61.
『俺もお前について行く』。
その言葉と共にハルトリッヒは私のブレメンス行きへの同行を願い出た。
「さっきも言ったと思うけど、国王ひいてはブレメンス王国自体と対立する可能性が高いのよ?」
「そんなこと、分かってるが?」
「……そう。ならご自由にどうぞ」
止めても聞かない。ハルトリッヒは既に覚悟を決めてしまっているようだった。
だからこそ自由にさせた。この手の人間は、自分が一度決めたことは曲げないのだ。だからこのフィオレント帝国に強制的に置いて行こうと、その覚悟の強さでフィオレントの王都を破壊してでも私についてきてしまうだろう。そんな予感があった。
私は仕方がないと諦めて納得した。しかし、このハルトリッヒの選択に納得できない者が二人いた――。
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「ダメだ。信用できない。そんな人間に知らない土地で背中を預けられない」
「僕もこれ以上男が増えるのは嫌だな」
「これ以上男が増える?もしかしてブレメンスにまでついてくる気なの!?」
上からクラウス、サミュエルの意見。まるで一緒にブレメンスに行くかのような二人の物言いに戦慄する。
何をとぼけたことを言っているんだ。意味が暫く飲み込めなかった。
「え……当然そのつもりだったよ」
「来ないでって言っても?」
「王族としての立場をフルに使ってでも同行する!!」
正直なところ、私の事情を知っていると言ってもサミュエルとクラウスはついてこない……否、心配して同行を願い出られたとしても置いていくつもりだった。
これは私自身が自由のみを得るための戦いだ。ブレメンスに到着してしまえば、休む暇もないくらいに戦いの連続になるだろう。
裏切らないという面に於いては人間としても信用しているし、戦闘面ついても信頼している。けれど。
「サミュエルはともかく、クラウスにはそこまでしてもらう義理はないわ。貴方には直接関係がないことだもの」
そう。私と彼ら……特にクラウスは、生死を懸けさせるような仲ではない。
内に秘めた気持ちは置いておいて、これは関係性の問題だ。サミュエルについては勝手に『ソフィア=トリプレート及びフィーア=アドラインを命に代えて守り続けること』などという命を懸けた誓いを立てていたから彼がついてくるのはもう諦めよう。
しかしクラウスは何か制約があるわけではないのだ。
「あはは!じゃあクラウスは留守番だね!!」
「留守番などするつもりはない!!!何故この軽薄男は同行が許されて、俺は許されないんだ。それに関係がないとは聞き捨てならない」
「そこの軽薄男は、馬鹿なことに『私を守る』という死の制約を立てているのよ。だから同行を許可した」
「……お前、重すぎる男は嫌われるぞ?」
「人の事言えないくらいに重いくせに、なんでクラウスは引いてるの??」
やはりというかなんというかサミュエルがやらかした死の誓いについてはクラウスは知らなかったようだ。
死の誓いなんて聞けば、ドン引きという反応になるよなとクラウスの行動を見ることで自分の中の常識を肯定しながら、話を続ける。
「私の立場や事情は話した。でもブレメンスなんていう危険な場所にクラウスを連れて行く気はない」
「いや、俺も同行する」
「だから、貴方にそんなことをさせるわけには――」
「好いた女が危険な場所に行くと分かっているのに、何も言わずに軽薄な男と、敵か味方か分からない男に任せて平気でいられる男がいるとでも?俺に好きな女も近くで守れないような負け犬になれと??」
好意をハッキリと口に出して言われて、押し黙ってしまう。
クラウスが嘘を吐くような人間ではないと分かっているからこそ、このように気持ちを表に出されると、どう反応していいのか分からなかった。
「それと、関係がないなんて言うな。俺はソフィアの事が好きなんだ。守れるのであれば、死の誓いを立ててもいいと思えるほどに――」
「うっわ。僕の事重いって言ったの謝ってね」
「サミュエルは黙ってて。クラウスも、もう分かった。ついてきていいから、そういう馬鹿な真似はしないで」
私の返答を聞いて、クラウスは満足そうに笑う。
死の誓いパート2をやらせるくらいだったら、まだブレメンスに一緒に来てくれる方がマシだ。サミュエルと同じ誓いなんてされた日には、その命に責任を持ちきれずに心が折れそうだ。
サミュエルもとんでもないことをしでかすが、そんな人間の近くにいたクラウスも放っておくと何をしでかすか分からない人間だと分かってしまった会話だった。正直、周囲にこんなイカレポンチばかりだなんて事実は知りたくなかったが。




