またもや殺し合い
ミモザを屋敷の前まで迎えに行きましたが、あんなボロボロになってさ。でも、私を見た瞬間の顔。儚い笑顔、ずるいね。お陰で私も色々零れそうになっちゃった。
でも、それは出来ないんすよね。公人だから。贔屓はするが、心情的な入れ込みはお互いに不幸になる。多分。だから手を握るぐらいしか……向こうはすごく嬉しそうだったからまぁ……うん。
「円卓を使用してもよろしいでしょうか?」
「いいわ。自由に使いなさい」
「軍機上の図もありますが、こちらは並べても?」
「並べていいわ」
「承知しました」
クラリスの問いかけにざっくり答えながら、大会議室を見渡す。会場の中央にあるのは、ブナの大卓。それに臣下と護衛の皆さん。兄上や他の皆は準備と待機っすね。
定例の幹部会議ならもうちょい小さいとこでやるんすけどね。今回は並べる資料とか、出入りする人間も多いし……。
幹部、準幹部はてんてこ舞い。整理されてない資料、錯綜する報告。この文明レベルで、爆破から半日も経ってない。ここに幹部全員が集まってるだけ奇跡ではあるんですけどね。なお、全て始まりにすぎない模様。嫌になっちゃう。
勿論私は椅子に座り込んで、状況を整理する役です。まぁ、裁定する役でもあるんすけど。……兄上が居るんで様子を伺いつつではありますが。
色々並べられる中、私は一旦ぼんやりします。会議前に頭使ってもしんどいんで……。あ~最悪。嫌なタイミングなんだよなぁ。私が嫌ってことは、向こうからすれば最適ってことだ。もう既に、事故じゃないのは確定しちゃったし。
「お嬢様」
「何?」
「準備が終わります」
「なら、皆を集めなさい」
「了解です」
クラリスが近くの兵を呼び、兵は敬礼と共に部屋の外へ。これは指揮系統を明示してない私が悪いんだけどさ。クラリスもそうだけど、領軍は近衛とあんまり連携しないというか。そりゃそうなんだけどさ。
非常時だからこそ、軍の系統が二つあるのが微妙な方向に出てるというか。領軍と近衛、不仲の気配があるよね。しかもさ、この空気の中に兄上の護衛も入るんですよね。私の胃が壊れるぞ。素で貧弱なのに。
数分でゾロゾロとバラバラに皆がやってくる。ミモザは別室で寝てもらってます。イリルと色々連携してたし、多分大丈夫でしょう。流石にあの状態のミモザを会議に出すのは……ねぇ。
先生、カミラ、ローナ、ダフネ、兄上とその護衛が最後っすね。ロブとクラリスは最初から此処に居るし……。とりあえず兄上には、奥の上座に座っていただく。疲れは無さそうですけど、厳しい表情ですね。
「全員、集まりました」
「よし。座っていいぞ」
クラリスが告げ、兄上が応える。そうして座れる者は座りましたと。そう、今は私が一番上ではないので……。静まり返った部屋、ヒュゥゥと外から吹く風の音が聞こえた。気まず。
兄上が周りを一通り見て、私に向かって頷く。あ、はい。後はお前が、ですね。了解です。
「皆、ご苦労様。混沌とした状況の中で、全員が生きて此処に集まれている事を、素晴らしく思うわ。……一名は別室で眠ってるけど、命に問題は無いわ。安心していい」
一旦言葉を切り、場を見渡す。緊張は若干ほぐれたか……たぶん。早速本題に入りたいけど、前置きがあるんですよね。
「……知っての通り、この場には次期フェロアオイ家当主たるヒュー・ギッセル・フェロアオイ閣下がいらっしゃる。……皆、ご挨拶を」
まぁ無礼かましても私が後で怒られるだけなんで、頑張ってくださいな。……挨拶の順番、連携するの忘れてたわ。大丈夫か?緊急時だし、結構もうみんな一杯一杯だし。私もそう。
とりあえずカミラが立った。身分が上の者から順に挨拶なんすよね、王国式は……。一旦よし。
