帝国の栄光 彗星の夜
「くぅくるしい!」
「なにをなさるんですか!」
「悪かった。」
「なら離して下さい。」
糖の入り口でマイアとリアを思いっきり抱きしめてしまった。
本当に悪かった。
ふぅ、こんなことをしている場合ではない。
「マイ、リアナこの塔の設備が使えるか至急調査せよ。」
「ロンは警戒に当たれ。」
この世界の魔法技術や知識を詰め込んだ、かなりダークな方法でだが、マイとリアナによって数日後には皇太子の聴覚はもどった。
そして土天が彗星に隠されるかも知れない日、皇帝は胸の部分に穴を開けたシーツに包まって硬い台の上に横たわっていた。
皇帝の要望で麻酔は行われていない。
粛々と術式は進んでいく。
首の後ろがなぜかなぜかチリチリと警告を発している。
マイアとリアが頷いた。
土天が隠れた。
顔に小刀を突き立て、首を切り落としさえすればよいのだが、俺はその合図を出せぬまま術式は終了した。
「陛下おわりました。ご気分はいかがでしょうか」
『良くやった、大儀である。』
上機嫌な念話が俺の背後から聞こえてきて、振り向くと石壁から皇帝が湧き出てくるところであった。
『実験体はいくらでも用意できると申し付けてあるであろう。それは下の姫と王子じゃ。うぬらならば目も治療できるであろう。早くしろ。』
このぐらいのことを皇帝が出来ないわけがない。
明らかに試されていたのだ。
台の上の偽皇帝は瞬間的に石化して崩れ去った。
もう星の位置は変わってしまっていた。
「マイアこれを片付けろ、リア目と耳をもってこい。それと気管もだ。」
「うむ、悪くないぞ。自分の目で見、耳で聞くというのは良い物であるな。次の段階も期待しておるどんな予定だ?」
皇帝はその体を鏡で確認しながら胸の口から声を出して問いかけてきた。
「陛下の頭を元の位置に戻すのは不可能だという結論に達しました。あまりにも首の太さが違うのです。」
「うむ、朕もそれでこのようにしたわけだ。」
「また首を順に子孫に移していく方法ですが、血縁が薄まると適合しにくくなります。かといって近親で交配させますと劣化してしまいます。」
「そこまでは理解しておる。」
「そこで、ゴーレムを作る手法で体を作り、そこに心を移してしまえば良いのです。」
「心を移そうとした皇太子は壊れたぞ。」
「そっくり移動させようとするのがいけないのです。体は生きようとして心を引きとめ、結果として引き裂いてしまいます。そこでその体を維持している心の部分だけを切り離して移し替えてしまえばよいのです。切り離した部分は稼動するゴーレムにはすでに入っておりますから問題はございません。ただゴ-レムの素材はこの塔にあるお身内の素材を使ったほうがなじみやすいかと存じます。」
「よかろう、ただし作業の一部始終は監視させる。良いな。」
「はっ。」
「ところで褒美じゃ。なにがほしい。」
「三の姫さまをいただきたく存じます。またご不要かと思いますので二の姫様の頭部もいただければ幸いです。」
「そうか、たしかうぬは、姫に抱かせろとか申しておったそうだな。良かろう頭は新しい体が出来ればくれてやる。好きに使ってよい。」
俺たち全員に女官達が二人ずつついて小さな挙動ひとつ逃さず見張られている。
三の姫は皇太子と分離して元に近い体になったがすでに心が幼児まで退行してしまった後だった。
幼子の浮かべる無邪気な笑顔で城の庭ではしゃぎまわっている。
これでもまだ良かったほうかもしれない。
ただずっと話しかけていた俺以外の人を異常に怖がるのでよそに引き離すわけにも行かない。
皇太子は元のままの人形に戻った。
皇帝の体自体は比較的簡単に出来上がった。
そして高度な治癒魔法を掛け細胞の状態を固定化し劣化つまり老化を止める。
この魔法は本来生物には使えない。
魂も固定化して記憶がその一瞬で止まってしまう為だ。
新しいことも覚えられないし、新しい判断も下せない。
だがこの場合、その部分は後で付け足すので何の問題も無い。
ここまではよかったのだが、ゴーレムのベースとなる魂の調達方法でもめた。
俺は連れて来たゴーレムのロンのもので間に合わそうとしたのだが、皇帝が反対した。
理由としては一体化する魂が誰のものであるのか分からないものでは許可できないということだ。
素材として一番したの老いた王子を押し付けられてしまった。
素材に使って楽にしてやるほうが幸せかと、自分自身の心を偽ることも出来ず、また心に暗いものがったまって行く。
しかしなぜだ。
王子一人を死なせるほうが、戦で殺せと命じるほうがはるかに容易いことなんだ。
城の中で自由にしてよいは、城から出るなということだった。
俺がいつ死んでもかまわないように湾岸諸国の王達に独立性と自由度を持たせてあるのだが気になる。
大急ぎで、実際に俺は見ているだけなのだが、5日後には皇帝の体が出来上がった。
ためし運転も上々で皇太子程度には稼動する。
二の姫の体も出来上がり部屋に3つの台が並ぶ。
真ん中に皇帝、左に新しい体、右に姫の体。
いよいよ取り掛かろうとして待ったがかかる。
またかよ。




