6話「話すきっかけ」
さて、アリスはどこに行くのだろうか。
やっぱり町中だろうか。
「シレン、この町で一番品揃えが良いのはどこですか?」
「そりゃ、町中のアルウィン通りだろ」
アルウィン通りは祭りでなくても、露店が毎日列なっている。
あそこの品揃えはザッカリアに負けていないからな。
大抵の物は手に入る。
「では、そこにしましょう。シレン、案内をお願いします」
「りょーかい」
アルウィン通りに向かって歩いているが、アリスは白いフードでずっと頭を隠している。
本当に気になるな。
「なぁ、なんでフード被ったままなんだ?」
「私の髪は目立つんです。銀の髪なんてそうそう居ませんし。
それに髪の色から私の正体がバレないとも限りませんし」
考えすぎだと思う。
死んだ勇者の髪の色については歴史書に記されているが、三百年前の人物がいるとは誰も思わないだろう。
だが、アリスの髪はたしかに目立つ。
アリスは美少女だ。
隠さないと注目されて一緒に行動しにくくなるな。
「なるほどな」
アリスの意見も一利あるので賛同し、相槌を打った。
……話題が尽きた。
まだアルウィン通りまで距離がある。
何を話そうか。
普段、アリスとは修行以外会話をあまりしないので何を話したらいいのか分からない。
いい天気ですねとか会話するのはどうだろうか。
いや、それは何か違うな。
初対面の人と会話するときに使う言葉だし。
アリスの話題か……。
アリスの昔話とかはどうだろうか。
話してくれるかな。
アリスって普段無口だし、昔のことを話すことが好きじゃないかもしれない。
アリスに質問すると必ず答えが帰ってくるが、本当は嫌がっている可能性もある。
顔の表情はあまり変わらないので、アリスが喜んでいるのか、怒っているのか、はたまた悲しんでいるのか俺には分からない。
もっと表情を顔に出して欲しいと思う。
そうだったら、俺もアリスのことが理解できるかもしれないのに。
「シレンは、ニーナ嬢のことをどう思っているのですか?」
思いがけないことにアリスから話題を振ってきた。
ニーナのことをどう思っているか、ね……。
俺にとって、ニーナは家族であり、世界で最も大切な人の一人だ。
きっとニーナが家から居なくなったら、俺は部屋から引きこもって出てこなくなるだろう。
それぐらいニーナのことは大切だと自負出来る。
しかしやはり俺にとって、ニーナは家族であり大切な人、ただそれだけだ。
ニーナの好意には薄々気付いている。
そうじゃなきゃ、普通自分の方からヤリませんかとは言わないだろう。
だが今の、家族という関係が壊れてしまうのが怖い。
臆病で卑怯だと自分でも思う。
ニーナの優しさに甘えているのは分かっている。
それでも、一度この関係が壊れてしまえば、取り返しのつかないことになる。
俺はニーナを傷つけてしまうことが怖い。
自分の手で大切な人を傷つけてしまうことが一番怖い。
「家族だ」
アリスにこれしか言えなかった。
俺の言葉を聞いたアリスは、複雑そうな表情で黙り込んでしまった。
気まずくなった。
とりあえず、片っ端から思いついた話題をこっちから振って場の空気を戻さないと……。
思いついた。
歴史書だと、アリスの故郷はこの町だったよな。
三百年前とどう違っているのか聞こう。
アリスがノリ気になってくれたなら、ここからアルウィン通りに着くまでの三十分は保つはずだ。
「アリス、この町は昔と比べてどのくらい変わってるんだ?」
「あ、えっとですね……。例えばここの宿屋ですが、昔は鍛冶屋だったんです。
道路も昔は今のような石造りではなく、土のままでしたよ。
それから──」
アリスは昔の故郷のことを話すことが好きだったようで、ずっと俺に説明してくれた。
昔は今とだいぶ違っていたみたいだ。
当然か。
三百年も経てば、流石に町並は変わるもんな。
「あ、着いた」
アリスの話は意外に面白く、俺も時間が経つことを忘れていた。
「ここが、アルウィン通りですか……。私がいた頃と比べて、随分活気がありますね」
「昔はこうじゃなかったのか?」
連なる露店を指差す。
「ええ、私の頃はここの地区は確かスラム街でしたよ。肥溜めのような場所だったのを覚えています」
それは初めて聞いた。
ここがスラム街だったとは信じられないな。
アイテムを叩き売りする商人。
値下げ交渉を進める冒険者。
様々な人の声が行き交い、活気に溢れているこの通りがスラム街だったとは、俺にはとても信じられない。
「ここがねぇ……。
そういえば、買い物に付き合ってと言ってたけど何を買いに来たんだ?」
アリスの目的は買い物だ。
何を買う予定なんだろう?
「ニーナ嬢に、特製の秘薬を作ろうかと思いまして。そのための材料を買いに来たんです」
ニーナは熱を出して休んでいる。そのための薬を作るつもりだったのか。
だが、市販の薬なら屋敷に置いてある。
ああ、だから特製の秘薬なるものを作るつもりなのか。
アリスの知識は測り知れない。
傷を治してもらった時もそうだ。
俺の知らない言語を巧みに操り、魔術を行使していた。
アリスならば、俺たちの知らないような、熱に効く特別な薬の作り方を知っているのかもしれないな。
「どんな材料を使うんだ?」