「メーザリー侯爵家夫人、カミラ・セシリー・メーザリーが御挨拶を申し上げます。ご機嫌麗しゅう、閣下」
「あぁ。当主が不在の中、不肖の妹が来るまで都市を維持した事、私は覚えているぞ。メーザリー夫人、その忠誠を嬉しく思う」
「勿体なき御言葉、感謝いたします」
そう言って、カミラは綺麗なカーテシーを兄上に見せる。流石っすね、慣れてるわ。社交の話で言えば、私より当然場数踏んでるからなぁ。むしろ統治ばっかで、社交ほぼ出てない私の方が危ないまである。
ダフネは……挨拶済み?だしいいか。ローナ、行けるか。とりあえず立ち上がってくれましたね、顔ガッチガチで色ないけど。
「平民の身でありながら、閣下に拝謁出来ました事、光栄と思います。ローナと申します!」
腰を折って礼をするローナ。平伏させます?と兄上に目くばせを飛ばしましたが、首を横に振ってくれましたね。まぁ、呑気に全員分平伏させる訳にもいかないし。
「平民。商家の礼だな、妹によく尽くせ。それでよい」
「より一層、努力して参ります……!」
兄上はクラリスを知ってるか?微妙だな……。まぁ非常時なんで許して。後は私から言っとけばいいか。
「兄上、クラリスは御存じで?」
「あぁ、知っている。久しいな、訓練場以来か?」
「一兵卒たる私を覚えていて下さり、感謝いたします。仰る通りです」
「引き続き、妹によく尽くせ」
「忠を尽くします」
軍式の敬礼、大丈夫そうっすね。……先生がめちゃ気まずそうにしてます。一人だけ農民出ですもんね……。一番身分としては低いっすから……。
皆の副官ぐらいまでいるから、全員やると長い。後は一旦流して、落ち着いたら別で兄上と話しとけばいいか。
「兄上」
「なんだ?」
「残りの臣下は後でもよろしいでしょうか?」
「……構わんぞ。非常時だ、既に長いか?」
「二度目が無いとは言い切れませんので」
「そうだな。では、始めよう」
兄上の了承も取れたので、挨拶地獄は回避出来ましたと。よし、概況から始めるか。一応クラリスに頼んでます、例によって視線を飛ばす。髪と同じ灰の目と、目が合いました。いけそう?……よさそう。
「では、クラリスより概況を。よろしく」
「はい。皆様、卓に広げている地図をご確認下さい」
全員で円卓を覗き込む。円卓にはシリッサの地図が広げてありますね。区画ごとに分けてる奴です。軍の管区で分けてるけど、兵力とかの詳細は無いやつ。機密的には三番手ぐらいの地図っす。
「今回、爆発が発生したのは此処になります」
その中の一点をクラリスが指差す。第二火薬保管庫ですね。シリッサ東門の外にある、建設とかで使う火薬とか薬品置いてたとこです。非常に困る、マジで困る。
皆、一様に集中してますね。表情をざっと見るが、流石に怪しい者は無い。先生、カミラぐらいの幹部は疑ってないからいいんすけど。副官級はワンチャンありますからね。幹部級の裏切りあるならもうしゃーない。大人しく死にます。その場合は、私が多分悪いし。
「場所は第二火薬庫。時刻は13時半前、正確な分秒は不明。被害は庫内当直の5名が死亡と推定、負傷者10名。損害は数か月分の建設並びに解体用火薬、実験段階の薬品が全損。更に山崩れで東門が埋まり、復旧には6日程度の時間が必要となります」
先んじて聞いてたけど、やっぱ~キツいよ~。知識チート用の実験品、危ない奴はここに入れてたんだよね。しかも火薬が全損て、建設とか解体止まるじゃん。祝祭用の花火も全損……。東門埋まったって、地元民は東門をメインで使ってるんですけども。……おなか痛い。
「……回収は?」
思わず聞かざるを得ない。
「不可です。山崩れで発掘になり、埋没物の性質上、危険かと考えます」
「……忘れて頂戴。回収は無しでいいわ」
「承知しました」
