。」
そのまま許可証を係官にわたして商人たちを追いかけた。
石造りの町並みを女がロバを引いて歩いている。
「届け物なんですけど、白い髭の人知りませんか?お一人だけいるって聞いたんですけど。」
山の民達は黙って顔を見合わせた後全員で町外れの滝のほうを見た。
近寄ると酸っぱい悪臭が漂ってくる。
火山から流れ来たのだろうか強い酸性の水が湧き出して滝となって流れ落ちている。
女は軽々と酒樽のひとつを担ぎ、滝の中に入っていった。
入ったときも、しばらくして出てきたときも流れ落ちる酸は自ら彼女をよけたように見えた。
山の民達は一部始終を見ていたが、樽のひとつをもらって忘れることに決めた。
そして各地に散ったものから情報はひとつに集まる。
することもなくじっとしていた俺にやっと声がかかった。
「タロ様、シェリー様の行方が分かりました。」




