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横田広域警察24時  作者: 魚河岸ボブ
第1章 転生したらバイオレンスな法強制執行者になりました
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- 渾名で呼び合う関係 -

「コールサイン?」

 斉藤氏が微妙な顔をしている。昼食後の眠気も相まって、非常に間抜けな顔だ。人前でそんな顔をしない方がいいと思うぞ。

「YPDではコールサインを使う文化があるんだね。多分、慣れると便利だよ」

「ああ、そういうことか…マーベリックとかグースとかだろ?何それカッコいいじゃん!」

 斉藤氏は昼寝モードから覚醒したらしく、やたらハイテンションになっている。そうだね、カッコいいよね。でもちょっと落ち着こうや。


 間もなく研修が終了し各部署に配置になるというタイミングで、「コールサイン付与式」という名目の宴会が開かれることになった。昼休みに唐突に通知され、ちょっとしたざわつきを招いている。


 固有識別無線呼出符号…長いので「コールサイン」と呼ばれているが、要は無線で使うニックネームのことだ。無線で実名を名乗ることは御法度であり、かといって「マルヒト」とか「ゼロスリー」などと呼んでも"誰"までは識別できないため、予め個人毎に固有のコールサインを付与しておこうというアイデアですね。ちなみに航空自衛隊でもパイロットや兵器管制官が「TACネーム」という名称で使っている。

 いちいち「加藤捜査官」とか「斉藤警部」みたいに名前を呼ばなくても「マコ」「マーベル」と一言で済むので、無線を占有する時間も減って都合がいいシステムです。あと、本名より覚えやすい…!


 私達のコールサインは本人の希望と、新人研修でお世話になった講師の意見を踏まえて副署長が決めるらしい。ちなみに斉藤氏は最近アイ◯ンマンにハマっているせいで、「俺は絶対にマーベルがいい!」と鼻息を荒くしていた。

 心配しなくても、お披露目の前にさりげなく通知されるから嫌ならその時に変更出来るって言ってたけどね…。


 宴会、もといコールサイン付与式は16号沿いのダイナーを貸し切って行われる。一応、個人情報に配慮したという建前らしい。新人10人に加えて非番で暇な署員が集まり、合計で30人ほどが集まったようだ。


『これより202X年度横田広域警察新入署員コールサイン付与式を行います』

 ビールで乾杯の後、くだけた雰囲気のパーティが始まった。

 タワーバーガーに挑戦した同期が涙目になっているのを尻目に、私はとりあえず全員と声を交わそうと心に決め、会場をウロウロしていた。人見知りする私にはなかなかにハードな試みだったが、みんな気さくでいい人だったからか、案外すんなりと挨拶して回れた。


『それでは、コールサインの発表です!』

 ワイワイしている中でコールサインが発表される。みんな耳は傾けているが、静まりかえることはない。なかなかユルい感じで、こういうのは嫌いじゃない。ちなみに五十音順なので私の順番はけっこう早めに来る。発表された時に一言挨拶すればいいだけらしい。ユルユルな式だなぁ。


『加藤眞、コールサイン"マコ"!』

「ありがとうございます!マコです」

 危ない危ない、猫の話題で千代ちゃん達と盛り上がり過ぎて自分の紹介をスルーするところだった。千代ちゃんは相当な猫好きらしく、もっちょんとチャーちゃんの昔話にグイグイ食いついていた。今は黒猫と妹が一緒に住んでいる、という話をしていたら斉藤氏が現れ、更にワイワイしてしまった。


『斉藤大吾、コールサイン"マーベル"!』

「あざす!」

 斉藤氏も無事にマーベルを名乗れるらしい。マーベルコミックのヒーローにハマって云々と興奮しながら説明している。周りも生暖かい目で見守っている。優しい世界だ。


 この後も紹介が続き、千代ちゃんは「ミーア」になった。もしや、ミーアキャットか…?


「もしかしてミーアって、ミーアキャットから?」

 恐れ知らずの斉藤氏の質問に千代ちゃんが恥ずかしそうに頷く。

「なるほど!らしいっちゃらしいけど、ミーアキャットって猫のことじゃないよな…?」

 斉藤氏が私に振ってくる。いやそうだけどさ、千代ちゃん恥ずかしそうにしてるじゃん?もう少しオブラートに包んだほうがよくない?

「知ってはいたのですが、響きがこう、猫っぽいからいいなと…」

 顔を真っ赤にした千代ちゃんが答える。恥じらう姿は新鮮だけど、顔が赤いのは手に持ってるテキーラのせいだな。あれ、千代ちゃん酒は強くないって言ってたけど大丈夫か?


 全員のコールサインが滞りなく発表され、しばらく歓談が続いた後、和気藹々とした雰囲気のまま宴会はお開きになった。

 酔っ払った千代ちゃんは「こういうのもたまには良いのぅ」とえらく上機嫌で、みんなからペコちゃんと呼ばれている女性の同期が家まで送ると言っていた。


 私も、ここにいる全員と話ができたのでよかった。

 これから厳しい任務が始まる。今後、全員が無事でいられる保証なんてない。先輩達も含めてできれば全員無事で任期を終えられたらいいけど。


 さて、同期のコールサインが決まったので、発表された配属先と共に覚えておこう。


捜査課

私→マコ:名前というか渾名そのまま。

斉藤氏→マーベル:今ハマっているアメコミのレーベルから。

千代ちゃん→ミーア:猫っぽい響きが好き。

陸自コンビのゴリマッチョの人→ドンキー:某有名ゲームソフトのキャラクター名。

陸自コンビの細マッチョの人→ブルース:なんとなくブルース・リーみたいだから。本人もブルース・リーのファンらしい。

分析官候補のリケジョ→サクヤ:神話に出てくる女神の名前から。本人はメチャクチャ恥ずかしがっていた。

刑事課

サラリーマン風の警部補→チョーさん:本人が大好きな刑事ドラマの登場人物。

スポーツ万能のイケメン→クロ:苗字が「黒木」だから。付け方がやけに雑な気がする。

ゆるふわ系女子→ペコ:洋菓子店のキャラクターから。

外事課

マルチリンガル天才青年→ボンド:多才過ぎて「スパイやってそう」と宴会で盛り上がってたら本人が気に入ってしまった。


…こうしてみると、なんか私だけパッとしないというか、キャラが立ってない気がする。

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