ですよね。正直に言ってくれて助かるわ。ピッケルで山崩れ叩いたら爆発とか笑えんし……。薬品もちょっと危ないしな。一旦、東門復旧の話は後にしよ。あ、攻撃って言ってないわまだ。皆、薄々気づいてるだろうけど。泳がせてもそれっぽい反応ないし、言っとこ。
「……一応、前提の共有をしておくわ」
全員の顔と目が私に向く。真剣で、覚悟が決まってそうで大変よろしい。この件はしんどいぞ。私の予感は当たるんだ。
「これは事故では無く、敵の攻撃よ。皆、その前提で聞きなさい」
空気が張りつめ過ぎて、もうなんか言葉にならないっす。全員、人殺せそうな顔してますね。私のぽわぽわ臣下達も、怒りと真剣と思考が入り混じった顔してます。そりゃそうだよね。
「続けていいわ」
「はい。……同時刻、二箇所にて襲撃発生。一箇所目はここです」
そうやってクラリスが指差したのは、公庫。ミモザ含め、一番被害が大きかった場所になる。多分。もう一箇所は防衛に成功してた。はず。
公庫の職員も数人、ここにいる。筆頭の爺さんも居るが、顔から悔恨が滲み出てる。身体に力も入ってるように見える。私からは、そう見えた。
「場所は都市公庫。一次報告となりますが、死者は財務長の護衛1名、警備兵6名、職員2名。負傷者は護衛4名、警備兵11名、職員6名、民間人2名です。損害は一時保管庫に置かれていた貨幣、窓口側に残置されていた決裁書、簡易決済用の印鑑となります。また、一時保管庫から盗難された金額並びに、残置決裁書の内容は現在確認中となります」
「主帳簿、大金庫は無事と見ていいのね?」
「それは」
「私から、報告させて頂いてもよろしいでしょうか?」
筆頭がいつになく真剣な声で話に入ってくる。いつもこの人は真面目なんですけど、今はそれに硬さがある。拒否する理由もないし、いいよ。
「構わないわ」
「財務長が守られた主帳簿を確認いたしましたが、大金庫の外に保管されていた帳簿は全て揃っておりました」
「事実ね?」
「命に誓って。……そして、大金庫も襲撃直後に施錠いたしました」
「……先に言う、疑う訳ではないの。事実なら、褒賞に値する働き。だからもう一度聞くわ、両方事実ね?」
「私の、全てに誓って」
マジ?いい働きってレベルじゃないぞ。事実なら、私が最も守りたい部分は完全に守れた事になる。ともあれ、一旦は二次報告待ちですけど。でも筆頭が嘘言ってるようには見えないし、後ろの公庫幹部たちも特に嘘言ってるみたいな感じじゃないし。いや、疑いたいわけじゃないんすけど。いい報告すぎて信じらんないというか、いや被害は激キツではあるんですけど。
何より、兄上の前でここまで強く言えるなら本当なのだろう。私はそう思います。……一応、後で調べるけど。
「……褒賞は確定してからになるわ」
「……役割を果たしたに過ぎません。真に褒賞足るは、職務を死まで全うした者。そして、ミモザ財務長かと愚考します」
「謙遜が過ぎるわ。後ろの諸君も含め、よく責務を全うした」
「勿体無い御言葉です」
筆頭に後ろの数人も含め、深い一礼で返してくれました。……これは予想でしかないけど、規模的に主攻は恐らく公庫だった。数、被害、そして盗まれた物の内容を見る限り。向こうにも恐らく組織がある。でなければ、持ち出す意味の無い物が持ち出されている。印鑑、公文書は分かってないと盗らない。
筆頭が座ったのを見て、クラリスに続きを促す。よろしく。
「……二箇所目はこちらになります」
そう言って、クラリスが指差したのはカミラ邸。はい、カミラとローナが居た場所も襲われてます。教会に居た先生、筆頭その他と知らなかったメンバーが静かに驚いてますね。
ここは行政の重要地点。これも敵が組織で来てる説の補強になってますね。行政、金融、私のとこだけ襲われてないのが分からないですけど。防備の問題か?
