77.
「次の書類ですよ、女王様」
「こっちはインフラ設備の見積書だぜ、女王サマ」
「……サミュエルもハルトリッヒも、ふざけた名前で呼ぶのはやめて。私はただの代理よ」
そう。私は今、ブレメンス復興そして魔法使いに頼らない国家にするべく政策やらインフラの基盤づくりに追われていた。別に放置して国自体が滅んでも良かったのだが、なんだか今まで私に辛く当たってきていた兵士やら騎士、国民達の落ち込み具合と治安の悪化状況を見ていると放っておけなくなってしまった。
そうしてサミュエルやらハルトリッヒが所属していた魔法部隊の人間達の力を借りながらも、現在王の代理として仕事に追われていた。
しかしいつまでも私が上に立つつもりはない。早いうちにこの国を民主主義国家にするつもりだ。既にフィオレントとの協定は結んでおり、国としてある程度の立場は確立できるように手回しはしてある。
ちなみにクラウスにサミュエル、ハルトリッヒや今までの事を知り、見識を広めたローラやバリーにすら『異常なまでのお人よし』だと称された。
違う、私はただ『後悔』したくなかっただけなのだ。
だってこのまま放っておいてしまったら、この国から搾れるだけ搾りつくした王侯貴族達と何も変わらなくなってしまう。自由にやるだけやっておいて、放置だなんて、私自身の正義が許さなかった。
そうこうして、ある程度新たな国家としての幕開けが迫ってきた時、改まったクラウスに呼び出された。
「……すまない、忙しいのに呼び立ててしまって」
「いいえ。大丈夫よ。最近は落ち着いてきたの」
気まずい沈黙が流れる。
実は、ここ数カ月は事務作業や会議、モリー達の回復に追われていて、折角両想いになったはずの彼と仕事以外では殆ど会話を交わせていなかった。幸いモリーは喋れる程度には回復したが、私の顔を見る度に『ごめんなさい、ごめんなさい』としか口に出さないという恐怖心の塊のような状態になっていた。ジョン=ブレメンスの方は、元々精神が弱かったのかもしれない。赤子のような言葉しか話せない状態のままだ。しかしモリーが熱心に世話をしていたので、そのうち誰かの手を借りることなくある程度の生活は送れるようになるだろう。
しかし私は自分の周囲のことばかりを見ていて、肝心の一番大切にしたい相手に対して放置という最低なことをしてしまっていた。
クラウス自身が、私が忙しくしている時に『今はやりたいことを、やるべきだと思ったことを優先してくれ』と言ってくれていたその言葉に甘えてしまったのだ。
だからこそ今の彼が何を考えているか分からなかった。
あまりにもクラウスが緊張している様子なので、もしかして自分はこの場で振られてしまうのでは?やっぱり友達の関係性に戻りたい、なんて言われるのではないかと嫌な想像ばかりをしてしまう。
どれくらい沈黙が続いただろうか、我慢の限界が訪れて、私から話を切り出そうとした瞬間にクラウスが口を開いた。
「俺と結婚して欲しい。俺はソフィアを一番近くで護る男として共に居たい」
「え――本当、に?」
「ああ。それに、夫婦であれば一緒の部屋を使っても良いし、なによりも周囲もこれからは牽制できる。最近、分からないことはすぐにお前にという雰囲気があるだろう。もうこの国の人間達も独り立ちしたほうが良い。俺がそれを牽制してやる」
事実である。
人間、有能かつ確実に仕事を熟してくれる人間がいれば、頼ってしまうものだ。
それに独り立ちさせた方が良いというのも、私が最近感じていた事だ。だからこそ、この求婚は良い機会なのかもしれない。それになによりも、私が彼と共に『夫婦』として在れるのをとても嬉しく感じていた。
私の中にあるのは、母のようになってしまう恐怖ではない。好きな人と共に在れるという幸福感と、この人を大切にしていきたいという気持ちだけだった。
「はい。貴方の求婚を受け入れます。私と結婚してください」
自然と顔が綻んだ。
聖女としての柵から解放された私は、今日、大切な人と新たな一歩を踏み出した――。
これで完結です。現状は、サミュエルと結ばれた場合は?というルートもそのうちアップロードする予定です。(他の作品の連載が落ち着いたらですが)