「場所はメーザリー侯爵邸。こちらもほぼ同時です。被害人員は領軍のみ。死者1名、負傷者12名。損害は邸宅外壁、正門、庭園の破損。また、周辺の邸宅において一部略奪、破壊も発生しているとの事」
こっちは完全に破壊工作、陽動っぽいんすよね。後で対策の話もやるけど、敵の質が明らかにこっちは低い。……まぁ、効くんですけど。周囲の貴族邸宅を巻き込んでるのがダルい。こっちが場合によっては補償しないとですし、何よりあの辺はシリッサ旧勢力の貴族が多い。遅延や詐欺を含めれば、相当手を焼く羽目になりそうではある。あぁダル。全員殺したいわほんと。人殺すのってパッと見さ、楽そうに見えるんだよね。上からすると。やると敵に大義が渡るからやんないけどさ。
カミラとローナをそれぞれ見る。こっちはミモザと違って主構造物に入られてない分、落ち着いてるが……。カミラは静かで凪いだ目、ローナはまだ若干動揺してるか。取り乱してないだけで偉いっすよ。
あ、聞きたいことあったわ。危険な思考で忘れるとこでしたね。
「火は?」
「邸宅に一度付けられましたが、増援は間に合い、既に消火済みです」
「よろしい」
メーザリー邸と領軍駐屯地は近所ですからね。同じ区画にあるんですわよ。だから本気で襲ってない説もある。難しいね。火傷組が増えてもらっては困るし、よかったよかった。
「本攻撃に関連する襲撃は以上となります。他、爆発の余波が原因と考えられる内容としましては、スラム区画の一部にて動揺、商業区画の一部にて窃盗が報告されております」
まぁ、順当な感じで問題が起きてますね。スラムは教会の近く、商業区画は公庫があるとこっすね。火事場泥棒は当然出るのは仕方ない。あ、対策の状況聞いてなかったわ。
「対応状況は?」
「はい。スラムの動揺は教会によって収拾済み、商業区画の窃盗は軍の巡回を増やして対応中となります」
「人手は?」
「全域で不足しております」
ですよね。平時で結構きっかり分けられてるし、訓練中も多いからなぁ。とはいえ現況、訓練兵を市街の前線に出すのは忠誠、能力的にも危険か。うーむ。一旦、兄上の滞在予定を聞いてみるか。
「……兄上」
「何だ」
「本家には戻られますか?」
「……いや、事態の収拾が必要と考える。そも、退がってどうする?」
「御滞在はこちらで?」
「他に何処がある?」
「でしたら、屋敷の」
「護衛は受け持つ。お前は街に注力しろ」
「感謝いたします」
兄上に対して優雅に一礼する、私。兄上が居てよかったって気持ちと、居て困るって気持ちが同居しまくってますね。屋敷の防衛にぼちぼち人手割いてるし、そこが減らせるのはデカい。薄くしていいのかって?兄上の護衛はガチの精鋭かつ二十人近く居るんで、余裕で事足りますね。よかった。
「クラリス」
「はい」
「兄上が屋敷の防備を受け持って下さるわ。警備分の人員、使っていいわよ」
「……感謝いたします」
何か言いたげっすね。まぁ分からんでもないけど、非常時なんで勘弁。……近衛の皆は私の使いっ走りになるって話も後でやっとかないと。伝令が増えるからね、絶対。
まだ会議は続きますけど、被害の報告はここまでかな。若干脱線したけど。クラリスの目を見る。若干、不満気ですけど報告はここまでらしい。よし、締めてくださいな。
「状況と被害は以上となります」
食らったダメージはここまで、後は敵の予想とその対策っすね。
「続けて私から、敵方の損害と敵勢力の予想を話していくわ」
まだ何も確定してないが、敵の影は色々と見えている。全員を見回す。……いい顔ですね。困惑無し、怯え無し、流石幹部級。全員覚悟決まってんね。じゃなきゃ任命してないと言われればそう。
「前置きが一つ。これから私が述べる内容には予想の部分も多く含まれる。故に、諸君の持つ知識と違う内容があれば、訂正しなさい。これは命令とする」
……よろしい。さて、頑張りますか。全力は常に尽くしてましたけど、ここからは本気だ。今回は教会と違って準備がない。こっちが不利な戦いだ。
そして、時間制限もある。この辺は後で話すけど、ぶっちゃけ勝つだけなら余裕だ。多分。
「全員、少しだけ目を閉じなさい。…………休憩は出来たわね?」
民の為、安定した治世の為。敵は叩き潰されなければならない。何であろうと。この家に生まれた時点で、貴族を粛清した時点で、クレアを吊った時点で、私は延々と覚悟し続けている。
一度手を叩き、全員の注目を集める。……疲れてるだろうけど、もう少し頑張ってくれ。ほぼ沈んだ陽を背に、私は息を大きく吸い、吐いた。
……また殺さなきゃならないのか。ほんと、やってらんないわ。




